第10話

 去っていったマリアに少しだけ手を伸ばしていたベアトリスは、心の中で大きなため息をついた。


(あの子は本当に、何をしにきたわけ?本当に意味がわからないわ)


 ぶかっとしたジャージの肩が落ちて不恰好になっていることに気がついて少しだけ直したベアトリスは、未だに背中を撫でているクラウゼルに冷たい視線を向けた。


「で?あなたはいつまで触るわけ?私、他人に身体を触られるのが好きじゃないって言ったことあるわよね?」

「俺はお前の婚約者だ。咳き込んだお前の介抱をするのは当然だとおもうが?」

(こんな時だけ………、いや、いつもこいつは婚約者面か)


 呆れながらも彼の行為を受け入れたベアトリスは、次の試験に備えてゆっくりと身体を休ませる。クラウゼルも同様のことを考えているのか、楽な姿勢を取り始めた。


「次は体力試験か………、」

「その後は武術の試験ね。先生が私はあなたと組むことになるとおっしゃっていたわ」

「おいおい、もう教師を買収したのか?」

「人聞が悪いわね。仲良くなったと言ってちょうだい」


 ベアトリスがすっと宝石を砕いたような七色の瞳を細めると、彼は居心地が悪くなったように目線を逸らす。


「………今日のテスト終わりは確か暇だったわよね?」

「なんでお前が俺のスケジュールを把握しているんだ?」

「ラビアンに聞いた」


 ラビアンとはクラウゼルの従者だ。真っ白な髪に真っ赤な瞳を持つ小動物のような少年で、甘やかな笑みながらに空気を凍り付かせることが稀にあるクラウゼルを、持ち前の穏やかさで和ませることができる天才だ。


「………お前、ラビアンまで買収したのか」


 断定系で聞いてくるあたり、彼は全てを理解してしまったのだろう。


(ラビアンは見た目通り甘い菓子だけで懐いてくれたから、正直に言って手懐けるのはとっても簡単だったのよね………)

「………ラビアンは柔和ながらに人に懐かないと有名なのだがな」

「?」


 クラウゼルの言葉に、ベアトリスはこてんと首を傾げた。


(彼ほど懐きやすい人種はいないと思うのだけれど………)


 出会い頭からラビアンは可愛らしい少年だった。うさぎのように疑り深くて慎重で逃げ足は早かったが、じっと懐くのを待てばすぐに懐いてくれる、そんな手懐けやすい人種なのは出会ってすぐにわかった。ベアトリスは社交が得意ではないため、彼と無理矢理に距離を縮める必要がないのもとても楽だったのを覚えている。


「まあ、まあ、今日のテスト終わりは空いているのよね!?」

「あ、あぁ。何か用事があるのか?」

「今日の魔法を教えてほしいの!!」


 きらきらとした視線を向けると、彼は思いっきり溜め息をついたぼそっと口を開いた。


「………魔法ジャンキーがデートなわけないか」

「?」


 うまく聞き取れなくてもう1回と口外に告げるが、彼は首を振って断ってきた。


「さあ、次の試験が始める。そろそろ公爵令嬢モードに切り替えろ」

「うふふっ、あなただって王太子殿下モードを切ってるくせに」

「………誰のせいだと?」


 ずももと聞こえそうなほどに不機嫌な彼は、ふっと息を吐いた瞬間には甘やかな笑みを浮かべていた。けれど、その笑みはここ数年崩されることのなかった完璧なものではない。ベアトリスが頼んだように少しだけ崩したものだった。


「私のせいね。

 でも、やっぱりそっちの方が不自然さはないわ。完璧に一歩近づいたのではなくて?」


 公爵令嬢としての表情に切り替えたベアトリスに、先に立ち上がったクラウゼルが手を貸す。


「確かに、お前のように少し笑みが崩れる時がある方が自然体に見えるな」

「でしょう?夜会やティーパーティーの時はちゃんとしなくてはならないけれど、それ以外の時はこのくらいの方がちょうどいいと思うのよ」


 手を借りながら立ち上がって試験について説明を始めようとしている教師の方に向かうと、クラウゼルがいきなり恭しく手に口付けをしてきた。


「俺の可愛いベティー、お前に俺の主席を捧げよう」

「うふふっ、なんて戯言を言っているのかしら。主席の座は私のものよ。あなたは尻尾を巻いて逃げるがいいわ」

「そ、それでは試験を始めます。まずは剣術ですので、ブラックウェル嬢とエーデンフリートくんから準備をしてください」


 2人が暗雲を背負ってにこにこと笑っているのに怖気付きながらも、教師は試験の開始を促す。2人はお互いに自分が握りやすい剣を探して握ると、中央に立って構えをとる。


「去年は体力試験からだったって聞いていたのだけれど、今年は剣術からなのね」

「………順番は毎年変わるらしい。お前、体術もペアになるように裏工作してないだろうな?」

「へぇー、よく分かってるじゃない」


 ーーーカーンっ、


 鐘の音に合わせて、ベアトリスが力一杯レイピアで突きを入れに突進すると、クラウゼルがひらりと交わしてベアトリスの背中に剣を叩き込もうとする。


 ーーーキーン、かん、かん、かん、かん………、


 けれど、次の瞬間にはクラウゼルの剣が場外に飛ばされていた。


「は?」

「毎度同じように戦おうとしすぎよ。ちょっとは学びなさい」


 ここ最近の手合わせで、クラウゼルは7回今回と同じ剣の振り方を行なっていた。相手の隙に狙いを定めて完璧なタイミングで完璧な攻撃を叩き込めるように、圧倒的な隙に攻撃を叩き込む戦い方だ。


(あんな戦い方、相手への冒涜だわ)


 微笑みながらに睨みつけたベアトリスは、昔彼と戦った時のように毒を吐く。


「勝利だけに固執したつまらない剣。

 簡単に軌道がわかる型にはめ込みすぎた剣。

 完璧を目指しすぎるが故に遊び心のない剣。

 1度私に攻撃が入った動きだからっていうだけで、そこに入った瞬間に全く同じように剣を振り続けるというのは愚の骨頂。………剣術は完璧だけが全てではないわ。キースさまにでも教えてもらったら?」


 微笑みを浮かべながらも驚いて不安そうで悔しそうで、色々な感情がごちゃ混ぜになっている彼は、ぐっとくちびるを噛み締めながらも頭を下げる。


「参りました」

「………興醒めね」


 冷たく言いながらも、ベアトリスは心の中で狂喜乱舞していた。


(き、決まったー!!久しぶりに上手にできたんじゃないの!?最近は婚約破棄のための嫌われ大作戦が上手に行かなくて、たくさん悩んでたのよねー。手応えがどんどん無くなってきてて自信喪失気味だったけど、今日のは十分嫌われたはずっ!!ゲームのクラウゼルルートの嫌われ方はなんと言っても、負かした後に嫌味を言いまくるだからね!!上手にできたはず!!)


 ルンルンとしながらも、ベアトリスははたっと気がついて急にしょんぼりとしてしまう。


(で、でも、今日嫌われちゃったら、テスト終わりに魔法を教えてもらえなくなってしまうわ。ああああぁぁぁぁ、確実にやらかした………。魔法を教えてもらった後に毒吐けばよかった………)


 表情を冷たいままに保ちながらいきなり喜んだり不安がったりしているベアトリスを後ろから見つめていたクラウゼルは、彼女の不器用さに呆れながらも剣を握る手を見下ろした。


(“勝利に固執した剣”か………、確かに、今の俺はベティーに勝つために剣を磨いていた気がする。今日はベティーの魔法を教えた後、騎士団長に守る剣を教わることにしよう)


 真面目なようで遊び心満載なベアトリスは、いつもクラウゼルへと的確な助言を与えてくれる。キースに教われという意見だけはどうしても聞きたくない故に、騎士団長に教わることにしたがそれは仕方がない。彼女以外の同年代に負けたり教わったりするというのは屈辱的だから。


(ベティーはたとえそれが同年代であったとしても、簡単に頭を下げてほしい技術を教わっているから、それが俺との差が縮まらない秘訣なのだろうな)


 太陽のように輝かしい笑みに、長年連れ添ってきたおかげで見えるようになった少しだけ気の抜けた時に見せる豊かな表情。自分が愛されていることに気がつかない鈍感さに、普通は嫌がる地味顔が好きなところ。

 どれもこれも愛らしくて仕方がないが………。


(モブオは許せん)


 ベアトリスが密かに恋慕しているとった理由だけで、自分が知らないところで将来この国を背負うことになる王太子に嫌われてしまった不憫なモブオなのだった。


「ねえ、寒気がするから殺気を仕舞ってくれない?」

「………すまない」


 無意識のうちに垂れ流していた殺気をしまうと、ベアトリスは安堵したように息を吐く。


(いつのまにか、俺も強くなっていたのだな)


 昔は本気の殺気をぶつけても、痛くも痒くもないと言われていた殺気が彼女に寒気を与えていた。その事実がなんだか妙に嬉しくて、クラウゼルは淡く甘やかな微笑みに嬉しさを乗せた。

 その後体術の試験、弓術の試験、体力試験の試験を受け、ベアトリスは見事に筋力以外でクラウゼルに勝利を収めた。


「なぁ、ベティー。お前走るの速すぎないか?男の俺が勝てないって………はぁー、はぁー、」


 最終競技100メートル走で負けたクラウゼルが息を乱しながら問いかけてくるのに対し、ベアトリスは息を乱しながらもふっと高飛車な笑みを浮かべる。


「あらあら、負け犬の遠吠えは醜いわよ。さっさと負けを認めて、私に『何でも1つ言うことを聞くカード』でも渡したらどうかしら?」

(早急に婚約を破棄してマリアと婚約させるから)


 いいことを思いついてにししっと笑うベアトリスに、クラウゼルは甘い微笑みを浮かべながらも剣呑な目付きなる。


「は?んなもの渡すわけないだろう?お前こそ、努力した俺にご褒美をくれてもいいんじゃないか?」

「そうねー。私のわんちゃんにしてあげなくもないわよ」

(ボロ雑巾のようにこき使ってやる)

「………今より扱いが雑になるだけじゃないか。そんなものはご褒美にはならない」

「あら残念」


 床にへたり込んだ2人はものすごく疲れ切っている。だが、この次に2人に待っているのは王城にて受ける帝王学と君主論のテストだ。


「………ねえ、ドタキャンしたら絞られるかしら」

「………俺が絞られるからやめろ」

「あははっ、それはいいこと聞いたかも。私、今日お昼に用事入っているからちょっと遅れて行くわね」

「本気でやめろ」


 2人でくすくす笑い合ってからってお互いに手を貸し合って立ち上がる。剣術試験の最後にベアトリスがついた悪態による澱んだ空気は、いつの間にか霧散されてしまっていた。


(私、また婚約破棄作戦を失敗したみたいね)


「本日の試験結果をもとに明日の朝クラスを決定したものを掲示板にて掲示します。試験結果についても同時に掲示しますので、ご覧になってから教室へとくるようにしてください。それでは、これにて解散になります。皆さまお疲れ様でした」


 ベアトリスたちに続いて全員が100メートルを走り終えてすぐ、教師によって解散宣言がなされた。ベアトリスはいそいそと荷物を持ってサロンへと向かおうとする。


「おい、どこに行くんだ?」

「サロンにお着替えに行くのよ。覗いたら目潰しするわよ」


 着替えと聞いて顔を赤くした彼を放ってサロンに足速に向かうと、入り口の前ではマリアがうずくまっていた。


「ベアちゃん、マジで死ぬ」

「うん、色々あなたのイメージが崩れそうだから中に入ってから話そうか」

(まあ、色々ともう崩壊している気もしなくもないけど)


 サロンの中にマリアを招き入れてすぐに、ベアトリスは奥にあるシャワールームへと入ろうとする。


「………ねえ、このサロンどうなってるの?色々変な気がするんだけど」

「改造したのよ。薔薇園が見える窓際をお茶会の場所にして、奥にシャワールームと執務室、仮眠室、後は給湯室を作ったわ」

「わお、お家と化してる」

「こじんまりしてて可愛いわよね。まあ、誰が見てるか聞いてるか分からないっていうのが難点だけど」


 防音設備は一応搭載しているのだが、あまり強過ぎると学園から苦情が入ってしまうためお茶会の場所にはそこまで強いものを置けなかったのだ。

 外から見えるのは窓際の良いお部屋をもらったからだから仕方がない。公爵令嬢は体面も気にしなくてはならないのだ。


「まあ、お話は着替えてからにしましょう」


 マリアが頷くのを見て、ベアトリスは前世の知識を使って作ったシャワーで汗を流し、身体を温めた。

 シャワーを浴び終わって髪をドライヤーで乾かしたベアトリスは、学園に持ち込んだ焼き菓子6つとケーキ1つをマリアに差し出した。


「こ、これはまさか………!!」

「そうよ。昨日と今日のご褒美」

「やったぁ!!」

(本当はなんの憂もなく渡せるはずだったのだけれど、今日は不安しか残らなかったわね)


 優雅に紅茶のカップを傾けながら、ベアトリスは自分用に持ち込んだ豆大福を頬張る。


「!? ま、豆大福!?」

「そうよ。豆大福。前世の知識をレシピ化してシェフに作ってもらったのよ。ちなみに私が飲んでいるお茶はほうじ茶よ」


 じゅるっと涎を出した彼女にくすっと笑って、ベアトリスは手を組んでその上に顎を乗せる。


「じゃあ、明日からどちらかに予定がない限り行われるお勉強会での次のご褒美は和菓子と緑茶にしましょうか」

「!?」

「あら、それともおにぎりと味噌汁がよかったかしら?」

「あぐっ、」

「うふふっ、そんなに悩まなくてもご飯系統はお夜食として持ち込んであげるわ。そうね~、明日の夜は空いてる?」


 微笑んで尋ねると、マリアは元気よく手をあげる。


「空いてる!空いてるから昆布のおにぎりを恵んでください!!」

(………この子、あまりにも単純すぎないかしら………………)


 ものすごく簡単に誘拐されそうなマリアに、ベアトリスは真面目な顔をして人差し指を立てて注意する。


「お菓子をくれるって言われても、変なおじさんにはついて言ってはダメよ?」

「ーーーねえ、ベアちゃんなんでうちのマミィと同じこと言うの?」

「………あなたのお母さまも大変だったでしょうね」

「え、なんか地味にディスられてね?」


 ベアトリスはマリアの前世のご両親に、深く同情するのだった。

 彼女のお皿からむしゃむしゃとお菓子が消えていく。

 マフィンにマドレーヌ、チョコレートにトリュフ、ドーナツにクッキー、ショートケーキ。

 ものの20分で全てを食べ切った彼女は幸せそうな表情で椅子にどかっと腰掛けている。カーテンを閉じて外から見えにくくしているとはいえ、誰かに見られたらどうしようという不安はないのかと突っ込みたくなる。


「ねえ、お願いしたいことがあるのだけれど、構わないかしら?」

「みたらし団子と交換なら良いよ」


 けろりと頷いたマリアに、ベアトリスは胡乱げな表情を向ける。


「無闇矢鱈に頷いてたら、借金で首を絞めることになるわよ」

「うわー、なんかものすっごく実体験が詰まった良いようだね」

「私の拾ってきた侍女がそういう子なのよ」

「………………」


 ベアトリスの侍女の1人エミリーは借金取りに追いかけられていたところを、ベアトリスに拾われて侍女になった少女だ。肩上でカールしていてふわふわとした栗毛に氷のようにきらきら輝く空色の瞳が愛らしい少女だ。


「ま、まあ、このマリアさまに何をして欲しいのかどーんと言ってみな。お姉さまが解決して見せよう」

「………………」

「うわっ、何その胡乱げな表情」


 マリアに頼むしかない案件なのにも関わらずどうしてもマリアに頼むことに疑心暗鬼になってしまうベアトリスは、一瞬口篭ってから大きく溜め息をついて話し始める。


「『虹の王子さまを落としたい!!』のデータがもっとほしいの。あなたが記憶している部分を全部紙にまとめてくれないかしら。製本は私がするから」

「? そんなことで良いの?」


 キョトンとしたマリアに、ベアトリスは少しだけむすっとした表情をした。


「とっても大事なことよ。ゲームだけじゃなくてファンブックや夢小説、同人誌なんかの情報も持っているのなら書き出してほしい。………この世界は、あまりにも虚空ゲームとは異なりすぎている」


 ベアトリスの言葉に、マリアは困ったような表情を浮かべた。


「仕方ないじゃん。この世界には少なくとも2人のバグイレギュラーが存在しているんだよ?普通のまま進んでいたら、その方が怖いじゃん」

「………………それもそうね。私だって見ての通り前世の知識を持ち込んで文明をタイムスリップさせているもの。文句は言えないわ」


 ベアトリスは最後の豆大福を口の中にポイっと投げ入れ、お手拭きで手を拭う。


「ちなみに何持ち込んだの?」

「結構やったと思うわよ?王弟のお父さまが悲鳴あげて倒れたくらいだし」

「うわぁ………、それはダディにお気の毒さま~って言わんといかんね………」


 前世の口調の訛りが少しずつ出始めたマリアを放って、ベアトリスは手を1回大きく叩く。


「とにかく、資料整理をお願いね!!」

「了解。じゃあ、明日みたらし団子ちょうだいね!!」

「えぇ、分かったわ。明日も昼休みにここにきてね」

「はーい!!」


 食器を給湯室の食洗機に全部突っ込んだベアトリスは、目を見開いて驚いているマリアをサロンから摘み出して鍵をかける。


「それじゃあ、ご機嫌よう」

「は?………なんで、なんでこの世界に食洗機がうまれてるのよおおおぉぉぉぉ!!食洗機は地球でも未だに普及しきってない代物でしょぉぉがあああぁぁぁ!!」


 マリアの叫びをそこそこに無視して、ベアトリスは馬車の停まっている方へと向かう。


「遅い」

「開口1番が甘~い笑顔でそれって中々に酷いと思うわよ」


 クラウゼルが馬車の前で腕組みをして立ってた。人差し指でトントンと肘を叩いているところから大分待たせてしまったのが分かる。

 エスコートをされて馬車に乗り込むと、数分間無言という名の圧力が馬車を支配した。


「………何をしていたんだ?」

「ん~、お菓子食べてた」

「俺が外でお前を待っていた間にか?」

「そうよ。はい、あげる」


 最後に1つ残しておいた豆大福を渡すと、クラウゼルの顔が少しだけ明るくなる。先程まで暗雲を背負っていたのとは大違いだ。


「………王太子殿下は甘いお菓子がお嫌いなのに、和菓子は好きよね」

「お前が俺のために作ってくれたからな」

「え?違うけど?私が食べたかっただけだし」


 10歳の時、どうしても和食が恋しくなったベアトリスは東の国について調べ上げ、日本人のソウルとも言える和食を手に入れた。そして、和食に欠かせないお米、大豆を手に入れた時に混入していたものが小豆である。

 つまり、和菓子ができたのは偶然の産物であって、甘いものが苦手なクラウゼルのためではない。

 断じて、ベアトリスが甘いお菓子を楽しげに食べている横で寂しそうに紅茶を飲んでいる彼が可哀想だから作ったのではない。断じて違うのだ。


「これもお前が作ったんだよな」

「えぇ、レシピはね。………あなたは私の料理における壊滅さを知っているのだから、私自身が料理したわけではないというのは簡単に分かるでしょう?」

「………そうだな」


 1度ベアトリスの料理を食したことによって数週間の腹痛に悶え苦しんだことがトラウマと化しているクラウゼルは、苦々しい顔で頷いた。

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