9.唐揚げ

「おはよう」

「おはよう、山ちゃん」

「ねえねえ、あず。おれ今日、唐揚げ食べたいな」

「買ってきたら?」

「えー、作ってよお」

「やだ、めんどくさいし。自分で作ったら? 唐揚げ粉と鶏肉買って来て」

「……買ってある」

「は? じゃあ揚げたら?」

「……だって、怖いじゃん。油に入れるのって」

「は? ぽとんって入れるだけじゃん」

「それが怖いんだって」


「じゃあさ、今日出来るようになろう! 唐揚げくらい作れるようになってよ。はい、まずごはんを炊飯器にセットして」

「う、うん」

「はい、出来た? じゃあ、ごはん炊いている間に唐揚げ作りまーす」

「う、うん」

「鶏肉をちょうどいい大きさに切ってください」

「えっと、切れないんだけど」

「包丁はね、引くんだよ。……今度、あたしの包丁研ぎ貸してあげよう。でも押すんじゃないの、引くの。分かった?」

「う、うん。このくらい?」

「うんうん、いい感じ。ささ、全部切ってね。出来たら、見せて」

「え? そばで見ててくれないの? あずは何してんの?」

「あたし、映画の続き観たいしさ」

「ひどっ。いっしょに料理しようよ」

「……仕方がないなあ。じゃあね、サラダ作ってあげるよ。レタスあったよね」

「うん。……ねえ、こんな感じ? 出来たよ」

「じゃあ、粉まぶしてね。買って来たんでしょ?」

「うん。どれくらい?」

「自分で袋を見て入れて」

「うん。……はかりないけど、どうしよう?」

「だったら適当にふりかけて。いいんだよ、適当で!」

「……このくらい?」

「うんうん。じゃあ、油を入れて火を点けてね。その間に、粉をまんべんなくつけておいて」

「うん。……出来た」

「じゃあ、油に入れて」

「えっ」

「え?」

「あずが入れてくれるんじゃないの?」

「は? 自分で油に入れないと、唐揚げ作ったって言えないでしょ? 何言ってんの」

「……分かった。すごい、勇気がいるけど、やってみる」

「くだらない勇気! バカじゃないの? 誰でも出来るよ」

「ひどっ」

「ほらほら、油、熱くなってきたよ。ちょっと小さい肉のかけら入れてごらんよ。それで、じゅーって言って、上にすぐに揚がってきたら、温度ちょうどいいから」

「……えいっ」

「ちょっと! 静かに入れるんだよ、やめてよ、油はねるじゃん!」

「だってだって~」

「だってじゃない! ほら、じゅーって言って上に上がったから大丈夫だよ。大きいの、入れてごらんよ」

「ゆ、勇気!」

「その勇気、くだらないから」


「ねえ、あずが作ってくれたやつのがおいしい」

「あたしはさ、自分で味付けているからさ」

「え? ……知らなかった。今度、教えてよ」

「いいよ、簡単だよ!」


「あず、何書いてんの?」

「唐揚げのレシピ! 作れるようになってね」

「ありがと。頑張るよ。あのさ、ふたりのレシピ集つくらない? おいしいごはんの」

「いいね! 山ちゃんは何が作れるの?」

「オムライス!」

「じゃあ、山ちゃん、オムライスのレシピ書いてよ」

「うん」

「クリアファイルに入れればいいかな?」

「ノートに書くのはどう?」

「書き直すの、めんどくさいかも。それに、コピーでいいのもあるし」

「なるほど」

「じゃ、クリアファイル買ってこようね」

「山ちゃんとあずのおいしいレシピってタイトルにしよ?」

「なんか、変なののタイトルみたい」

「ひどっ」

「ねえねえ、この間の貝のレシピも入れようよ」

「いいね! ボンゴレとか?」

「そう、酒蒸しも」

「おいしかったね!」

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