第18話 推しの配信探索者がトラップダンジョンに挑戦するようです 後編
「今度は壁に丸い穴が空いてありますね」
坂道の車輪トラップを潜り抜けて進んだ先には壁に円形の穴が空いてあり、向こう側に鉄のトレジャーボックスが鎮座している。
「………これ絶対トレジャーボックスに気を取られて穴を抜けようとすると罠が発動するタイプだな。アプリも探知してるし」
『わかる』
『わかっていても飛び付きたくなる』
『銀以上だったら俺は飛び付いてた』
コメント欄ではそんな話で盛り上がる間も真神は円形の穴の回りを調べる。
「ん?」
真神は何かに気づいたのか、背中からプレデターの鈍器を取り出すと、ゆっくり穴に近づける。
すると、ガリガリギャリギャリと鈍器から不快な金属音と火花が発生し、穴から何かの破片が飛び散っていく。
『なんぞっ!?』
『やっぱり罠があったか!』
『プレデター君の扱いが………』
「どうやら目に見えない早さでこの穴の中でファンが回転していたようです。知らずに入ればミキサーみたいにズタズタになってましたね」
真神はファンの残骸を手に取り、ドローンカメラに向ける。
『ファンにトゲやらギザギザがついてて殺意が高い』
『トゲとかに衣服絡まったら一発で引き込まれるやん』
「トレジャーボックスにはトラップはないようですね。早速開封しましょう」
次々とコメントが書き込まれる中、真神は鉄のトレジャーボックスをアプリで確認して罠が無いことを確認すると蓋を開ける。
「動物の牙の首飾り?」
鉄のトレジャーボックスの中身は動物の牙で飾った首飾りが入っていた。
「鑑定アプリによると、ビーストオブスピリッツと言うレガシーアイテムですね。装着すると鋭敏視覚、嗅覚、聴覚と言った動物の五感が得られるようです」
真神はグリモアに搭載した鑑定アプリの結果を視聴者達に見せるようにドローンカメラに近づける。
『レガシーアイテムいいな!』
『スカウト系なら喜ぶかな?』
『これまでのトラップ突破の褒賞とみるとどうなんだろ』
「さて、まだまだゴールは遠いので進んでいきたいと思います」
トレジャーボックスがあった部屋を出ると、今度は長い階段が続くルートに出る。
「罠探知アプリは複数の罠があると報告しています。まずこの床に反応があります」
真神はグリモアでトラップの位置を確認すると、鈍器で床を突っつく。
床のタイルは感圧式式になっていたのか、軽くへこんでカチンと音がすると、床から回転鋸が現れる。
「普通に踏んでいたら足首を斬られていた可能性がありましたね」
真神は罠を避けて階段へと向かう。
「ここにも複数の罠が仕掛けられています」
真神は同じように鈍器で階段の一段を突っつくと、階段の一部がベニヤ板のような脆い素材で、足を置いたら踏み抜いて割れるようになっていた。
「踏み抜くと、逆刺の中に足を突っ込むことになったようですね」
『うへ、足を穴から抜こうとしたら逆刺に刺さったりひっかかったりするやん』
『致命傷じゃないけど、地味に嫌だ』
真神はドローンカメラで割れた板の穴を撮影する。
穴の中には逆刺が無数に生えており、踏み抜いた足を抜こうとすると足が刺でズタズタになる仕組みになっていた。
「階段の罠はまだあるようですね」
『多分コントみたいな階段がスライダーになる罠があると思う』
『その程度ですませるかな?』
真神が鈍器でつついたり、一歩一歩警戒しながらゆっくりと階段を登る最中、コメント欄ではどんなトラップがあるか予測が始まる。
「っと!」
階段登り終盤で、また罠が発動する。
感圧式の階段に一定の重さを加えると、三段上の階段から槍が複数飛び出してくる。
真神はグリモアのオートガード機能で槍の攻撃を防ぐ。
「条件反射で回避しそうになりましたが、階段だと踏みはずしたり、下手に回避すると後方にいる仲間を巻き込む可能性がありますね」
『なるほどねー』
『ソロだとその辺考慮しなくていいもんな』
「さて、ゴールがみえ───っ!?」
槍のトラップを凌いだ真神は感想を述べながら階段を登ろうとすると、槍のトラップと連動するように階段がスライダーになる。
真神は足場がスライダーになる瞬間、跳躍してゴール地点に着地する。
「ふう………最後まで気が抜けませんね」
真神は振り返ってスライダーになった階段を見下ろす。
「うわぁ………あのまま滑り落ちたらミンチでしたね」
スライダーの終着地点である床に穴が空いており、穴の中には刃物がついた無数のローラーが回転しており、滑り落ちたらグリモアがあったとしても助からなかった事が想像できる。
『トラップの連発とモンスターとの連戦、どっちがましだろう?』
コメント欄ではあるアカウントの素朴な疑問からどっちがましかで盛り上がる。
「今度はリドルトラップのようです」
真神が次の部屋に入ると、部屋には二つの扉と扉を守るように鎮座している人型の像。
部屋の中央にはレリーフがあり、日本語が刻まれている。
「えーっと、何々? 二つの扉の一つは出口に繋がっている。もう一つの扉は地獄に繋がっている。扉を守るガーディアンは片方は正直者で、もう片方は嘘つきである。質問は一度だけ許可する。正解の扉をくぐれ………だそうです」
『何で日本語?』
『国によって文字が違うらしいぞ。アメリカなら英語で書かれているとか』
『今はダンジョンだからで納得しとけ。そういうなぞは学者が研究してる』
『有名なドリル!』
『掘ってどうすんだよ! ドリルじゃなくてリドルな』
真神がレリーフを読み上げるとコメント欄ではなぜ日本語で刻まれてるか疑問を書き込む人と、ダンジョンだからですます人のコメントが半々だった。
(真神さんはどうやって解決するのかな?)
私はドキドキしながら真神さんの行動を見つめる。
「君の相棒はどっちの扉が正解だと教えてくれる?」
真神は悩む様子もなく、片方の石像に近づくと話し始める。
すると話しかけられた像は自分の扉を指差す。
すると真神は石像が指差した扉とは反対側の扉に向かう。
『この像が正直者か嘘つきかわかった?』
『このパターンか』
『え? 何で反対側にいくの?』
コメント欄では答えがわかってる人とわかってない人のコメントが次々と書き込まれていく。因みに私もリドルの答えがわかっていない方だ。
『真神さんが導いた答えかはわかりませんが、俺の見解で答えるなら、真神さんが質問した石像が正直者なら嘘つきが嘘をついた扉を正直に答える。逆に嘘つきなら正直者が答えた扉と違う嘘の扉を答える。つまり、どちらが指差しても、指した扉と反対側を選べば正解なんです』
『なるほどー』
『あっ、そういうことか』
(へー、なるほど)
視聴者の一人が今回のリドルトラップについて回答してくれる。
「どうやらゴールのようですね」
真神がリドルトラップの扉を潜り抜けると、巨大な魔石とゲート、そして白金のトレジャーボックスがおいてある部屋にたどり着く。
『白金のトレジャーボックス!!』
『すげー! 実在したんだ!』
『また界隈騒がない?』
コメント欄では、白金のトレジャーボックスの登場にコメントが滝のように流れて盛り上りを見せる。
「取り敢えずこの巨大な魔石がダンジョンコアと言われています。ボスモンスターがいないタイプのダンジョンでは、このコアを破壊するとダンジョンは消えます」
真神はドローンカメラに向かってダンジョンコアについて解説する。
「ここはギルドから破壊してはならないと言われてるので、なにもしません。故意に破壊した場合国やギルドから指名手配されて莫大な賠償金などがかせられるので気を付けてくださいね。さて、それではトレジャーボックスの開封に挑みましょう!」
真神はそう言うと、グリモアで罠をチェックする。
「罠はないみたいですね。今回は運がよかっ………たのかな? とにかく開けてみますね」
トレジャーボックスに罠が仕掛けられていないことがわかると、真神は白金のトレジャーボックスを開封する。
蓋が開けられると中から黄金の具足が出てくる。
「おおっ! 黄金騎士の鎧セットの一つ!!」
グリモアの鑑定アプリの結果を見た真神は大喜びでガッツポーズし、便所スリッパを脱ぎ捨てると黄金の具足に履き替える。
「レガシーアイテムの特色の一つで、装着者にフィットするように自動でサイズが変わります。いやー、最後の最後で大当たりがでた」
ジャージに黄金のガントレットと具足はなんともシュールな印象を与える。
「おっと! 今回はゴールに辿り着いたのでこれで配信を終えたいと思います。チャンネル登録と高評価よろしくお願いします! イヤッホー!!」
締めの挨拶をすると真神はスキップしながら出口のゲートに向かう所で動画が終わった。
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