第8話 後編
「美味しい! 荘龍って料理上手だよね!」
一仕事終えて帰宅したレイは褒めちぎりながら、荘龍が作った料理を食べていた。
「教育熱心な両親に育てられたからね。特に親父に躾けられた」
荘龍も自分で作った料理を食べながらそう言った。
「ホント美味しい。このトビウオのつみれ汁とお刺身、オクラと鶏むね肉のサラダ、がごめ昆布で作った松前漬け、山芋の醤油漬け、全部美味しいよ!」
「はは、それは良かった良かった」
平然としながらも、荘龍は目をぎらつかせていた。というのも、今レイが挙げた料理は全て、レイとのラブラブを楽しむための滋養強壮の料理であるからだ。
トビウオ、オクラ、がごめ昆布、山芋、全て滋養に富んだ食材である。それを惜しみなくふんだんに使い、食から精力をつけようとしていた。
「実はまだ秘密兵器があるんだよな」
「え? まだあるの?」
「あるんだなあこれが」
もったいぶるように荘龍はそう言うと、冷蔵庫からタッパをとりだしてテーブルに置いた。
「これってまさか」
「ギョウジャニンニクの醤油漬けでございます。隠し味にごま油も入れてるから」
精力を付ける手っ取り早い方法としては、ニンニクを接種するのが一番ではある。だが、実はニンニクよりも栄養価に富むのがギョウジャニンニクだ。
「ギョウジャニンニクはニンニクよりも栄養価が高いし、こうやって醤油漬けにすると凄い食べやすいんだ。疲労回復にも効果あるしね」
「もう、旦那様ったら素敵! 私の健康まで気遣ってくれるの?」
「愛を育むラブラブには心技体揃ってないと楽しめないでしょ」
「ふふ、荘龍のエッチ」
そう言いつつ、二人は箸を進めていった。
****
「ふう、おなか一杯だよ。久しぶりに美味しい家庭料理食べた気がする」
「久しぶりに作った割には、上手く出来たな。やっぱり、愛する奥さんのためのことを考えると愛のパワーで美味しく作れちゃうんだろうな」
食器を全て洗い終え、食後の一服でお茶を飲んでいる二人は、料理の感想を口にしながらまったりとしていたが、荘龍の言葉にレイは笑顔を向けていた。
「愛は偉大でしょ?」
「偉大だねえ。レイちゃんもこうやって作ってくれる時とか、そのたびに思うもんな。俺愛されてるわと。そして、この愛に報いないとなあって思う」
「大げさだよ。私は別に、見返り欲しくて料理作ってるわけじゃないからね」
照れながらも、やや自信を見せながらレイはそう言い切った。
「知ってる。だって、俺も同じ気持ちで作ってるもんね」
にやにやしている荘龍に、レイは顔が真っ赤になっていた。
「荘龍のドS」
「そうだよ、僕はSです。まだ教えて無かったっけ?」
「もう、あんまり私イジメると荘龍のこと嫌いになっちゃうよ」
「できるのかな? そんなこと」
レイの耳元に近づき、再び荘龍は甘い言葉でレイの心を溶かそうとした。
「やっぱり、荘龍ってドSだ……私がそんなことできないの知ってる癖に……」
「レイちゃんが悪い子だから、俺としてもついつい躾したくなるんだよ。普段は素直でいい子なのに、たまに、反抗期みたいなことするんだよな」
さりげなく荘龍はレイのHカップのバストに手を触れる。エネルギーは食事で充電完了している。そしてここは自宅だ。好き放題やり放題の空間であることを教えこむかのように、荘龍はレイに触れ続けた。
「ああん! だ、旦那様。レイは、とっても悪い子でした」
「そうだね、悪い子だね」
「お詫びに旦那様のために買ったセクシーな下着を披露しますのでお許しください」
性格が鬱屈し、短気で切れやすいレイではあるが、愛する旦那様である荘龍の前では忠実な奥さんになれる。ただ、機嫌をちゃんと取らないととんでもないことになるが、そういうことを差し引いても荘龍は彼女を心の底から愛していた。
「嬉しいなあ。んじゃ、先にお風呂入ってきていいよ」
「え? お風呂場でラブラブは?」
「それは後の楽しみです。今日はムード優先! じっくりと、そしてたっぷり楽しむからね」
荘龍の台詞にレイの翡翠の瞳には、ハートマークが浮かんでいるかのように見えた。実際、蕩けた視線が荘龍に向けられている。
「はい、体キレイキレイにして来ます」
「行ってらっしゃい」
レイが浴室に向かうと、荘龍はこの後のプランについてのシミュレーションを行っていた。
「ランジェリーショーした後はがっつり楽しんで、その後に風呂場でラブラブして、ベッドでラブラブして、完全にレイちゃんを楽しんでやろ」
想像したら思わず股間が盛り上がり、興奮して鼻から出血していた。
「やべえ! 興奮し過ぎた!」
まるで思春期の中坊かと思いながら鼻にティッシュを詰め込んで止血する。今の荘龍は噴火寸前の火山も同然であった。
「次からは、回数少なくても五日もしないっていうことは無いようにしないとな」
でないと精神も体も、もたないどころか破綻してしまう。そんなことを考えていると、唐突に業務端末から着信音が響いた。いやな予感がするが、かけてきた相手が室長である加納明之であったために出ないわけにはいかない。
「はいもしもし」
「おう、よろしくやってるところ悪いんだが……」
「本日の業務は終了いたしました」
また休みをぶち壊すつもりであることを悟った荘龍は、そう言って電話を切った。だが、当然ながらそんなことでめげる相手でもないため、再びコールする。
「いきなり切る奴がいるか!」
「いきなりかけてくるのもどうかと思いますよ」
「そういう問題じゃない! また出たんだよ」
「幽霊ですか?」
「バカ! 吸血鬼だ! すでにお前以外のメンバーは出動している」
「なら別に構わんでしょ」
自分がいなくても、圭祐を筆頭にしたあの四人がいれば十分すぎるどころかおつりが出るほどだ。伊達に精鋭部隊を名乗っていない。
「前回以上にグールも吸血鬼も多い。それに、霊安室の連中がやらかした」
「ションベンでも漏らしたんですか?」
「とち狂ったのか、まともな装備もないのに突撃かましやがってな。突入要員全員がグールと吸血鬼になった」
あまりにもお粗末な話に、荘龍は頭を押さえながらため息をついてしまった。
「連中自殺願望でもあるんですか?」
「先日、お前たちがたった三十分でケリをつけたことに対抗しようとしたらしい。今となっては愚行ではあるが、後始末やってくれ。頼む」
先日も草津で同じような連絡を受けてしまったが、流石にこういう状況では無視するわけにもいかない。
「離婚危機になったら、室長がレイちゃんとカーちゃんに土下座して事情を話してくださいね!」
「いくらでも土下座してやるわい。頼んだぞ!」
会話を終えると荘龍はさっそく仕事着であるスーツに着替え、愛用しているハンチングをかぶる。そして、手紙のメモと、レイのスマホにメッセージを残すと、愛車のグレイブへと向かった。
「エヘヘ! 旦那様見て見て! 旦那様が大好きなランジェリーだ……よ?」
紅蓮に染まったかなり際どい下着に着替えて戻ってきたレイは、荘龍がいないことに気づく。
「このメモなんだろ?」
読んだ瞬間にレイは先ほどのデレデレ顔から一瞬で真顔へと変わる。そして、スマホに残った「任務が入ったので出かける。ゴメンね」というメッセージを目にすると、凍りつくかのような冷たい表情を取った。
その表情になると、レイは無言で自分の業務端末を取り出す。
「あ、室長ですか? 天城です。私も出動させてくれませんか? え、それはできない?」
いきなり出動を拒否されたことに怒りながらも、あくまでレイは冷静さを保っていた。
「私の夫を出動させておいて、私が出動できないのはどういう理屈ですか? 別に私が出動したいんだからいいじゃないですか。さっさとケリ付けた方がいいでしょう。私の能力をお忘れですか?」
レイも
「あんまりグダグダ言うと、お義母さんに言いつけますよ。え? それは困るって? 知りませんよそんなこと。取りあえず、私も現場向かいますからね。それでは失礼」
一方的に電話をかけると、レイはライダースーツに着替え、能力を発動させる。アプリコットブロンドの髪が一瞬で銀色へと変わり、翡翠のような瞳は、身に着けている下着以上に鮮やかな真紅へと変化する。
「久しぶりに、気合入れなきゃいけないようね」
レイは特捜室科学班に所属しているが、実はアーマード・デルタの一員でもある。
彼女はミラージュのコードネームを持ち、白銀の牙の異名を持っている対魔族戦のスペシャリストでもあった。
「さあ、暴れまくるグールと吸血鬼のお掃除に行きましょうか」
愛用しているフルフェイスメットをかぶり、レイはガレージへと向かう。
グレイブと同じヴァーハナ社が製造した大型バイク、クレイモア。1500ccの排気量を持ちながら、ネイキッドとクルーザーを合わせ、水素エンジンバイクの速さをとことんまでに追求したこのバイクをレイは愛用していた。
「私の事放置した旦那様にも、お仕置きしなきゃいけないわね」
不敵にかつ、ある種の不気味さを含んだ笑みを浮かべ、レイは颯爽と出撃していったのであった。
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