第10話 饗宴のための2つの組曲

 家族3人揃った食事の席で、カルマは離乳食のオートミールをはぐはぐと食べながら、父、ハインリヒの言葉に耳を傾けていた。いや、聞き流していた。


 さっきの謎の声と変な使命と能力についてのことをひたすらぐるぐる考えていた。


 乳母は掃除の時の水魔法、大変便利そうだった。まるで家事をするために生まれたみたいな能力だよな、って言ったら乳母に失礼すぎるか。それとも、乳母は昔家事以外で水魔法を使っていたのかな。


 母は……あのキラキラ?きらきら星を歌う時、キラキラも僕に振りかけてくれた。朧げながらそんな記憶がある。でも、母が家事や生活でキラキラ魔法(仮)を使っているのを見たことがない。あのキラキラはぼんやり光るが、辺りを照らしたりはできないので、生活では使えないのだろう。


 癒し効果はすごいんだけどな、あの光を見ると心がほわほわしてすぐに眠ってしまうのだ。


 父はどんな魔法か知らない。これから知る機会があるかな。父は魔法を仕事に活かしているのだろうか。


 そして僕の魔法は、音楽保存魔法!!

 ……地味すぎないか?いや、便利なんだけども。音楽家になる以外使い道ないだろ、これ。音楽好きだからいいけどね。


 とりあえず、当面の目標は赤子らしくこの世界を知り、言語や常識を獲得することだ。


 そして、音楽家になる準備もしておきたい。現世で音楽を少しでも齧ったことがある僕だから分かることだ。音楽は本当に難しいのだ。その分楽しいけれどね。


 僕は名曲を人一倍知っているはずだ。あんなに毎日動画サイトで漁っていた。吹奏楽曲、クラシック、ジャズ、ボーカロイド、ゲーム音楽、テクノ、ロック、ラップ、etc……。なんだって聴いてきたし、かなりの精度で再現できるはずだ……。僕の能力があれば!


 異世界一の作曲家だって夢じゃない。皆が僕をほめたたえるだろう、音楽好きなことで肩身が狭い思いをすることはもう二度とないのだ。


 「……カルマも?」


 母に名前が呼ばれたと思ってどきっとする。そういえば、さっきからオートミールを食べるスプーンがすっかり止まっていた。母にそれを咎められるかと思ったが、母は僕の方ではなく、父の方をじっと見ながら言った。


「ああ、王はそれを望んだ……」


聴きなれない低い声はリスニングには適さない。僕は父が話す言葉を明瞭に聞き取れなかった。そもそも知らない言葉だったかもしれない。


「そう。よかったわね、カルマ。王様がカルマを見たいそうよ」


母がこちらを見てにこりと笑う。良い事なのかな?それ。母が笑っているなら多分そうだろう。


「私は今から作曲に取り掛からねば……。今年用のたーふぇるむじーくを作成せねば」


たーふぇるむじーく?聞きなれない単語に僕は疑問符を浮かべる。いや、どこかで聞いたことある気もするんだけど、なんだっけそれ?


父はそう言った後、ピアノの方へ近づき、そのまま腰を下ろして弾き始める。しばらく、典型的なアルペジオを滑らかに弾きこなす。へえー。すごい。そういえばさっき母も「あなたのピアノを聴けば~……」って言ってたっけ?ピアニストとかなのかな、テンション上がっちゃうなあ。


それから父はピアノの近くにある楽譜に一つ一つ音符を書きこむ。

あ、もしかして作曲家?だから、僕も変な魔法をもらったのかな。父の魔法もそれ系かな。ねえ、ちょっと僕にいろいろ教えてくれませんか?


僕はまだ食卓の椅子に座っていたのだけど、ばんばんと机を叩いて父にアピールした。あ、ちなみにご飯はちゃんと食べ終わった後だぞ、僕はそういうのはマナーがいいんだ、前世の影響でね。


「あらあら、この子ったらやっぱり音楽が大好きねえ。ねえ、お父さんピアノ上手でかっこいいわよね。でもね、お父様は今集中しておられるから、あとでね」


そして母に抱きかかえられながら部屋を退出させられた。言葉が交わせない赤子っていうのは不便だなあ。


 



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