聖籠女学院:学園に馴染めない少女と地球に馴染めない少年

1章:冷夏

1節:暗部

静稀しずき先生、これでちょうど100人目です」


 共に組織の仕事をしている彼女は、眼の前で生きている人間を指さして言った。 


「………人間ってこんな状態でも生きていけるものなんですか?」


 彼女は眼の前の惨状に対し、そう呟く。


 眼の前の死体以上人間未満の物体に目を向けて、俺は生徒の質問に答えた。


「何をもって生きていると言うかにもよるが、呼吸をして意識を残してはいる。なら、どんなに悍ましかろうが、不条理であろうが、彼らは生きているんだろうな」


 彼らは皆、一様に生かされている。

 死ぬことを許されず、ただ呼吸だけが彼らの存在理由であり、許されている自由。

 何もない、からっぽの状態。

 未来も無く、現在も無い。

 

────なら、過去にしか生きていく理由が無い俺と何が違うのだろう。


 そんな、馬鹿でも矛盾を指摘できるような頓智を思いついた。


「したいようにできないっていうのは中々辛いもんだな」


 人間屠殺場。


 そう言って差し支えない光景が都市の片隅に存在していた。

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