第48話 戻ったモノと戻らない者

 





 〜1月5日14:50〜



 年明けの教室は閑散としていた。

 色々あって忘れていたが、俺も一応今年から受験生ということになる。

 学校も冬季休業中ではあるけど、2年生は課外があり、受験を意識した内容の授業をするそう。

 自由参加だから、教室にいる人数は少ないけど、多分理由じゃないだろう。

 こんな状況で課外をやろうとしている学校も学校だなと思いつつ、教科書をめくった。



 真面目に来てる俺、偉い。



「.........」



 頬杖をつきながら周りに何気なく目線をやる。

 .....めちゃくちゃ色んな奴と目が合う。

 こっち見んな!という意味を込めて、あえてじーっと見つめてみる。


 おっ、逸らした。

 成功成功。


 悪い意味で注目の的だろう。

 まぁ、それも予想出来たことだから、別にどうってこともない。

 阿久津にボコられた男子共も、原田も道枝も真壁も、全員が全員揃いも揃って空席になっていた。


 そりゃそうか。

 あのバカ男子達はともかく、原田達は再起不能。

『○○高校あるあるbot』は結論から言うと、陽菜達の一件で垢BAN。

 動かせなくなってしまった。


 しかし、人ってのは醜い生き物です。

 それを保存し、更に拡散する愚か者が沢山居ます。

 要はそれがインターネットの怖さ。


 まぁ、計画した俺が言うのもなんだけど、原田たちには自分たちの軽率な行いを猛省して欲しい。

 と言うか、家からもう出てこないでほしい。

 切実に。



 塚原陽菜は.......。

 彼女がもうこの教室に来ることは無い。

 ここにいるクラスメイトも、それを理解している。



 ***



 授業終了。

 それと同時にそそくさと帰り支度を進めるクラスメイト。

 特に会話もなく、みんな思い思いに帰路へと着いている。



 .....俺も帰るか。



 今日はこの後、がある。
















「いや〜、さすが佐々木だな」


「お前、本当に思ってるか?」



 帰り際に阿久津と合流。

 と言うか、あって久々に阿久津にも会った。



「ファミレスで話した通りになったじゃんかよ」


「.....まぁ、色々と上手く噛み合ったな」


 正直、今回の件で1番大きかったのは陽菜が仲間を呼んでくれたこと、かな。

 あれプラス阿久津が騒ぎを大きくしてくれた。

 だからこそ、計画は達成された。


「どうなりそう?」


「まぁ.........、ほぼ確」


「そうかぁ.......」


 警察の長期に渡る汚職の証拠。

 暴力団関係者とのパイプ。

 叩けば叩くほどホコリが出てくるだろう。

 ましてやその首謀者が警察署長。

 片田舎とは言え、警察組織全体への信用を失うには充分すぎる案件だ。


 ーーーーー今回の一件は世間でも大々的に取り上げられ、連日各マスコミから報道されていた。


『警察署長、娘のため汚職厭わず』


『警察署長、娘は極悪犯』


『警察署長娘の鬼畜な行為流出か』


『拉致監禁、容疑者は警察署長の娘』


 スマホを開き、ネットニュースを覗くだけでコレだ。

 俺達の証拠は関係各所でリークされ、拡散された。

 今やネットで知らない人は居ないんじゃないか?


「あのクソまつ毛もたまにはすげぇよな」


「アイツは何だかんだ仕事こなすギャルだから」


 Twitterで適当に『拉致』『監禁』のワードで検索かけると、すぐに俺らの『動画』が出てくる。


 押収されてしまったスマホに同じ動画が入っているが、何か.....変な感じ。

 あの端末で撮ったものが今や、色んな人の目に届くようになるなんて。



「.........」



 何気なく再生ボタンを押してみる。


 すると、薄暗い小屋の中に七海.....と思しき後ろ姿。

 そして陽菜と蒼汰が暴行を加える画。

 クスリを注射器で打つ瞬間。

 そして.......発狂する七海。

 反応を見て笑う2人。


 俺が小屋に入っていった後の会話。

 蒼汰が俺にバットを振りかぶっている様子。

 殴られる俺。

 俺のスマホを破壊し、勝利を確信した陽菜の演説。

(もはや自白)



「こりゃ、たとえ無罪になっても一生外歩けないわな」


 これには激しく同意。

 まぁ、だけど。


 原田たち同様、人生において取り返しのつかないことをした陽菜達は、『死』よりもある意味重い罪を背負ってもらう。


 .....俺にはとてもじゃないけど想像できない。

 身の回りの人間全てが『敵』になる世界。





「しっかし、お前も思い切ったよな」


「.......?」


「普通考えてもやらないだろ.......」


「何が」


「何がって.....」





!? お前!!!!」

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