陰謀渦巻く宮廷の闘い:子爵令嬢は借金返済のために成りあがり商人と婚約したのに、婚約破棄されてしまいました。

克全

第1話:華麗なる契約の舞踏会

 王国でも一二を争う貿易商人、メギンチ家の豪邸には広大な舞踏会場があります。   

 貿易での成功により築いた富と名声を背景に、メギンチ家は並の貴族をはるかにしのぐ財力を持っているのです。


 舞踏会場は、貿易で手に入れた珍しく高価で華やかな装飾品で飾り立てられ、まるで夢の世界に迷い込んだような感覚を与えます。


 大きなシャンデリアが天井から垂れ下がり、無数のキャンドルが煌めき、華麗な踊り子たちの姿が広がる床の美しさに驚嘆せざるを得ません。


 私のような没落貴族の令嬢は、生まれたからこれまで足を踏み入れたこといない別世界です。


 広大な舞踏場には、高貴な装いをした貴族や富裕層の人々が集まっています。


 美しいドレスに身を包んだ女性たちは、宝石で飾られたネックレスや耳飾りが彼女たちの魅力を一層引き立てています。


 男性たちは、洗練されたタキシードやユニークな仕立てのスーツを身にまとい、自信に満ちた笑顔で会話し、酒杯を交わします。


 庭園には、美しく咲いた花々が広がり、噴水からは水しぶきが舞い上がり、幻想的な雰囲気を醸し出しています。


 バルコニーに立つ人々は、涼やかな夜風を感じながら満天の星空を見上げます。

 彼らは名誉や富を誇示しつつも、豪華な舞踏会場で心地よいひとときを過ごしています。


 舞踏会をみんなが愉しんでいます、私も愉しんでいます。

 ようやく借金から解放される目途がついたのです。


 私の結婚が条件でしたが、家の勝手向きが火の車で、このままでは爵位を売り払わなければいけない所でしたから、仕方なかったのです。


 爵位を売り払うと言っても、士族と貴族は違うので、そう簡単に売れる物ではありません。


 同じ貴族家が乗っ取るのなら簡単です。

 持参金をつけて婿養子を送り込めばいいのです。

 ですがそれでは、持参金の額もしれています。


 莫大な借金は婿養子の実家が払ってくれでしょうが、その額が多ければ多いほど、私達に渡される金額が少なくなり、弟達の立場が悪くなります。


 どうせ婿養子を受け入れなければいけないのなら、どうしても子爵家を乗っ取られるのなら、できるだけ多くの金を引き出したかったのです。

 せめて弟達に士族位を買ってやりたかったのです。


 騎士の位を買えればいいのですが、我が家の借金の額は莫大で、騎士位は厳しいかもしれませんから、徒士の位だけは何としても手に入れたかったのです。


 ですから相手は成り上がりの商人を探しました、年齢も容姿も関係ありません。

 条件は子爵の位に出してくれる金額が多い相手でした。


 碌に社交に出られない極貧子爵令嬢に友人などほとんどいませんが、ごくわずかな友人からは同情されました。


 でも、貴族士族の結婚など、そもそも父親が結婚相手を決めるものです。

 恋愛結婚などありません。


 結婚して血筋のよい子供ができたら、互いに愛人を作って楽しむのが貴族の夫婦というものです。

 我が家は例外中の例外ですが……全部貧乏が悪いのです。


 そしてようやく、格好の相手を探し当てる事ができました。

 相手は王国でも一二を争う貿易商で、多くの国に支店を持ち、その全ての国に莫大な資産を持っていると評判です。


 そんな商家の当主が、我が国にしっかりとした地盤を築こうと、五男に爵位を与えようとしていると、私の事を心配してくれた数少ない友人が教えてくれたのです。


 彼女の父親も元々商人で、男爵の地位を金で購入した成り上がり貴族です。

 買ったとは言っても、金を使ってどこかの男爵の養子にしてもらい、同じ男爵家令嬢の婿養子になったのです。


 友人の父親に思惑があるのは分かっています。

 友人が正直に教えてくれました。


 貿易商の五男を養子にするのが友人の父親なのです。

 当然名義を貸す事で莫大な礼金を受けとります。

 我が子爵家との縁組を整える事でも莫大な礼金を受け取るのです。


 本当はそのお金も欲しい所ですが、私にも父にも、そのような縁組を整える力はありませんから、誰かに頼るしかありませんでした。


 全てが滞りなく整い、長年の借金苦から解放されたのです。

 相手が誰であろうと関係ないのです。


 婚約相手が全てを整えてくれた豪華絢爛な婚約披露パーティーを、心から愉しむのです!

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