妖怪カメラ~妖怪助けはスマホのアプリで!?~

弓葉あずさ

第1話「妖怪なんて、大嫌い!」

 カメラのファインダーを、じっと、じぃっとのぞく。

 空は、鮮やかなオレンジ色と、もっと明るい黄金色、高いところは紫色、ところどころほんのりピンクも混じっていて。まぶしいくらいのキレイな夕焼け。

 それを、カシャリ。

 シャッターを押して、美しい夕暮れの一瞬をカメラのなかに閉じ込める。


 カメラは好きだ。私が見たもの、記憶しておきたいもの、大事なものを、残していけるから。

 でも……。


「きゃ……!?」


 持ち上げていたカメラを下ろすと、目の前に口と目がついたヒラヒラした紙が見えた。

 わたし、清海彩衣きよみあいは思わず悲鳴を上げる。

 あきらかに、フツウの紙じゃない。妖怪、化け物、そういうものだ。


「うう……」


 気にしないふりをして横断歩道を渡ろうとすると、首が長すぎる人とすれ違う。多分、『ろくろくび』という妖怪。


「もう、やだ……!」


 わたしは、小さいころからこうなんだ。

 人には見えないものが見える。妖怪とか、幽霊とか。そういう「変なもの」。

 中学生になれば減るかと思ったのに、中学一年生の夏を迎えようとする今も、前と何も変わらない。


『清海さん、どうして妖怪がいるなんて嘘をつくの?』

『こないだ一人でしゃべってたよ? 誰かいたの?』


 昔からそんな風に言われることが多かった。おかげで、友達なんてゼロ。

 でも……ううん、だからこそ。カメラは好きだ。妖怪たちも、写真には写らない。写真でなら、わたしでもみんなと同じ景色を見られるから。

 カメラをぎゅっと抱きしめた。わたしが、この世界とつながるための、大事な大事なお守りのようなカメラ。


「……あれ?」


 横断歩道を渡り終えて、家の前まで来て首を傾げる。


「スマホが落ちてる……。誰かの落とし物かな……?」


 警察に届けた方がいいよね。

 そう思って拾って、――背筋がゾワッとした。


 カメラモードになっていたスマホの画面に見えたのは、一人の翼の生えた男の子と、その頭に乗っている一匹のキツネ。

 でも、ただのキツネじゃない。あきらかに「妖怪」だ。

 男の子の方だってそう。逆光で顔は見えないけど、翼はどこまでも黒い、まがまがしい色をしている。

 どうして……?


「カメラには、妖怪は映らないはずなのに!」


 わたしの一番安心できる場所さえ壊されてしまったみたいで、泣きたくなった。

 手が震えて、持っていたスマホを落としてしまう。

 あわてて拾い上げて、ぎゅっと拳を握る。


 ――落ち着いて、彩衣、深呼吸だ……!


 そうやって一人で涙をこらえていたら、突然後ろから声が聞こえた。


「なあ、君……」

「わあああ!」


 話しかけてきたのは、男の子の声。

 振り返ると、さっき見えた、翼の生えた男の子とキツネ。つまり、妖怪だ!

 まさか話しかけられるなんて!


「いや! 来ないで!!」


 わたしは思わず悲鳴を上げて、反射的にその場から逃げ出した。


「あ、おい。ちょっと!」


 呼び止める声が聞こえる。でもなんとか聞こえないフリだ。急いで家の中に逃げ込む。

 勢いよくドアを閉めて、……耳を澄ませる。

 ……追ってきてはいない、みたい。

 はぁ……と深くため息をついて、そのままズルズルとしゃがみ込んだ。


 今までずっと、妖怪みたいな「変なもの」が見えるせいで「おかしな子」扱いだった。それだけでも苦しいのに、今日はその妖怪に声をかけられてしまった。


「もういや! どうなってるの!」


 ついに、我慢していた涙がこぼれはじめた。

 ぐいっとぬぐいながら叫ぶ。


「妖怪なんて、大嫌い!」


 家の中に響くのは、紛れもないわたしの本音。

 でも一番嫌いなのは……妖怪に怯えるしかない、こんな自分かもしれない。

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