第3話親友の妹
「恭平さ〜〜〜〜ん」
徹夜明けのうららかな春の日差しが眩しいですね。
もうすぐ夏が来るせいでしょう。
そんな現実逃避をする俺に小柄ななにかが背後から飛び付いてくる。
衝撃にも揺らぐことなく、そのなにかを背負うチャラ男の体幹に内心嫉妬の念を抱かないでもないが、もはやこの身体のスペックを気にしても仕方がない。
転生なら転生らしく、超え太った駄肉を俺の軽やかにして素晴らしきド根性で、強くしなやかに鍛えていく目標が消えただけのこと。
そんな根性があるなら、この身体になる前からしているはずなので考えない考えない。
背中に飛び込んで来たのは、真夏の朝に訪れたイタズラ妖精。
俺が謝っても謝り切れない親友真幸の妹、麗しき乙女の
俺たちの2歳下。
高校入学したてだが、すでに学年1位と評判の長い黒髪が清楚さと美しさが調和した少女である。
元気っ子ぽいノリで俺に飛びつくが、学校ではもう少し
作っているというほどではないが、ヤンチャな元気っ子というわけでもない。
キリちゃ〜んと、名前を呼ばれるとファンにでも応えるかのように、笑顔で小さく手を振っていたのを見たことがある。
アイドル?
そういう娘にまだ人通りは少ないとはいえ通学路で抱き付かれているので、俺のチャラ男伝説に拍車がかかってしまうことだろう、無念。
そんな早くも人気者の彼女だが、俺が高校1年で稀李が中学2年のときから、何度か真幸の家に遊びに行くうちに懐かれた。
「おはよう、
いつものことなので俺は親戚の小さい子にしがみつかれた時と同じように、頭を後ろ手で撫でる。
親戚の小さい子とかにしがみつかれたことないけど。
その真幸の妹の
やめなさい、加齢臭がしたらどうする!
風呂にはもちろん入った。
鍛えられた肉体を鏡で見ながら、オレ、ウツクシイとポージングをとってしまったのは墓場まで持っていく秘密だ。
チャラ男恭平は見た目は細いが鍛えてある。
「んー、恭平さんのにおーい。
んっ、あれ?」
「どうした?
えっ、まさか臭い!?
俺くさい!?」
加齢臭か、加齢臭がしてしまったか!?
肉体は若者チャラ男だから30歳童貞の魂から加齢が!
「あっ、あー……。
いえ、いつもの恭平さんの
気のせいかな、と稀李は呟く。
俺から香る
芳しいとか普通言わないよね?
俺、芳香剤か何かだろうか。
加齢臭ではなかったのは良かったが。
匂いも日々のケアが大切だから。
「恭平さんは今日は姫ちゃんとお兄ちゃん一緒じゃないの?」
「いつも一緒じゃないぞ?」
突然なんだ?
登校途中で会ったりしない限り一緒だったことはない。
高校に入り真幸と親友同士となり家にまで遊びに行くようになっても、表立ってその彼女である姫乃と会う頻度はそこまで高くない……というか会わない。
「クラスでは上手くやってるか?」
「うん、早速今日の放課後遊びに行くんだ」
「店なら隣駅のウェルネスっていうカフェのふわふわホットケーキがオススメだ。
あとなにかあればすぐ言えよ〜。
駆けつけるから。
悪い遊びを覚えたらダメだぞ?」
そう言って稀李に注意を促した。
果たして俺はそれらのことを一体どの立場で言っているのだろうか。
親戚のおじちゃ……お兄さん?
「相変わらず優しいなぁ、恭平さんはぁ〜。
好きー!!」
「はいはい、ありがとう。
俺も可愛い稀李ちゃんは大好きだよ〜。
あ、こういうこと言うチャラいお兄さんは1番危険だから気をつけろよ」
いやマジで。
「……うん」
少し寂しそうに稀李は微笑む。
「本当になにかあったか?
話聞くぞ?」
「大丈夫。
恭平さんが私と恋人になってくれれば」
「そいつは出来ねぇ相談だ。
俺は可愛い女の子みんなのモノだからね」
「そういうことにしておいてあげよう」
稀李は俺の背中から降りずに、お姉さんぶるように、しょうがないなぁと付け加える。
いつのまにか俺が親戚の稀李お姉さんに転がされてる?
「あー!
私の稀李ちゃんだ!」
そこに偶然にも姫乃の声が届く。
振り返ると真幸と一緒に登校時の丘を爽やかに登るが如く、手を振り真っ直ぐに進みくる姫乃と真幸の姿。
真幸は見た目こそ普通だが、優しく中身がイケメンだ。
俺もそうなりたい……。
「いやぁ〜ん、恭平くんもいるんだよぉ〜!」
俺は身体をクネクネさせてわざとらしく存在をアピール。
なぁんてな、チラッと姫乃が俺を視界に収めたのは目線で気づいてた。
チャラ男、目も良い。
姫乃は何気に手を上に挙げるので、俺は陽気にその手に向けて、へーいとテンション高めに軽くハイタッチ。
昨日の大人しめの雰囲気ではなく、学校や真幸といるときの姫乃。
俺、通称幼馴染モードである。
爽やかな高校生の幼馴染カップルですね。
うん、ストレスで吐きそう。
浮気した次の日で俺たちは普通の顔である。
しかも昨日の姫乃の心を惹く表情を思い出してしまい、いまの姫乃とのギャップでうずくまってしまう。
俺だけが知ってる表情なのだと俺の心によぎってしまったことで、罪悪感と欲望とがねり混ざって地獄絵図のコラボレーションだ。
「なに!?
恭平くんどうしたの!?」
姫乃は心配して声をかけてくる。
ちくしょぉおおおおおおお、可愛い!!!
なお、稀李は背中におぶさったまま。
「ところで稀李さん、そろそろ降りませんか?」
「え〜?」
稀李は嬉しそうな響きで不満の声をあげる。
中学生の頃からこんな感じだが、お互いもう高校生。
色々と世間の目も気になる感じでしてよ?
「きーりー、恭平に甘えすぎだ。
それに恭平、大丈夫か?
結構しんどいか?」
見かねて真幸が声を掛けてくれる。
「おお、我が友よ。
ちょっと寝不足なだけだ」
情報収集で寝ていない。
あと若いがゆえに悶々とした悩みを抱えてしまう年頃なのだ。
「ぶー、お兄ちゃん邪魔しないでよ」
「節度って言葉覚えろよ」
兄妹2人が話をしている隙をついたわけでもないだろうが、いつのまにか姫乃がしゃがみ込み俺に接近していた。
「熱、あるんじゃない?」
悩みの大元が額に手を当ててくる。
目が合った瞬間にビリリと痺れるような感覚が来た。
身体の底から甘い痺れと熱が湧き起こる。
情動的共感性とでも言うべきか。
テレパシーというわけでもないのに、2人同時に同じ感覚を共有してしまったのだ。
視線がまるで身体の交わりのように、俺たち2人の身体が繋がった記憶と結びつく。
無理矢理にでも言葉にするなら、お互いの身体を求める欲情がこの感情に近いかもしれない。
当然、俺たち2人が持ってはいけない感覚だ。
2人で同時にマズいという一瞬の表情。
その空気をかき消すように姫乃は絞り出すように赤い顔で俺に尋ねた。
「ね、熱あるんじゃない?」
姫乃のその顔は昨日の事後に照れていたあの表情を彷彿とさせ、30歳童貞の身にはあまりにも刺激的過ぎたが気合いで耐える。
「あらん、たいへぇ〜ん!
保健室で寝なきゃ!」
イヤンイヤンと自分の頬に手を当て、クネクネとわざとらしく揺れる。
「いやいや、帰って寝たら良いでしょ」
「あははは」
あの家に帰るのはなんだか嫌だなぁ。
「とにかく恭平、保健室行くでも良いが無理すんなよ」
「ありがと、真幸。
お前は良いやつだなぁー!」
俺は飛び上がるように立ち上がり真幸に抱きつく。
「はいはい、悩みでもあるなら聞くぞ?」
調子の良い俺の態度に真幸は気にもしないでに背中を叩く。
「……ありがとな」
そんな俺は、やっぱり最低ヤロウだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます