第5話 モネになった理由

 生前、私は「もりにゃ」という名前で十年ほどドールディーラーをしていた。得意分野はヘッドメイクと衣装製作。カスタマーとしての経験はそこで十分に身に着けたつもりだが、それを披露できるような魔法とはいったいどういうものだろう。


 布団でごろごろしながら私は考える。

 それに、元々のモネがどういう魔法を使えたのかが気になる。今は私が「ドール!」「ドール!!」と考えているだけで、本来のモネはおそらくたぶん、違うものが好きだったに違いないのだ。

 とりわけ、実家がそこそこの規模の紹介となると、普通は後継者として働くのだろうし、好きなことを仕事にしようなどとは考えてもみなかったのかもしれない。


 そういう意味では、今の私の状況は本当に不自然だ。

 私はいったい、どうしてモネの体で過ごしているんだろう。本来のモネはどこに行ったのか。本当にモネの体を使って好き勝手するのが正解なのだろうか。


 そう考えて、しばらく悩んで、やがて疲れたので私は考えることをやめてしまった。

 そういうことを考えるのは体調が良くなってからにしよう。

 ここはモネだけが使っている部屋のようだし、もしかしたら過去のモネが何を考えていたのか、記録が残っているかもしれない。例えば日記とか、手紙とか。

 人の日記を見るのは正直気が引けるけれど、それは許してもらうとして。

 私はのろのろと瞼を閉じ、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。深呼吸がなんだか気持ちよくて、私はそのまま眠りについてしまった。


***


 結局、体調が回復するのにそれから二日もかかってしまった。


 ようやく布団から出ることを許されたものの、基本的には外出せずに自宅で過ごすようリサからもきつく言い渡されている。


「窓から抜け出そうなんて考えたらだめですよ!」

 なんて言われたものだから、私はついつい苦笑してしまった。あれは一瞬の気の迷い、熱に浮かされて奇行に走っただけなのだが。


 さて、そういう訳で部屋の中では自由に過ごしていいということなので、早速だが家探しをしようと思う。


 初めて目を覚ました時にも思ったが、モネの部屋は非常に簡素である。ライティングテーブルが一つと、ベッド、クローゼットと鏡台。家具らしい家具はそれくらいで、趣味に通じるようなかわいらしいものはなにひとつ置かれていない。

 あの両親のことだから、甘えようと思えばいくらでも甘えられたのだと思うが。ふむ、と私は思いつつ、まずはライティングテーブルから捜索することにした。


 深いブルーのインクつぼが一つと、ガラスでできたペンが一本。ずいぶんと手入れが行き届いている。それから紙が何枚か束ねられているが、そのいずれもが白紙だった。

 それから一冊の本があった。開いてみると、ビンゴ。どうやらそれは彼女の日記帳だったらしい。ブルーのインクで、丁寧に文章が綴られている。

 ええと、なになに……。

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