第1話ただひたすらに苦い
突然だが、俺は30歳童貞で死んだ転生者である。
ここから異世界で不思議な力に目覚めて自由に楽しいハッピー(お花畑)生活が待っている。
……などということはない。
俺が目覚めるとチャラ男になって、白と茶色のバランスの整ったホテルの部屋に居た。
俺は
女の子にも照れずに口説き文句を言えるチャラ男に転生したようだ。
この身体は基本的に俺の意思優先だが、俺が動かなければセミオートでチャラ男モードで身体が動くようだ。
俺のすぐ横には同じようにベッドの上に座る可愛い女性がいる。
恥ずかしそうにやや下を向いて俺の動きを待っている。
長い黒髪がさらりと流れ、とても美しく清楚という言葉が似合う可愛い少女。
チャラ男としての記憶はある。
記憶といっても勉強で得た知識のような感覚だ。
自分が得た経験である実感はない。
だからその、俺たちがアレやコレやした記憶も知識で、そういうことがあったと知っているというだけで……ぐぬぬ。
なので俺が……俺たちが現在いる場所についても知識で知っている。
ラブホテルという選ばれし者にしか入れない聖地である。
こういうところってマジで変な色の空間なんだと思っていたが、普通に綺麗なホテルっぽい。
そんなところで行われてしまったことを想像すると、なんだか心臓がドキドキする。
病気かな?
すでに服こそ来ているが、見たことのないピンク色した物体(液体入り)と乱れたベッドにシワのついた服。
服に隠れた肌には幾つかの赤い斑点、キスマークってこういうのかな。
隣にはこれまた少しシワのついた白いフワリとしたオーバーとシャツに緑色のロングスカート。
女の子の服ってどうしてこんなに可愛く見えるんでしょう?
俺はどこにでもあるTシャツにジーパン……ではなく、オシャレな上着もあってブランド物。
このチャラ男できる……。
彼女の首元にはチャラ男の俺がプレゼントした、羽の飾りのついた銀色のネックレス。
浮気相手から貰ったアクセサリーとか付けるのは、少しヤバくございませんか?
そんな赤い顔した可愛い親友の彼女は、俺が動き出すのを自分の髪を指先でいじり、上目遣い見ながら静かに待っている。
汗で乱れた髪と事後感漂う吐息が合わさり、なまめかしくエッッッロい!?
いつもクラスで見るような雰囲気ではなく、いまは少し恥ずかしそうに俺を見つめる美少女。
その仕草が俺の好みにズドンとど真ん中を貫いてくる。
……覚醒早々、俺はもうダメかもしれん。
今日は髪を下ろしているが、いつもは背中に届く長さの艶のある髪を一本にまとめ、学校でも1番の美少女と言える可愛らしい顔立ち。
まあ、学校1番の美少女というのは、学校内でも数人いて、要するにその人の好み次第ではある。
俺にとってそれが親友の彼女というわけだから、その
頭が混乱してきた。
つまり親友の彼女を寝取ってしまったチャラ男。
それが俺、川野恭平である。
ちなみに彼女は親友とは昔からの幼馴染だそうだ。
なのにラブホテルの部屋には親友抜きの俺と彼女の当然2人っきり。
はい、100人いたら200人がヤッチャッタね、と納得する。
倍に増えてる?
見なくても聞いただけで事後ってわかるからだよ。
記憶によるとこれが初回ってこともなく、最初は1ヶ月に1回、やがて2週間に1度、ついには毎週。
ときには
さらに言えば、彼女の初めてもこのチャラ男が奪ってしまったらしい。
もう色々あかん。
行為の記憶はないのに、事実だけはわかるってなんとも理不尽な気持ち……。
誘い方はお決まりの、彼氏とする前に練習した方が良いんじゃない?
お決まりのそんな言葉に姫乃も乗せられたようで。
乗せられるなぁァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!
最初に言っておく。
俺は寝取りだとか浮気だとか大嫌いだ。
心の底から大っ嫌いっだ!!!!
ついでに寝取られるような女も大っ嫌いだが、いま目の前にいる愛しい彼氏にはにかむような笑みを見せる彼女は超可愛い!!
超・絶・可愛い!
可愛いと、この寝取られ女め、という相反する想いが混ざり合って、手繋ぎでぐるぐるとタップダンスを躍りやがる!!
最終的にはボクシング対決に発展して、激闘12Rついに可愛いがK.O勝ちやがったぁぁあ!
互いの健闘を讃えあう可愛いと寝取られ、だが確かに勝利したのは可愛い!!
そんわけでどうしようもなく可愛い!!
ちくしょう!!!
30になるまで真なる童貞として清く間違ったブラック企業で命をすり減らし、ついに部屋でライトノベルを掲げたまま、その生を閉じた。
それでも愛に
それでも!!!!!!
最期の瞬間まで肉欲に溺れ裏切りや浮気をすることのなく、清く正しく美しく、聖なる童貞としてその生を終えられたことは俺の密かなる誇りである。
そんな俺が目覚めたのは、全ての禁忌の
ゲームならスタッフロールが流れて、あとは後日談で終了ぐらいの勢いだ。
無論、バットエンドだ。
なのに、そこにはまるで愛し合う恋人同士の熱い蜜月の事後感漂うその現場。
その手遅れ感には頭も真っ白になろうというものだ。
罪深き身体のチャラ男とその親友の幼馴染兼彼女と1つになって、快楽を
それって寝取り浮気ってやつだよねぇ〜、と俺の頭はしたくもない現実を認識する。
何度も言うが、この部屋にいる男と女は恋人同士ではない。
そう、清く正しく生きていたはずの俺がチャラ男になって、親友の幼馴染彼女を寝取っている。
寝取り浮気は心の殺人、クズ、外道、ゲスの極みである!!!
どうなってんの、これ!?
しかもすでに完全に手遅れである。
もしもコレが罪深き浮気前ならば、俺が手を出さないように注意して、2人の関係を正しい方向に導けたはずだったのに。
しかし
このままでいけば、よくある寝取り浮気の末路が訪れていたのは間違いないだろう。
いまだ頭の中は混乱状態のままだが、俺の身体は自然と動き2人で部屋を出る。
その直前に彼女は俺と腕を組み、なにかを呟く。
「……だよ、恭平くん」
姫乃の声はもっと聞いていたくなるほど俺の心によく響く。
その心に染み渡る声だけで俺は彼女に全てを捧げたくなってしまう。
姫乃は俺に時間だよとでも言ったのだろう、呟き恥ずかしそうに腕を組んできた。
混乱状態の俺はされるがまま。
こういうことは彼氏とだけするべきじゃないでしょうか?
浮気するような女性は嫌悪していた俺ではあるが、それを遥かに超える愛らしさを発揮されたものだから。
俺の中の情緒だとか、常識だとか、人の心だとかはもうぐちゃぐちゃになって制御不能だ。
実際、姫乃は浮気を平然とするようには見えない。
俺の知識だけの記憶でも、そういうタイプとは思えなかった。
しかしそれでも結果だけはここにある。
暗いラブホテルの廊下を抜け扉を出ると、外の明るさが眩しい。
ああ、これが外の世界か。
姫乃はスルリと俺の腕から彼女の腕をほどき抜け出す。
「じゃあ、またね」
そう言って姫乃は名残惜しげに少しだけ振り返って微笑んだ後、真っ直ぐにその場から駆けて行った。
その姿はとんでもなく可愛いかった。
そして別れを寂しいと頭によぎってしまった俺は、いますぐ大地に転がり回り叫び出したい気持ちでいっぱいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます