2.親猫が子猫を運ぶあれみたいな

 ドラゴンかー。

 まじかー。

 てことは翼もあるのかな?

 あったわ。

 前脚よりも太くて爪も鉤爪とでも言った方が良さそう。

 ていうかこれも脚みたいな形をしてる。

 なんだろ、翼腕?そんな感じ。

 試しににぎにぎしてみたら人の手みたいに動いた。

 指は四本だけど、案外便利かもしれない。


 それにしても転生か…。

 転生ってことは前の世界での私は死んだって事だよね?

 そっか、私死んじゃったのか。

 葬式とか大変そうだな。

 あんな親だったけど、私が死んで悲しんだりしてるんだろうな。


 うん、やっぱりないわ。

 絶対悲しんでない。

 むしろ葬式めんどっ、くらいにしか考えてなさそう。

 そういうドライな関係だったしね、私たち家族って。

 あれ、なんだろう、自分で言ってて涙が……。

 ま、まあいいけどね。

 私にとっても他人みたいな感じだったしね。

 悲しくなんてないやい!


 よし、うじうじするの終了。

 どうにもならない事で落ち込んでても仕方ない。

 前の私が死んでたとしても今の私はここにいる。

 それなら目いっぱい生を謳歌しちゃおうぜってポリシーで行こう。


 さて、じゃあとりあえず外見てみるか。

 ていうかこっちの世界での私の母親どこよ。

 まったく、育児放棄とはなってませんなー。

 どこの世界にも子供を放置する親ってのはいるもんなのね。


 あ、転生はしたけど異世界とは限らないのかな?

 もしかしたら今の私って地球ではまだ見つかってないとかって可能性も無くはないよね。

 だって異世界転生もののお約束と言ったら女神の加護とかチートスキルとかだけど、私そういうの貰ってないし。


 洞穴の外は開けていた。

 前世と変わらず明るく暖かく照りつける太陽。

 入口付近は遮蔽物もない広場みたいになっていて、吹き付ける風が心地いい。

 眼下を見下ろせば、豊かに生い茂る森。

 遠くには大きな川も見える。


 肌で感じた。

 ここは正真正銘紛れもない異世界だ。

 地球上にこんな雄大な大自然が広がっているわけがない。

 そう思うほど、その景色は圧倒的だった。


 はあー…景色見て感動するとか思わなかったな。

 前世じゃ大自然なんかドキュメンタリー番組かなんかじゃないと見れなかったしね。

 それもここまでじゃなかったし。


 不意に、頭上を影か横切った。

 直後、広場に何かが着地する。


 それは美しい龍だった。

 ほのかに金色に煌めく純白の鱗。

 四足で地を踏みしめる姿には王者の気品が漂い、体を覆うように畳まれた翼腕にはそれを強調するかのような鉤爪が備わっている。

 神々しさの中にどこか禍々しさを感じさせる龍だ。


 あれマイマザーかしら。

 私もあんな風に陽の光は反射してないけど白い鱗だし。

 あとあんな感じの翼あるし。

 てかデカイなマイマザー。

 尻尾も合わせれば体長20メートルくらいあるんでない?

 私もあれくらい育つ余地はあるのかな。


 なんて考えながらぼーっと見つめてたらマイマザーが駆け寄ってきた。

 この広場そんなに広くないからすぐ目の前に来たんだけどね。

 と思ったら首根っこ咥えられて洞穴の中に戻された。


 あれー?

 待って待って私はしばらく景色見てたいの。

 座り込んで前脚の間に挟まないでください。

 落ち着きますけど。

 そう思ってまた洞穴から出ようとしたら、今度は翼腕に捕まった。

 マイマザーの顔の前まで持ってかれて、めっ!みたいにされる。


『めっ』


 ていうか言われた。

 いや喋れるんかい!

 今の一瞬で凄いイメージ崩れたわ!

 龍ってもっと厳格な感じじゃないのか!?

 なんだそのちょっと抜けたお母さんみたいな感じは!


『まだ外に出ちゃダメでしょ』


 これは念話的ななにかだな!

 口動いてないしな!

 そうか!

 なら伝われこの思い!


『外行きたい』


 お、おお?

 今の私の声か?

 伝われとは思ったけども。

 かと言ってまさか私も喋れるとは思わないでしょ。

 おかげでめっちゃ無愛想になったわ。

 まあそんなの関係なくまともに喋れないけどな!

 いやマジで。

 ヒトコワイ。


『まったく、しょうがないわね…』


 少し悩んだ末にマイマザーが渋々といった感じで体を起こす。

 すみませんね、わがまま言って。

 私まだ子供なもんで。


 子供扱いされたらキレるけどな。

 子供扱いされたいときは子供として振る舞います。

 あれれー?おかしいよー?

 みたいにね。

 僕ちょっとトイレ〜。

 とかね。


 ところで、あの、咥えるの止めてもらえます?

 1人で歩けるんで。


『離して』

『ダメ』


 そっすか…。

 ムガー!と無駄な抵抗を試みるもマジで無駄な抵抗。

 緩む気配すらない。

 諦めた方が良さそうだね。


 洞穴の外に出ると、またマイマザーが私を前脚の間に挟んだ。

 次は脱出させる気はなさそう。


 まあ、マイマザーにとって私は生まれたばかりのコドモドラゴンだもんね。

 何の因果か中身は別の世界の高校生だけど、それをこの龍は知らない。

 きっと崖から落ちたら危ないとか考えてるんだろう。

 そう考えると、この姿勢も結構悪くない。

 落ち着くし。

 何より自分の身を案じてくれてる存在というのが初めての感覚で、何ともこそばゆい。

 それならしばらくこのままでもいいかな。


「くあ」


 落ち着いたら眠くなってきた。

 陽当たりがいいし風も爽やかだ。

 お昼寝には絶好の天気。

 これで寝ないのは天気への冒涜だよね。


 やばい、眠過ぎて自分で何言ってるかわからん。

 それだけ眠いってことだね。

 じゃあ、おやすみなさーい。

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