雨の国の公女

夢月みつき

前編「雨の日の出会い」

「雨の国の公女」表紙

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16817330669170456792





 私は、地の国の王太子セレット、セレット=イェンジェル。

 6月、梅雨の時期になり、連日のように雨が降る。

 天の恵み、干上がり気味だった私の国の井戸も、田畑も潤う。


 庭園のカエル達も、喜んでいるように鳴いている。

 だが、こう雨天ばかりだと気が滅入る。

 私は、書類にサインをしながら、城の仕事部屋の窓から外を見ていた。

 すると、空から薄い羽が生えた、妖精のように可憐な女性がバルコニーへ降りて来た。


 私が驚いていると、彼女は窓をコンコンと叩いて、私に微笑みかけて来た。

「すみません。凄い雨ですね。少し、雨宿りさせていただけますでしょうか?」

「雨宿りくらいどうぞ。外は冷えるでしょう。よろしければ、中に入りませんか」


 私は、彼女に興味があり、部屋の中へと招き入れた。

「ありがとうございます。わたくしは、雨の国の公女リゼリア=レイン。あなたは?」

 リゼリアは、タオルで髪や身体を拭きながら私に問い掛けた。

「私は、この城の王太子、セレット=イェンジェルです。」


 私とリゼリアは、話しをしているうちに打ち解けて来て、会話が弾む。

 くしゅんとリゼリアが、くしゃみをした。

「大丈夫ですか?リゼリア嬢。風邪を引きますよ。さ、これを」


 私は、リゼリアに自分の上着を着せた。

「ありがとうございます。セレット様。お優しいのですね」

 先程まで、降っていた雨は小降りになり、雲間から陽が差し込んできた。

「ああ、もう、雨が止んでしまいますわ。雨の国の公女は、雨の日だけしか地上に降りてはいけない掟があるのです」


 私は、驚いて彼女のきゃしゃな手を握った。

「貴女と離れたくない。この国にずっと、いてくれませんか?」

 私と彼女は頬を赤らめて、見つめ合った。


「それは無理です。ですが、次の雨の日には必ず、またここへ来ます。その時は、わたくしをお嫁様にしてくださいませ」

「承知した!必ず、リゼリアを私の妻にしよう」


 私とリゼリアは、熱い抱擁をし、口づけをした。

 リゼリアは、私と固い約束をして、雨が止むのと同時に空に存在する雨の国へと帰って行った。



 ――“雨よ、降れ。”一秒でも、早く貴女(貴方)に逢いたい。――



 🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛

 〇「雨の国の公女」登場人物紹介〇



 セレット=イェンジェル

 地の国の王太子。


 リゼリア=レイン

 雨の国の公女。





 後編に続きます。

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