【24】イリカとの再会

(フェリガンよ。イリカであろう人物が城から出てきたぞ)


(分かった。直ぐに向かうよ)


 ヨウからの念話で報告を受けたためクエストを途中で中断して街に戻りヨウと合流する。


「思ったよりも早かったの」


「急いできたからね。それで? イリカはどこにいるんだ?」


「ほれ、あっちにいる女子おなご3人の真ん中じゃ」


 ヨウが腕を伸ばしたため、路地裏から少しだけ身を乗り出してそちらの方を向く。すると、そこには男女3人組が並んで歩いていた。3人ともそこら辺の者達と変わらない服装をしているが、雰囲気が一般市民とは違ったものをかもし出している。その中でもひときわ異彩を放っている者が1人、3人の中央にいる人物、恐らくあれがイリカだ。


 背筋が伸びていて美しい歩く姿勢、周囲を頻繁に確認している視線、いずれも騎士として働いていく中で身についたものであろう。


「ヨウありがとう。戻ってもいいよ」


「うむ。分かったのじゃ」


 そう言って消えるヨウ。大きく息を吐いて気持ちを整える。


「よし、行くぞ」


 バッグから手紙を取り出しつつ、路地裏から飛び出して3人の前に立つ。突然の登場で驚いたのであろう、両脇の2人は腰元に手を伸ばした。恐らく剣を抜こうとしたのだが、あると思っていたものがそこにはなくてハッとした表情をしている。日頃の癖とは恐ろしいものだ。


「何者でしょうか?」


 イリカは動じずに周囲を見渡して冷静に状況を把握しようとしているようだ。


「突然で申し訳ないのですが、あなたと2人で話しをしたく参りました。まずはこちらをどうぞ」


 手紙を渡そうと手を伸ばすと、両脇の2人が俺とイリカの間に割り込もうとするが、それをイリカが手で制止して手紙を受け取ってくれた。そして、封を切り手紙の内容を読み始める。


 いきなり顔を歪めるイリカ、恐らく差出人の名前を見たのであろう。そして、視線を左から右、右から左へと動かしながら読み進めるイリカであったが、読み進めるにつれて段々眉間にしわを寄せて、目を細めていく。自分も内容は知っているのだが、俺がイリカの立場でもこのような表情になるだろう。


「なるほど。分かりました」


 手紙を読み終えて顔を上げるイリカ。ジロジロと俺を見てくる視線に痛いものを感じる。まるで不審者でも見ているかのような視線だ。


「まずは、そうですね……。とりあえず、ここを移動しましょうか」


「分かりました」


 イリカが歩き出したためそのあとをついていく。連れの2人は不思議そうに俺の方をチラチラと見ながら歩いている。怪しまれるのは仕方ないとはいえ、こうも警戒されていると何か自分が悪者にでもなった気分だ。


 しばらく歩いていると路地裏にある建物の中に入ることになった。そこは、宿屋のようではあるが、建物内は何処か薄暗く立地のこともあり怪しい雰囲気すら感じる。イリカが受付を済ませると2階のある部屋に案内された。


「先に中に入っててください」


 イリカに言われるがまま部屋の中に入ると3人の声が聞こえてきたが、何を言っているのかよく聞き取れない。そのため、扉に耳を当てて神経を研ぎ澄ます。


「タナ様、流石に危険です。どこの誰とも分からない者とあなたを2人きりには出来ません」


「ですから、知り合いの知り合いなので問題ないと言ってるではないですか。それに、別に宿から出ろと言っているのではなく、2人には部屋の外にいて欲しいと言っているのです。問題ありますか?」


「問題なら大ありです!! もし、何か起きた場合に部屋の外にいては即座に対応することができないではないですか!!」


「そうですよ。それに、知り合いの知り合いと言っておりますが、その知り合いとはどのようなお方なのですか? 大切な客人であればわざわざこのようなところを選ぶ必要が無いと思いますが?」


「……古くからの知り合いです。それ以上でもそれ以下でもありません」


「古くからの知り合い? ……怪しすぎます。何か隠しているのではないですか?」


「何も隠していませんよ。それに第一、私があのような子供に何かされると思っているのですか?」


「それは……、確かにそうかもしれなませんが!!」


 道中でのやり取りやここでのやり取りを聞いている限り、2人はイリカの部下らしい。そして、どうやら俺と2人きりで話し合うということ拒否感を部下の2人は覚えているようだ。


 まぁ、確かに急に現れた謎の人物と2人きりにさせるというのは、部下としては放っておくわけにはいかないよな。


 これ以上揉めているところを聞いていても仕方ないかと部屋にあった椅子に座ってイリカを待つことにした。


 そうか……、19歳ながらも部下を持つような立場なのかイリカは……。頑張ってるんだな……。


 弟子が出世していることに嬉しさを感じながら待つこと約十分。部屋の扉がガチャっと開かれたかと思うと、イリカが中に入ってきて向かいの椅子に座った。


「お待たせしました。早速なのですが手紙に書いてあった内容について、これは……、本当なのですか? その……、あなたが師匠の生まれ変わりだというのは……」


 恐る恐るといった様子で尋ねてきたイリカであったが、アリネの手紙が効いたのであろう。先程よりも多少は警戒心が解けているようだ。


 ついに来た……!! この日のために俺がクレザスの生まれ変わりだってことを納得させる方法を考えてきたんだ!!


 アリネの一件から反省した俺は、自分がクレザスの生まれ変わりだということを納得してもらうための方法を色々考えてきた。俺とその弟子でしか知り合えないであろう情報を必死に思い出し、この日のために備えてきたのだ。


 それに、誰かしら知り合いからの手紙。例えば、今回はアリネに頼んでイリカ宛の手紙を書いてもらっていた。内容はアリネが今どうしているのかといった報告から始まり、俺がクレザスであるため信じて欲しいというものである。流石に簡単には信じてくれるかは怪しい所ではあるが、多少の警戒心を解けたのならそれだけでも意味がある。


「あぁ、そうだよ」


 さぁ、どんな感じで来る? 質問攻めか? それとも、さらに警戒心を増すのか? 


 説得開始のゴングが鳴り、相手の出方をうかがう。茫然とした様子のイリカであったが、その頬に1筋の涙が伝った。予想外の反応に戸惑っていると、イリカは立ち上がり机を飛び越えて抱き着いてくる。


「……え、えぇぇぇぇ!?」


 突然のことに驚いたものの、慌てて立ち上がり自分が座っていた椅子を蹴っ飛ばす。そして、飛び込んでくるイリカを何とか受け止めることはできたが、勢いを殺すことはできずにそのまま後ろに倒れてしまう。


「う、うぅ……。もう、もう会えないと思っていました先生……」


 声を上げながら泣いているイリカ。時間がかかると思われた説得は、ものの数秒で終わったのであった。

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