【12】盗賊団のアジト

 村を後にした俺は盗賊達から読み取った情報を元に森の中を移動していた。この森には魔物を狩ったり、特訓のために何度も訪れていたのだが、まさか盗賊のアジトがあるなんて全く想像していなかった。


「えーと……、布が巻かれている3本の木はどこだ?」


 盗賊団のアジトへの道順はかなり複雑なもので、何か所かに存在する目印を順に辿っていかないとたどり着けないため、よっぽど運が良くない限り見つけることができないだろう。


「3本の木、3本の木……、あった!!」


 目印を見つけた俺は、再びメモに目をやる。


「なになに……、木に巻かれている青い布の結び目の方に向かって直進する。よくもまぁ、こんなに面倒くさいことを……」


 目印を見つけては次の目印に向かうというのを何度か繰り返して森の中を歩いていると、とうとう盗賊団のアジトにたどり着いた。


 盗賊団のアジトは洞窟のようなところで、山肌にぽっかりと空いた穴を根城にしているようだ。アジトの入り口には見張りだと思われる盗賊が2名いたが、よっぽど暇なのであろう、ペチャクチャと何かを話しているようである。


 まずは、様子を見ておくか。もしかしたら、有益な情報を話しているかもしれないしな。


 見張りに気が付かれない様にアジトに近づいて、茂みの中に身を隠す。すると見張りが話している内容が聞こえてきた。


「村を襲ったやつらが返り討ちにあったって言ってたけどよ、あの話って本当なのか?」


「さぁな。たまたま冒険者や騎士とかがいたとかじゃねぇのか」


「けどよ、村人達の中に魔法を使える奴もいたって話だぜ? もしそれが本当だったらよ、ここも危ないんじゃないか……?」


「はぁ……、お前そんな話を信じてるのかよ……。そんなの襲うのに失敗したあいつらが言い訳のためについた嘘に決まってるだろ。第一、村人達が魔法やスキルを使える分けねぇだろうが。それに、あいつらの話だと姉御ぐらい強い奴も至って話だしよ」


「それは……、そうかもしれないけどさ……」


 盗賊達が話している内容からして、村を襲ってきたグループは既にアジトに戻ってきており、村での出来事を盗賊団内で共有しているようだ。ただ、村での出来事を信じている者達は少ないようで、あまり警戒はしていない雰囲気だった。


 これはチャンスだな。油断している間に何人か叩いておけると楽になるんだけど……。


 見張りは全然辺りを警戒している様子はなく、相変わらず話を続けている。この2人であれば、気づかれることなく倒せるであろうが、俺には少しの不安があった。


 姉御ぐらい強い奴って、多分俺のことだよな……。その姉御ってのはどれぐらい強いんだろうか……。


 スキルや魔法を使える盗賊達から見て俺と同じぐらい強い奴がいるということは、今回の戦いは一筋縄ではないかないかもしれない。それに、盗賊達に囲まれるようなことがあれば、それこそやられてしまう可能性がグッと増えてしまう。


 やっぱり、1人ずつ確実に倒すのが良いか。


 盗賊団討伐の作戦を決めた俺は、茂みから飛び出して見張りに襲い掛かる。


「な、なん……!!」


 少しの警戒もしていなかった見張りの2人はなすすべなく、魔法と木剣の餌食になってその場で倒れた。命を取らずに気絶させただけなのは甘いかもしれないが、盗賊は生きたままで街に突き出した方が報酬を多くもらえるため、村の被害のことを考えると1人でも生きて街に連れていきたかった。


「よし、まずは2人。こいつらは……、このままにしておくとまずいよな……。隠しておくか」


 もし、アジトの外に出ていた盗賊がいたとしたら、帰ってきたときに騒ぎになってしまう。そのため、2人を拘束して声も出せない様に塞いで茂みの中に隠しておいた。


「何か持ってるかなぁ」


 何か使える物を持っているかもしれないと持ち物を確認してみたのだが、特に使えそうなものは無かったため、剣だけ貰うことにした。


「流石にスキルや魔法を使える盗賊達を木剣で戦うのは不利すぎるからな」


 剣を鞘から抜いて刀身を見る。鉄でできているその剣は質素な造りをしているとはいえ、盗賊が使うにしては中々上等なものであった。見張りをするような下っ端ですらこれほどの品質の装備を与えられていることを考えると、上の者達の装備はかなりの物になりそうだなと予測する。


「それにしても、こいつら同じ服を着ているな……」


 村を襲ってきた盗賊達もそうだったのだが、この見張りも同じ赤色の服を着ていた。


「もしかして、盗賊団で統一しているのか? だとしたら、どうして軍隊みたいな真似をしているんだろう……」


 軍隊のように統率を重んじる集団と違って、盗賊はどちらかというと自由奔放といった集団だ。そのため、盗賊団として同じ服装を揃えているというのは本の中でしか知らない。もしかすると、この盗賊団の長は変わり者なのかもしれない。


「服を着ていくのもいいかもしれないけど……、どうせバレるだろうし、別にいいか」


 潜入先の者達と同じ服装をして仲間だと思わせるのは良い作戦だ。ただ、兜などで顔が隠れている場合や何百人といる場合などでは効果はあるだろうが、30人ほどの盗賊団ではあまり効果は発揮しない。


 どうせ30人ぐらいの人数だったら、なんとなくお互いの顔を覚えているだろうしな。


 一通りの準備を終えた俺は、身を隠しながら洞窟の内部を覗いた。


 敵は……、いなさそうだな。


 入口付近に盗賊がいないことを確認して、あまり音を出さない様に静かに洞窟内部に侵入した。

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