第30話 人に刀を向けるな


 その日、俺は偶然にも帝都オリアでベージュ色のキャスケットと長い刀がトレードマークのレイと出会った、彼女は仕事帰りだったらしい。


 俺を見ると駆け寄ってきて色々と他愛もない話をしていると――


「ブルーサピロス島、良いなぁ、行くの明日からなんでしょ?」

「なんで知ってるの?」

「ソフィアさんが言ってたよ?『実はガルス君とブルーサピロス島に行って来るのです』って」


 レイが羨ましそうに言う、というかソフィアは周りに言いふらすなよ......男女二人で行くんだぞ勘ぐられるぞ。


「......ソフィアと交流あったんだな」

「うん、マトラ遺跡で活躍したからかな、S級魔導士の人と会う機会が多くなって」

「そういえばS級魔導士を目指してるんだっけか」

「うん、やっぱり上を目指したいからね」


 S級魔導士は実力だけじゃあなれないからなぁ、実力のみで成り上がる傑物もいるが基本は人気度が重要だ、特にS級魔導士からどう見られるか......だから上を目指すならS級魔導士の目に留まるような活躍をしたほうが良い。


「色々と動いててね、だから今の私は忙しいんだ」

「そりゃよかったな、旅行行ってる暇もなかったんじゃない?」

「それとこれとは話は別だと思うけどなぁ......あ、そうだ」


 レイは何か迷いながらも話す。


「最近......魔導士を狙った襲撃が多いみたいなんだよね、その所為で私も忙しいの」


 なんだか最近多発してる事件だっけか、そんな話、ソフィアも話していたかも?


「うん、しかも下位の魔導士とかじゃないよ、B級とかA級とか上位の魔導士が被害にあってる......だからガルスも警戒していたほうが良いかなと思って」


 B級はともかくA級までか......犯人はかなりの強者だろう。


「どうして俺にわざわざ?」

「だって......君は友達......みたいなものだから......心配だよそりゃ」


 レイはもじもじと話す、友達が心配で忠告してくれたという訳か、戦闘中の彼女は孤軍奮闘するのに普段はこういう風なんだな。


「ガルスってみんなが思うよりも強いけどさ、不意打ちに弱そうだし」

「そんな事はないと思うけど」


 なお確信はない。


「実際、襲われたら――」



 スン――



「――ほら弱い」


 何かが首元にある。


「え」


 ――レイは刀を抜刀しており俺の首に刃を突き立てていた。


「......気を付けてね?......多分だけど襲撃犯はこういうの得意だよ」


 レイからはさっきまでと違う空気を感じた、もしかしたら本気で俺を殺す気なんじゃないかと錯覚してしまうほどに、彼女の瞳や声が冷たく感じられる。


「あ......あぁ......ッ」


 レイに刀を向けられて死の恐怖を自覚した、俺はアルセムの時に多少耐性のようなものが出来て戦闘にもある程度の余裕が生まれただけだ、この恐怖を克服したわけではない。


「――」


 だがデビルベアーにも子供を助ける為だったとはいえ自然と動くことが出来たし助けることも出来た。

 俺は直近の成功体験を持ってその恐怖を相殺する。


「......」


 彼女は刃を離してくれたがあの感覚が消えずに首を何度も触ってしまう。


「え、刃は当たってないよね......ね?」


 さっきまでとは打って変わりレイは困り顔で俺を見て、首を触ったりして心配そうに見つめて来る。


「大丈夫、ちょっといきなりで驚いただけ」

「......なら良かった、怪我させちゃったら申し訳ないから」

「大丈夫だって......ただ今度からはむやみに刀を向けるなよ?――わかったな?」


 ようやく出来て来た恐怖の耐性を無駄になるところだった、


「......うん、少しやり過ぎた、気を付ける」


 レイは申し訳なさそうにする。


「......まぁ今の話はこれで置いといてさ、お前だって気を付けろよ?慢心っていうの?そんなので怪我なんてしたら嫌だろ」

「わかってるよ、警戒は怠らない様にしてるから」


 ついさっき不意を突かれた俺が言っても説得力ないか。


 レイは話題を変えて満面の笑みでこちらを見る。


「ね、お土産期待して良いよね?」


 お土産......


「期待はしないでほしい、メタリックなカッコイイ竜のキーホルダーで良いか?」

「それはやめて」


 こうしてある程度レイと話してそのまま別れた、俺はさっさと用事を済ませて帰ると明日のブルーサピロス島への旅行に備えて早めに寝る事にした。

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