弟子達がご迷惑おかけして申し訳ありません!!~転生師匠は弟子達に振り回されながらも、問題を解決するために旅をする~

澪田彗正

第一章 転生と旅の始まり

プロローグ-転生

【1】クレザスの最後と転生

 魔法の道の頂点に君臨する魔帝メリア・シェンリアム、武の道の頂点に君臨する武帝ガンザス・ビングリア。世界中の人々に認められている2人であるが、そんな2人に認められている人物が1人いた。その人物の名はクレザス。彼は人前に出ることはせず、誰も立ち入らないような秘境の地で細々と暮らしていた。


 そんな彼の人生に転機が訪れたのは、彼が28歳の時であった。生活に必要な物を買うために街に降りた際、路地裏で今にも死にそうになっている子供を見つける。このまま放っておくと死んでしまうことは確実であった。ほんの好奇心というか出来心というべきなのだろうか、彼はその子供を保護して弟子として育てることにした。その最初の子供を保護したことがきっかけで1人また1人と捨てられた子供を保護していくうちに、気が付けば何人もの弟子ができていた。


 そんな彼にも最後の時が訪れる。


「皆……、大きくなったなぁ……」


 38歳を迎えた彼も不治の病には勝てなかった。死ぬには若すぎる年齢であったが、治療法が見つかっていない死神の接吻デキスにかかってしまっては助かりようがない。


 弟子に囲まれてながら、ベッドに横たわっている彼の命のともしびは今にも消えようとしていた。


「先生!! 死なないでください!!」


「師匠!! 死んじゃいやです!! 僕はまだ、何も恩返しができていません!!」


 声を上げて泣き崩れている者、静かに涙を流しながら周囲の弟子を慰める者、彼に背を向けてながら肩を震わせている者、それぞれの反応はバラバラであったが、彼の死を悲しんでいるのは確かだった。


 彼はゆっくり首を動かして、弟子たちの方を向いた。血こそは繋がってはいないものの、家族のように大切に育ててきた弟子たちの顔がかすむ視界に映る。


「俺が死んだら……、机の中にある遺書を読んでくれ……。そして、この地を離れて、生きていくんだ……。時には互いに助け合い、自分の……、道を進むんだ……」


 喋るのもやっとな彼であったが、何とか最後の言葉をつむごうと力を振り絞る。自分の知っている知識をすべてこの子たちには教えてきた。たとえ、1人で暮らすことになったとしても、魔法の道にしろ武の道にしろ困ることは無いだろう。


「良い……、人生だ……った」


 力なく瞼を閉じて、その人生に幕を下ろそうとしたクレザスであったが、その時予期せぬことが起きた。


「先生!!」


 弟子の1人がクレザスに抱き着いた。それを皮切りに次々と弟子達がクレザスに抱き着く。


 皆……、これが幸せか……。


 弟子達の温かみを感じ、幸せな気持ちのまま命の炎が消える。


 ……ちょ、ちょ、重。


 ことは無く、最終的な彼の死因は弟子達が乗っかかたことで、呼吸ができなくなったという圧死であった。病によって弱っていた彼の体には、その重さに耐えるだけの力が残っていなかったのである。


 何という運命のいたずらであろうか、彼の本来の運命は病による死亡であった。しかし、後1秒、いやそれよりも遥かにもっと短い秒数後に病で死ぬといったところで、彼の死因圧死になってしまった。ほんの少しのズレ、人の一生にとっては取るに足らないような時間のズレ、それが彼の今後の人生に大きく影響することになるとは……。


――――――

――――

――


「おんぎゃあ。おんぎゃあ」


 何だ……? 赤ん坊が泣いているのか……? 弟子たちに赤ん坊なんて……。


 ボーっとする意識の中、ゆっくりと目を開けると見知らぬ男女の顔が2つあった。誰だという疑問が浮かび、声を出そうとするも上手く言葉が出ずに、


「ほんぎゃあ」


 と赤ん坊の声が自分の口から出てくる。


 ……え?


 まさかと思い、恐る恐る視線を右下にやると小さな手がそこにはあった。現実を受け入れられずに思考が止まるものの、何度も右手を閉じたり開いたりしているうちに徐々に自分が赤ん坊になっていること気が付いた。


「……ふえぇぇぇん」


 クレザスは死因が変わってしまったことによって、前世の記憶を持ちながら転生してしまったのだった。

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