第3話 後編

「キッドの奴簡単にやられちゃったね」


「所詮あいつはグール製造機よ」


「だけど、アーマード・デルタ相手じゃ分が悪いよね」


「何とかなるでしょ、俺たちならさ」


 四体の吸血鬼たちが荘龍たちを見下しながら、好き勝手なことを言っていたが、全員が紅蓮の弓矢ならぬ、紅蓮の閃光に射貫かれ、天井から崩れ落ちてきた。


「おうおう、上から目線だな」


 クリムゾンから放たれた高出力レーザーの威力に、流石の吸血鬼たちも多少は怯んだようだ。


「いきなりレーザーを乱射するとか卑怯じゃないか」


 吸血鬼たちの中でも、一番背丈がでかい奴が恨み混じった目でこちらを睨んでくる。


「人質とって、最終的には全員グールにして処分させやがったお前らに言われたくはねえよ」


「殺したのはあんたらじゃない。可愛いグールちゃんたちを、よくもまあ殺しちゃってさ」


 圭祐の雷撃ですでにグールの大半は無力化されている。後は、ほとんど掃討戦に移行しているようなものだ。


「お前らとおしゃべりするために、ここに来たわけじゃねえんだわ。こちとら、いろんなことをが起きすぎて怒りで頭が爆発しそうになってるんでな」


 かろうじて理性を保ちながらも、怒りを爆発させようとしている荘龍ではあったが、これぐらいで怒りが爆発するようでは特捜室の切り札、アーマード・デルタの隊長は務まらない。

 

 それを分かっているからか、圭佑も荘龍のフォローを一切するつもりはなかった。


 無駄なことを嫌う圭祐は、フォローする必要性がないことを知っているからだ。


「頭が爆発するなら、爆発したみたいにさせてあげようか? つぶれたトマトかスイカみたいにしてあげるよ!」


 ケラケラと笑う吸血鬼の一体が、ふざけた口調でそう言った瞬間に紅の拳が吸血鬼の顔面に突き刺さった。

 

「何!」


 かろうじて反応できた吸血鬼も、胸部に荘龍の蹴りを受けて吹っ飛ばされる。その蹴りの一撃は、内臓がまるで吹き飛んだかのような痛みを与えていた。


「何だよ、パワーアップした割には雑魚のまんまだな」


「調子に乗るんじゃない!」


 残り二体の吸血鬼が連携を取りながら、蹴りと突きを交えてくるが、荘龍は身を翻して回避し、逆にクリムゾンでのレーザー射撃で反撃する。


 真紅のレーザーが吸血鬼たちの肉を切り裂きながら焼き焦がしていく。生命力が高い吸血鬼にとっては、すぐに再生する程度の攻撃に過ぎないが、身を文字通り焦がして穿っていくのだ。その痛みは精神すら穿つほどに強烈な代物だ。


「強い……」


「お前らが弱いだけさ。力を手に入れただけの奴は所詮こんなもんだ。宝くじ当てた奴が、大金に目がくらんで堕落して破滅するのと同じことだぜ」


 装甲の下で悪い笑顔を作りながら、荘龍はさらにクリムゾンを連射する。一撃で倒せるエネルギーマグナムではなく、あえて連射可能なレーザーを使っているのは、意図的に苦痛を与えるためだ。


「くっそ……痛い……」


「痛えのは生きてる証拠だ。生きたままグールの餌にしたり、グールにしやがったんだ。天罰だと思った方が身のためだぜ」


「やかましい!」


 背が大きい吸血鬼が殴りかかってくるが、荘龍は吸血鬼の顔面に再びクリムゾンを連射する。


 脳をも貫いているが、脳細胞すら再生可能な吸血鬼にとっては致命傷にならない。だが、肉を直接焼き焦がすその痛みは尋常なものではない。


 実際、痛みに苦しみながら、吸血鬼は地面を転がりまわっていた。


「お前らのアドバンテージはことだ。だがよ、死ねないっていうのはつらいよな。普通ならとっくの昔に死んでいられるのに、苦痛にまみれてフルボッコにされるんだ。人間やめた対価がこれか?」


 グールを退治しながら、圭祐は荘龍が久しぶりに激怒していることを再認識する。


 普通ならばこの手の任務ならば、さっさとケリを付けている。それが意地の悪いサディスティックな行動を取っているのは、単に有給を潰されただけではない。


 荘龍は人間を辞めて超越した何かになったと勘違いし、他者の命を貪る輩をこの世で最も憎んでいる。


 自分もまた、普通の人間ではないからこそ、特殊な力を持っているからといって、それを理由に他者を弄り、一方的に踏みにじるような輩が許せない。


 尤もそれは圭祐も同じではあるが。


「逃げるなら今のうちだぞ」


 荘龍の暴れっぷりを見かねた圭祐が吸血鬼たちに助け船を出す。


「お前たちが相手をしているのは紅蓮の龍王だ。お前ら如きが勝てる相手なんかじゃない。お前らよりも強い吸血鬼は無論のこと、蛇の一族ナーガ魔獣軍団ベスティ・ヴァッフェの幹部連中も何人かあの世に送ってるぐらいだからな」


「うるせえ!」

 

 負けん気が強そうな吸血鬼がそう叫ぶ。しかし、圭祐は冷静なままだった。


「虎が鶏を食い散らかすのは戦いではなく、単なる餌付けだ。お前らには荷が重すぎる。逃げるなら今だぞ。俺はこう見えて平和主義者なんだ」


 そう言いつつ、圭祐は両腕から電流を発生させる。徒手空拳を使わず、能力だけでグールを一掃し、殲滅できる力は、ある意味荘龍よりも危険な力と言えるだろう。


 穏やかではあるが、全力での威圧に耐えられなくなった二体の吸血鬼が二人に背を向けて裏口へと逃走を図った。


 自分よりも強い相手と対峙した場合、逃げるという選択肢は最良の選択だ。生き残る確率も格段に高まる。


 しかし、それは相手が無為無策の場合であった場合の話だ。仮にもアーマード・デルタの隊長と副隊長がそんな迂闊な隙やミスをするはずがない。


 逃げた二人の吸血鬼はによって槍で腹部を貫かれ、片腕を刀で切り落とされていた。


「あ、忘れてた。退路は塞いでいたんだな。すまんすまん」


 ややからかう口調で圭祐は自分のうっかりを口にした。


「えげつないことするわ」


「逃げ場がないっていうことがいかに恐ろしいことであるか、身を持って体験させた方がいいかなと思ってな」


 荘龍の指摘に圭祐は、ストレートに恐怖を煽ったことを告白する。

 

「連中も同じことやらかしてるからな。少しは、逃げ場がないことの恐ろしさが分かっただろうよ」


 こういう悪意のある策は、圭祐は息をするが如く思いつく。こういうえげつなさとサディストぶりは、荘龍も今回のように犠牲者になるほどだ。


「それに、あいつにもきちんと働いてもらった方がいいだろ」


 圭佑の視線の先にはコードネームクフィール、武藤宗護が槍と刀を手にしていた。


「刀と槍程度で俺たちを殺せると思うなよ」


 腕を切られた吸血鬼が虚勢を張るが、そんなことは宗護が一番理解していることだ。


「そうだな、だからお前らは徹底的に灰にしてやるよ」


 それぞれ唐獅子と金獅子と名付けられた槍と刀が、文字通り燃え上がり、それぞれ炎の槍と刀へと変化していく。


「お前らに言い忘れたが、そいつはだ。吸血鬼にとっては天敵みたいな奴だぜ」


 荘龍が茶化すようにそう言うが、炎を自在に操り武器にする宗護の能力は、凄まじい再生能力を持つ吸血鬼であっても意味がない。

  

 なにしろ、細胞全てを焼き尽くされてしまえば再生は不可能である。


 こういう生物系の相手に対して、宗護の能力は抜群の効果を発揮する。


「ご解説ありがとうございます。ということで、お前らの行き先は地獄だ」


 唐獅子で吸血鬼の腹部を貫き、吸血鬼を焼き焦がす。さらに刀身に炎を纏った金獅子で吸血鬼を唐竹割りから胴を薙いで四分割すると、それぞれの肉片が一瞬で焼死体となり、勢いよく燃え上がっていく。


 その光景に、逃げ遅れた二体の吸血鬼は呆然としていた。


「どうだ、一方的な力で蹂躙されて逃げ場もない環境っていうのは?」


 嫌みを込める荘龍に、先ほどまで調子に乗っていた吸血鬼達はすっかりおびえていた。


「助けてください……」


「なんだよギブアップ宣言か? もう少し根性見せろよ。一般人を食い物にしても、自分よりも強い奴には卑屈になれるんだな」


 その態度がむかついたのか、荘龍は命乞いをした吸血鬼にエネルギーマグナムを放つ。


 上半身がキレイさっぱりと消滅した姿に、生き残った最後の吸血鬼は自分に翼があることを思い出して空への逃走を図る。


 しかし、天井へと到達した瞬間に、蒼天が如く蒼き装甲を纏った蹴りが、吸血鬼の顔面を破壊していた。


「逃がしませんよ」


 遊撃要員、対空監視要員として空中待機していた涼子が、空へと逃れる吸血鬼を逃がすわけが無かった。


「涼子ナイス。今度ビール奢ってやる」


 荘龍は涼子をほめると、吸血鬼の頭にクリムゾンを突きつけた。


「確実に死が迫ってくる気分はどうだ?」


「お願いです、助けてください。どうか逮捕してください」


 必死に命乞いをする吸血鬼に、荘龍は顔面を蹴り飛ばす。


「何その態度、死ぬ気でこういう事件起こしたんじゃないの?」


「申し訳ございません! 完全に調子乗ってました!」


「今も調子乗ってるよな。というか、これだけ散々暴れまわって、グールにして、人殺しまくった癖に助けてくれ? 吸血鬼になると痴呆にでもなるのか?」


 嫌みを交えながら、荘龍は吸血鬼たちの悪行を容赦なく指摘していく。


「お前たちが殺したり、グールにした人達だって、死にたくもグールにもなりたくはなかっただろうよ。必死に命乞いも抵抗もしたはずだ。んで、お前らはそれに耳貸したか?」


「本当にすいません! 力をもらったから調子に乗ってしまいました! どうか、どうかお許しください! お慈悲をください!」


「許しもしねえ、助けもしねえが、俺も鬼じゃない。慈悲ぐらいは特別に与えてやるわ」


 その言葉に、圭祐は無論のこと、宗護も涼子もこの哀れな吸血鬼の末路を悟ったが、吸血鬼は慈悲にすがりつこうとした。


「ありがとうございます!」


「そうかそうか、そんなに嬉しいか。なら、遠慮なくご臨終してな」


 再びクリムゾンを吸血鬼に突きつけるが、吸血鬼は半狂乱になった。


「話が違うでしょ! お慈悲はどこに行ったんですか!」


「あほか? 吸血鬼とグールは皆殺しにするのがルールだ。逮捕しようにも、そこからまたグールと吸血鬼が発生したらどうするつもりだよ。俺国家公務員よ。法律と規律は守らなきゃいけないんだわ」


 吸血鬼とグールはその危険性から、殺処分することが認められている。それを盾に荘龍は吸血鬼の命乞いに絶望を与えた。


「ということで、アディオス。あの世では真っ当に生きろよ」


「嫌だ!!!!!」

 

 見苦しい死に様を見せながら、エネルギーマグナムの直撃を食らい、吸血鬼は他の仲間と同じく上半身を消滅させられてしまった。


 無様な死体だけが今はさらされている。


 つくづく、因果な仕事についたものだと荘龍は心の中で愚痴をこぼした。

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