僕の奥さんは怖い

虹室 桜智

足音

 疲れた……。現在、水曜日22時。最寄り駅に着き、駅から徒歩7分の家路を進む。

 夕飯は会社近くの定食屋で済ませている。

 4階まで階段で登り、玄関を開ける。

「おかえりー。はははっ!」

 玄関すぐの部屋から声が聞こえる。笑い声も一緒に聞こえるから面白い番組でも観ているのかもしれない。

 鍵とドアチェーンをかけ、部屋を覗くと座椅子を175度くらいに調整した状態で寝転がっている奥さんがいる。ぐうたらさんだ、と言えば、ぐうたらさんです!と元気のいい返事が聞こえる。観ているテレビを見れば映っているのはニュース番組。何が面白かったのかと思っていると、あのね、と奥さんが話しかけてきた。

「テレビ観ていたらね、階段を上る足音が聞こえてね、帰ってきたのかな~って思ったら、ガチャって開いたものだから、面白くて笑っちゃった」

 笑っていた理由はそれだったらしい。確かに階段に近い部屋ではあるが、足音が聞こえるのも、それが僕かもしれないと考えたのも僕からしてみればかなり驚愕の話だ。何せ両隣の部屋にも住人がいるから。だから、つい口から出てしまった。

「怖……」

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