6.煙草とキスと旅行

「ねえ、山ちゃん。ちゃんと煙草は消しておいてよ」

「あ、ごめん。消してなかった?」

「消してなかったよー。危ないよ」

「ごめんごめん」

「ほんとはさ、あたしの部屋の中で吸うの、嫌なんだから」

「でも、ベランダも駄目なんでしょ?」

「うん。お隣さんとかから苦情来ると困るしね。換気扇の下にしておいて」

「分かった。……ごめんね」

「うん。ちゃんと火を消しておいてね。……でもさ、止めるのが一番いいんだけど」

「あ、また、そういうこと、言う」

「だけど、身体によくないんだもん。煙草のにおい、するしさ」

「そんなに?」

「うん……キスも煙草の味するよ。煙草の味じゃないキスがいいなあ」

「煙草の味じゃないキス……誰としたの? 浮気?」

「バカじゃないの。そういう意味じゃないよ」

「だってー。心配じゃん?」

「心配なのは、そういう発想! 全く」

「あず……」

「ん……! ちょ、ちょっと待って」

「……だって……」

「んんっ……! ちょ、……ん……っ、だから、今日は!」

「あず~」

「抱きつかない! 今日は旅行の計画立てないと! 今日こそは! だって、ホテルの予約とかしないと。もう日にちないよ。……あん、もう!」

「だってだって~。いつ、他の男としたんだよう」

「それは、山ちゃんに会う、ずっと前……ちょっ」

「……あず、だいすき」

「……ちょ、ちょ、ちょっと! ねえ、旅行、いかないの? せっかくいっしょに休みとれるのに。行かないなら、あたし違う予定入れるけど?」

「うう。冷たい」

「冷たくない! ホテル予約しようよ」

「……うん。……ねえ、おれのこと、すき?」

「……ほら、どのホテルにする?」

「おれ、あずといっしょなら、どのホテルでもいい」

「あ、そういうずるい答え嫌いです。ちゃんと選んでよ」

「……これがいい」

「うん、いいね。雰囲気いいところがいいよね」

「そうそう」

「楽しみだよね」

「うん、楽しみ」

「ねえ、ちゃんとすきだよ?」

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