5、魂と器

 

 朱雀門の奥の闇に、異空いくうがあった。


 この世とあの世の狭間はざまにある空間。


 女の魂はそこへ匿われていた。


「約束どおり、あの男と勝負をした。

 賭けに勝てばおぬしは、私の物になるといったが、


 ――― 長谷雄はせおが勝った」



 淡い光を放つ魂は、喜びで瞬いた。

 鬼も、女の様子を見てこれでよかったのだと思った。


彷徨さまよえる魂よ。

 この器に入るがよい」


 鬼が指差す先には、女の『体』があった。

 亡骸なきがらの優れた部分だけを寄せ集めて作った人形ひとがた


「さすれば、なんじの願いが聞き届けられよう。


 ―――ただし、100日の辛抱しんぼうだ。


 魂と体が結びつくにはそれだけの時間が必要だ。

 はじめのうちは、動くこと話すこともままならぬかもしれぬがすぐに慣れるだろう。

 決して、忘れてはならぬ。

 100日だ。

 お前のような、美しい魂のものはそうはいない。

 なんとしても、手元におきたいと思ったがそれも叶わなかった。

 せめて、おぬしの幸せを願うのみだ。

 現世うつしよにお前のような美しい魂のものがいると思うだけで、心安らぐというもの」



 青白い光を放つ魂は、吸い込まれるように人形ひとがたの中に消えて行った。



「お前は、願いどおりあの男もとへ行ける。

 それが、おぬしの幸せかどうかはわからぬが、望んだことだ。

 幸せにな……」


 鬼の言葉に、再び血肉をもった女はぎこちないながらも深々と頭を下げた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る