3.アクアライン

「ねえ、なんで動かないの? トンネルの中で渋滞って最悪なんだけど」

「あずが、用意遅かったから」

「何よ、あたしのせいなの?」

「あ、や、てゆうか、もっと早く出れば、渋滞しなかったよ、アクアライン」

「朝6時出発なんて、無理だから! 用意がいろいろあるの。お化粧とか日焼け止めとか、潮干狩り後の準備とか」

「……おれだって、準備したよ? 熊手とか」

「だって、潮干狩り行きたいって言ったの、山ちゃんじゃん?」

「でもさあ。あずだって、行こうねって言ってくれたよね?」

「うん、まあそうだけど。……こんなに朝早いって知らなかったの。……ごめんね」

「あ、いや、うん」

「運転気をつけてね」

「ありがと、あず」

「あたし、ちょっと寝る」

「え?」

「眠いもん。眠いとイライラしちゃうの。山ちゃんも、嫌でしょう? あたしがイライラしてたら」

「……おれ、あずとおしゃべりしながら、ドライブしたいんだけど」

「ドライブって言っても、渋滞していて動いていないじゃない」

「おれ、悪くない」

「何よ、あたしが悪いの?」

「……そんなこと、言ってない」

「ああ、もう、眠いからいけないのよ! コーヒー飲む! お菓子食べよっと」

「おれも」

「え? 山ちゃん、持って来たの?」

「え? おれの分、ないの?」

「仕方がないなあ。一口あげるよ」

「……ありがと」

「あっ。全部飲まないでよ、一口だよ、一口!」

「おれも眠くなってきちゃったから」

「きゃー、怖いっ。運転、変わろうか?」

「いや、だいじょうぶ。運転好きだし」

「……ありがと。もっと飲む?」

「いや、だいじょうぶ、ありがと。……あ、動き出した」

「ほんとだ」

「ゆっくりでも進むと違うね」

「うん。今日さ、貝採り終わったら、スーパー銭湯行くんでしょ?」

「その予定。……おれ、銭湯で寝ちゃいそう」

「あたしも」

「……じゃあ、いっそ、お泊りする?」

「それはいや。あたし、自分のベッドで寝たい」

「えー」

「えー、じゃない。……スーパー銭湯とお泊りは違うのよ、とにかく」

「そうなの?」

「そう! お泊りはさ、今度にしようよ。……どこいく?」

「どこがいいかなあ」

「山ちゃんといっしょなら、どこでも楽しいけどね」

「あずっ!」

「ちょっ、危ないよ、前見て前っ! 横向かないっ」

「あず~~~~~」

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