第35話 決着
フジノ達とカエンの攻防は均衡を保っていた。
一人ずつ戦っていればこうはならない。
フジノとニタカが互いの動きを理解しているから、致命的な隙が生まれる前にカバーしあえているだけだ。
ギリギリのバランスでこの戦いは続いている。
しかし、フジノの動きに無駄が増えていき連携に乱れがでてきてしまう。
ニタカに助けられる直前の戦いで負った打撲や切り傷が与えているダメージが、この大事な時に効いてきているのだ。
高熱に苦しむ人間のように精彩を欠いた槍など、カエンにとっては障害ですらない。
(動け……! まだ止まるな……!)
三人の槍使いの中で最も実力が低いフジノが、そんな状態でついていけるわけもなく、カエンはフジノを仕留めようと攻撃目標を定める。
ニタカの槍をしのいで、フジノの見るからに遅くなった槍を避けて、カエンは自分よりも小さな身体を、力を込めた足技で洞窟の方へと蹴り飛ばした。
ニタカとカエンの一騎討ち。
先程まで二人で戦っていたニタカが苦い顔を浮かべる。
どちらが勝つかは時間の問題だった。
洞窟の出入り口付近で倒れ伏すフジノ。
起き上がろうとする意志に反して、身体は地面から離れたくないように抵抗している。
「……先輩。いますか?」
テツザエモンから借りた魔導具で隠れているはずのサエコに声をかける。
彼女には悪いが用があるのは彼女自身ではなく、妖精の画面だ。
他人の画面を触れるのは確かめたが、以前のように自由自在にとはいかない。
使うのに時間がかかってしまう。
机の上の紙をとるようにスムーズに取れていた画面は、他人のものを取ろうとすると根を張った植物のように手間がかかる。
「わかった。やるんだな」
姿を隠したまま、妖精の画面を出すサエコ。
フジノはその画面に触れて集中する。
ニタカの方が気になるが焦ってもいけない。
画面投げは対人になると能力が下がる上に、今の私では前ほど連発はできず、人のを借りてようやくだ。
相手との力量差を考えても二度目は許してくれないだろう。
(早く、早くっ!)
フジノがサエコの画面を掴むのに時間をかけている一方で、ニタカは攻め込まれていた。
致命傷は避けているが何度か打撃や斬撃を受けている。
そして、カエンの槍がニタカの肩を貫いた。
「この……っ!」
引き抜かれれば最後、次の攻撃で命が断たれると予感したニタカは左肩に刺さった槍を掴み、時間稼ぎをしていた。
フジノの復帰が遅いことから、画面投げの準備をしていると信じているからだ。
カエンはニタカを足で蹴り、そのまま力を入れるための足場にして、乱暴に槍を引き抜いた。
肩から血を流して倒れたニタカに向けて、止めを刺そうとするカエン。
ようやく準備が終わり、駆け出すフジノは注意を引くために叫ぶ。
「私を見ろ! このクソ野郎が!」
フジノが投げた槍をかわし、近付いてくるフジノをカエンは槍で迎え撃つ。
しかし、突き出された槍はフジノのカウンターで破壊された。
(人はやれなくても、武器なら壊せる!)
フジノの武器は妖精の画面。
人間相手には大した事はないが、魔物や無機物に対しては脅威の攻撃力をもつ武器だ。
青い閃光が通ったカエンの持つ槍は切断され、もはや槍とは呼べない物になった。
だが、戦闘人形と化しているカエンの動きに無駄はなく、瞬時に攻撃行動に入った。
カエンは槍の石突しかない槍だった物をフジノの手に投げつけ、画面を手放させた。
(ちっとも動揺しない!)
画面を持っていた左手を弾かれた僅かな遠心力も利用しながら、背後に落ちた画面を拾おうとするフジノ。
直接見なくても、カエンが穂先のある槍の残骸で、自分を背中から貫こうとするのが想像できる。
妖精のオート機能なら、敵が背中を向けた絶好の機会を逃すはずがない。ここで決めるために致命傷を狙う。
持っていた槍は投げた。
サエコ先輩から借りた画面は落とされた。
でも、まだ使っていない武器。隠していたトウジロウの刀がある。
地面に落ちる寸前の画面を拾おうと伸ばしていた両手が、腰回りに引き寄せられるように戻っていく。
そこに刀は無くても、あるのだと思わせる構え。
(来い……!)
フジノは物隠しの魔術を使い、洞窟内で見つけて隠す対象に指定した祖父の刀をあるべき場所に出現させる。
カエンがフジノの背中から心臓を貫こうと踏み込んでいる。
穂先が背中に到達する直前に、一気に離れていく。
フジノは回避と加速を兼ねた一歩で、身体を深く沈めて、魔力強化による急加速で引き絞られた弓が放たれたように、居合い切りを行った。
時が止まったような静けさの中で、人が崩れ落ちる音が響く。
先に倒れたのはカエンだ。脇腹から肩にかけて大きく深い切り傷があり、そのままでは死に至るだろう。
フジノは膝をついているが倒れてはいない。
カエンが手にしていた自分の槍、町の商店街で買った新しい槍の残骸を眺めていた。
刀に感じた手応えからどこまで斬ったかはわかっている。
魔物を倒すときとは違うものがあった。
これの何が楽しいのか。そこまで面白くもない。
人の死を背負うなんて面倒に決まってるじゃないか。
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