第5話 魔がさして

 拝啓、俺を勝手にエリの家に送ったクソ親父殿。俺は今、山を登っています。


 というのも数日前・・・


「ハイキング?」


「そっ、定期的に家族でやってるんだけどせっかくだしアンタもどうかなって」


 そう提案してきたのは唯だった。特に断る理由もなかった俺はそれをすぐに快諾した。


「別にいいぞ」


「そっ、りょーかい。じゃあ後はサクラがエリちゃんを誘えてるかどうかね」


「アイツも誘ってるのか?」


「当たり前じゃない、逆になんでアンタだけを誘うのよ?」


「気があるとか?」


「バッッッカじゃないの?デリカシー家に忘れてきたわけ?」


 何とも酷い言いようだ。


「とにかく!アンタは参加って事で家族には言っておくから!当日遅れないでよね!」


 そして後日、エリも参加することが決定して当日って訳だが・・・


「ゼェ・・・ゼェ・・・」


 エリがこの始末だ・・・


 俺は歩を緩めてエリの横まできて話しかける。


「おいエリ、大丈夫か・・・って聞くまでもないか」


「分かってるじゃん・・・絶賛疲労困憊中」


「まだ半分も行ってないぞ?大丈夫かマジで」


「ギリギリ、無理そう・・・」


 これはガチで無理そうだな・・・こうなったらあれしかないか。


「おーい!ユイ!俺の荷物持ってくれるか?」


 俺がそう呼びかけるとユイは怪訝そうな表情を浮かべこちらにきた。


「どうしたのよ急に?アンタ、まだ体力余裕あるでしょ?」


「ああ、だから荷物渡してコイツをおぶる」


 そう言ってエリを指差すと、当人は信じられないといった風に目を丸くして言った。


「あら?どうして急にそうなったのかしら?」


 流石エリ、ユイが来たから急にお嬢様モードに入った。俺はその事には触れずに答える。


「だってエリ、もう体力限界なんだろ?ここの段階でそうなら荷物が無くなったところで無理だろ」


「それは・・・そうかもしれませんが・・・」


「だろ?じゃあユイこれ頼むわ」


 俺そう言って唯に荷物を渡す。


「重っ、まあエリちゃん担ぐよりは多分軽いだろうし頑張るわよ」


 ユイはそう言うと、歩くスピードを上げてサクラさんと合流した。逆に俺はその場に立ち止まってしゃがみ込んでエリに伝える。


「ほらよ、さっさと乗れよ。荷物持ったままでいいから」


「で、でも・・・」


「置いてかれたいか?」


「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」


 ・・・・・・


 と、いう訳でトシヤの背中に乗っているんだけど・・・


 すっっっごくいい匂いする!!


 何だろう、特別な制汗剤とかそういうの付けてる的なそんな匂いじゃなくて・・・何というか本能的に落ち着くというか・・・


 って!私は変態か!?こんな人の匂いでどうだとかこうだとか!!


 それもこれもアイツがあんな突拍子もないこと提案するからよ!・・・まぁでも、この展開も悪くないけど


 ていうか、トシヤ意外と汗かいてる・・・そりゃそうか、荷物の他に人1人背負ってるんだもんね・・・


 ペロッ


「うわっ!何だ!?エリ、何かしたか?」


 はっ!?私、さっき一体何を!?と、とりあえず誤魔化さなきゃ!!


「な、何か起きたの?」


「何だか、首筋に嫌な感触がしてな」


「ふーん、それは多分汗が伝ったのよ。さっき大粒のが伝ってたし」


「そうか、ならいいけど・・・」


 ふう、何とかどうにかなった・・・私、さっきどうにかしてた・・・でもきっと、それだけトシヤのことが昔から


 好きなんだ

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