【9】ちびっ子武闘会-決勝戦

 盛り上がりを見せたちびっ子武闘会も順調に進んでいき、とうとう決勝戦を迎えようとしていた。


 自分で言っておいてあれだけど、まさか本当にこの組み合わせになるなんてなぁ。


 決勝戦は持ち前の身体能力で勝ち上がってきたグンデル、そして良い所までいけるのではないかと予想していたジェンという組み合わせになった。村一番のガキ大将グンデルと勉強ばかりしているジェンということもあり、グンデルが優勝すると予想している者達が多そうだ。


「ジェン!! ここまで来たんだ!! どうせなら優勝しろー!!」


「ジェン君頑張ってー!!」


 ただ、予想外の快進撃を見せているジェンのことを応援している者達も少なくはなさそうだ。


「まさかお前がここまで勝ち進むなんてなぁ。まぁ、それもここで終わりだ。俺が勝つからな!!」


「ふんっ。今は好きに言うがいいさ。僕は絶対に負けない……!!」


 グンデルはもちろんのこと、まさかジェンがここまで熱いものを持っているとは思っていなかった。元々勉強が好きなのもあって、魔法に関してもどんどん学び、どんどん吸収するジェン。そういった姿を見ていたため、この武闘会でいいところまでいくんじゃないかと思っていたが、これほどの気持ちも乗っかっているのであればここまで勝ち進んだのも納得だ。


 2人のボディチェックをして、防御魔法をかけて開始の準備を整える。流石に決勝戦なだけあって、会場の盛り上がりもピークを迎えていた。2人の緊張がこちらにも伝わってくる。ふぅと一呼吸置いて2人の間に手を置く。


「よーい……、はじめ!!」


 こうして始まった決勝戦であったが、距離を詰めて近距離で戦いたいグンデル、距離を話して遠距離で戦いたいジェンという感じで2人の戦法は対極的なモノとなった。近接スキルが得意なグンデルと遠距離魔法が得意なジェン、それぞれにあった戦い方に持ち込もうとしているのだろう。


「いけいけ!! グンデルもっと攻めろ!!」


「いいぞ!! ジェン!! そのまま倒しちまえ!!」


 観客の盛り上がりもどんどん高まっていく。


 今のところいい勝負をしているけど、このまま戦いが長引くとグンデルが勝ちそうだな。


 ジェンの魔法攻撃を躱しつつグンデルが近づいて攻撃するも、その攻撃を躱して再び距離を取るジェン。お互いに一進一退、互角の戦いをしているが両者ともに決め手に欠けている。このまま勝負が長引けば、魔法やスキルではなく持久力や筋力といったお互いの地力勝負になるだろう。


 俺の予想通り、時間が経つにつれてお互いに動きが遅くなっていく。ただ、普段から走り回って遊んでいるグンデルの方が何処か余裕そうであり、ジェンの方は今にもその場で膝をついてしまうのではないかと思うほど大きく肩で息をしている。


 そろそろか……。


 決着はあっさりしたものであった。体力が限界に達したジェンがその場で膝をついてしまったため、俺が試合を止めてグンデルの勝利を宣言した。


「よくやったグンデル!!」


「ジェンもよく頑張った!!」


 観客からグンデルの勝利を祝福しつつ、ジェンをねぎらうような声が聞こえてくる。ただ、グンデルは何処か納得していない様子であり、ジェンも今まで見たことが無いほど悔しそうにしている。こればかりは戦った者達にしか分からない感情なのだろう。


 魔法使いだとしてもただ魔法を練習するだけじゃなくて、やっぱり体を鍛えることも大事だよなぁ。


 改めて体を鍛えることの大切さを実感していると、勝負を終えたグンデルがこちらに歩いてくる。


「さぁ、優勝したぜ」


 戦いの後で気持ちが昂っているのだろう。目がギンギンで待ちきれないといった様子だ。


「あー、今からやるの? 少し休憩したほうが……」


「いや、大丈夫だ。今すぐやろう」


 そこまでして俺と戦いたいのかと呆れつつ、約束は約束だしと戦う準備を始める。


「さぁ、皆さま!! 今年はグンデルの頼みに答える形で、なんと!! フェリガンとの勝負が実現いたしました!!」


 実況の言葉にワーワーと盛り上がる観客席をよそに、リングの上でグンデルと向き合う。


 そういえば、対人戦なんて久しぶりだなぁ。最近は魔物ばかり相手にしていたし。


 そんなことを考えつつ、俺と交代で入った審判の開始の合図を待った。審判の手が俺とグンデルの間に置かれたかと思うと、カーンという鐘の音が村に響いた。


「これは……」


 次の瞬間、カーンカーンと何度も何度も鐘の音が鳴り響く。うろたえている審判の村人に下がるように伝えると、グンデルに近づいた。


「分かっていると思うけど……」


「あぁ!! 分かってる!! さっさと行ってこい!!」


「……うん。また、らい……、機会があればやろう」


「……」


 この鐘は村に危険が迫っているとき鳴らすものであるため、この鐘が鳴ったということは魔物か盗賊などこの村に害をなす存在が近づいてきているということなのだ。流石にこのまま試合を続けるわけにもいかないため、悔しそうなグンデルをそのままにして、観客席にいた防衛部隊の村人を数名連れて鐘が鳴っている方へと走って向かう。


「今月に入って何回目でしたっけ?」


 走っている最中、防衛部隊の村人に尋ねてみる。


「たしか……、これ合わせて3か4だったかな」


「3、4回……、それは、ちょっと多いですね」


「あぁそうなんだよ。まったく嫌になるぜ」


 去年から少し感じていたことであったが、魔物が村に来る頻度が明らかに増えている。そのほとんどが近くの森から来ているようなのだが、今まではこのようなことは無かった。憶測に過ぎないが、森で何か危険なモノが現れたのかもしれない。


 村の入り口に到着すると、鐘を鳴らしていた見張り係から話を聞く。どうやら、森の方からこちらに向かってくるゴブリンの小さな群れが見えたらしく、もうすぐ村にたどり着くほど近づいてきているのだという。


「なるほど、分かりました」


 数は10体ほどか……。うーん、ここは任せた方がいいな。


 10体ほどのゴブリンであれば自分1人で何とかなるが、あえてここは村の人達に任せることにした。というのも、自分が村から離れた時に、自分達の力で村を守れないようであれば、防衛部隊を作った意味が無いためである。


 防衛係の人達を集めて、現状の説明をした。


「いざとなれば、自分も加勢に入るので、まずは皆さんで倒してください」


 そう伝えて、後は村の人達に任せる。どうやってゴブリン戦うのかという話をしているが、自分は何も言わない。こういったところから自分で考えることで、成功するにしろ失敗するにしろ成長していくものだ。


 こうして始まったゴブリン退治であったが、防衛部隊の何名かが少し怪我をするくらいで特に問題も無く終えることができた。防衛後は村の片付けを手伝って、ちびっ子武闘会は閉幕した。

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