そいつは継ぎだらけの下げ渡しの軍服だった。その上マントはどこで寝転がっていたのかしみで薄汚れていた。全体の印象としてはマールより若そうだったが、目のまわりのしわだけはディガンを思わせた。


「あなたがディガンさん? よろしくお願いする」

 書き付けを示す。ディガンは読みながらほほ笑んだ。

「マダム・マリーらしいな。俺にゃさんはいらねえよ。隊長でもいい。クロウ、か。火球の使い手と」

「そう。鬼だって焦がせる。ディガン」

 手をひらめかせる。


「俺はマール。おやじって呼ばれてる。名前でもどっちでもいいよ。それと、こっちもさんはいらない」

「分かった、マール。なら俺も大砲でもどっちでもかまわない」

 マールはクロウからかすかに漂う臭いに気づいた。こいつも自分とおなじ世界の住人だ。馬小屋で寝起きすることがあるんだろう。どんなによけてもしぶきがかかるんだ、ああいうところは。


「ペリジーだよ。大砲のクロウさん。小僧って呼んでくれてもいいよ。で、その背嚢、なに? お弁当?」

「緑相当の小物さ。それと、年上だからってさんはいらない。ペリジー、おなじ任務の仲間だ」

 ディガンとマールはうなずいた。確かにこの任務なら軍隊用語で言うところの緑、つまり軽装備で十分だろう。そういう見極めができる奴なら少なくとも新兵じゃない。


「よし、じゃ、出発だ」

 マールが短剣を抜くと、みんなも抜いた。柄頭をかちんと合わせる。四枚の刃が朝日にきらめく。ディガンがクロウの刃を見て、ほう、という顔をした。

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