第33話 作戦開始
双子山の儀式場にはフジノとニタカの姿がある。
途中まで同行していたテツザエモンは潜んでいた殺人鬼の一味により内戦状態となった捜索隊を止めるために別行動になった。
殺人鬼の一味は敵だが、そうでないメンバーが敵味方の判別がつかない混乱におちいり本来のリーダーであるテツザエモンがおさめるしかなかった。
「ここが儀式場、か……ヤツの姿は見えないが姿を隠す魔導具もあるんだ。もういると思いな。いいね」
「わかってる……」
ニタカがフジノに道中で何度か確認したことを言った。今日はこれが最後だろう。
こんな状況でなければ自分の親族について調べたいこともあるだろうに。最初の呟きの後は真剣な様子だ。
いつでも戦えるようにフジノとニタカの二人はそれぞれの短槍を構えて、石畳の上をゆっくりと歩いていく。
敵の姿や気配はないがグロリア達三人の姿もなかった。
「……やはり洞窟の中か」
ニタカの言う通りだと私も思う。
洞窟の出入り口に流れたばかりの血の跡があり、それは奥に続いていた。
すでにカエンはここに来ているのだろう。だが、それよりもグロリア達が心配だった。
「ニタカ。これ……」
「罠に決まってるが……行くしかないだろうね」
フジノが洞窟の中へ入り、ニタカはフジノの後ろを警戒するために離れていると、空から大きな岩が異常な速度で落ちてきた。
二人は反射的に回避行動をとる。それはフジノを洞窟の中へ、ニタカを外へとわけた。
土煙の中、洞窟の出入り口に岩の瓦礫が積み重なっていく。
「ちっ!」
ニタカが洞窟の出入り口を塞ぐ瓦礫に舌打ちをして、土煙の中から襲ってきた影と戦闘になる。
ニタカが短槍なのに対して影は拳だけだ。
初撃だけは有利だった影だが、ニタカの槍さばきの前に奇襲で得た優位性はすぐに奪われている。
影は牽制に火の魔術を放ち、距離を置いて仕切り直す。
「強いな。あの小娘の槍にそっくりということは……教えたのは君かな?」
鬼の仮面をつけた殺人鬼。何らかの手段で声を変え、恐怖心を煽る加工がされた声だ。
「フジノ! あんただけで先に行きな。他にも敵がいるかもしれないのを忘れるんじゃないよ」
フジノはニタカの声を瓦礫越しに受け取って先へ進む事を決める。
隠れ場所を出る前にサエコから借りたランタンの灯りを頼りに暗い洞窟を足早に進んでいく。
一度この通路を通った事があるフジノは迷いなく先へと進んでいった。
ニタカが負けるはずがない。フジノはそう信じている。
フジノが洞窟内の大空洞、一対一の殺し合いが行われてきたおぞましい場所でグロリア達を発見した。
まだ三人とも息はあるが縛られたまま横たわり弱っている。
今すぐ介抱してやりたいところだが安全確保が先だ、と最奥にある墓地まで一通り調べ敵がいないことを確認した。
人質である三人と奪われた槍と刀を回収しにきたフジノだが、見つかったのは刀だけだった。ナツキ達と共に商店街へ行って買ってきた新しい槍が見当たらない。
(祖父の形見でもある刀を取り戻せた事は嬉しいが、なぜ槍だけがないのか)
川辺でブヨウらに襲われた時に使われた槍が頭に浮かぶ。
しかし、あれは私の槍じゃなかった。なら、いったいどこにあるのか。
この洞窟内で槍のような長物を隠せる場所は、墓地にある棺の中だけだ。そこにもないのでは検討もつかない。
答えの出ない推理をやめてフジノは完全に作戦通りとはいかないけど、仕方ないと受け入れて次の行動にうつる。
「……サエコ先輩。もういいですよ。三人の手当を」
「ああ」
大空洞に戻ってきたフジノは独りで話し出す。内なる妖精ではなく、姿を隠す魔導具を使ってここまで着いてきた先輩冒険者に対してだ。
サエコが何もない空間から現れる。テツザエモンから借りた魔導具の偽装機能を解除してグロリア達三人の元へいき、特に出血をしているセイドウの手当から始めた。
「私は上に戻ります。先輩は戦いが終わるまで……」
フジノが言葉をいい終える前に大きな爆発音が外から響く。
地上へ進もうとしたフジノの足元にまばらな大きさの石が転がってくる。
みんながいる大空洞まで戻り立ち止まって考えるフジノ。
イワザルの群れをおびき寄せるために起こされた山火事、あの時に山中の至るところで起きた爆発に似ているものだ。
「やばい……入り口ふさがれたかもしれないっ!」
「……私はどのみち足手まといだ。ここで治療に専念する。考えるのは任せた」
まだ爆発物を持っていたとは。その魔導具もこの場所に隠していたのだろう。
外の状況はどうなっているんだ。
ニタカに限って簡単に負けるなんてことはありえない。隙をつかれて爆破させられた、そうに決まってる。
(考えろ……どうすればいい……何がある……)
奥の手を使うことも考えたが切断に特化したあれだけでは、解決できるイメージがわかない。
なにより私とニタカを完全に分断したということは時間の猶予はないはずだ。
カエンはニタカを仕留める手があるのかもしれない。
「何か……何かあるはず……とりあえず、何でもいいからやってみるしか……」
悩むフジノの独り言に反応せずに自分のできる最善をつくすサエコ。
その側で眠っているフジノの仲間三人のうちの一人、グロリアが意識を取り戻す。
聞きたかった声の持ち主の一人が来たのが理由かもしれないが、爆発による振動や音が原因だろう。
「……フジノ、ちゃん……」
グロリアは弱々しいが決意を秘めた声で友達の名前を呼ぶ。
殺人鬼に連れて行かれたはずのフジノは、どうしてこうなったのかはわからないけど助けに来てくれた。
僅かな食料を三人でわけあい、受けた傷の痛みに耐えて、なんとか今日まで生き延びてきた。
疲労した自分達を最初に迎えに来たのは殺人鬼だったが、やっと待っていた友達が助けにきたのだ。
また涙を流す前に身体に力を込めて、痛みに耐えながらグロリアは動き出した。
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