第36話 daze①

 




「佐々木ぃ……? おい陽菜、コイツってまさか」


「………………」


 陽菜は目を見たことないくらいに開いて、こちらを見ている。

 動転してる動転してる。

 何でコイツがここに………、とか思っているんだろうけど。



 この



 というか、この小屋。



 コイツらが好き放題できるわけだ。

 なぜなら。

 陽菜……いや、塚原家のなんだから。


 塚原敦。

 陽菜の親父にしてこの街の警察署長。

 その権力を表すかのように街の一角に建てられた豪邸が、陽菜の家だった。

 豪邸ともなればそれに付随するように、広大な庭が付いてくる。

 いやもはや庭なんてレベルじゃない。

 敷地面積で言えば小規模の学校くらいはあるんじゃないだろうか。


 怪しいといえばそこかな、と太一は言っていた。

 そして、その予想は見事に的中。

 権力者である親父を隠れ蓑に、その懐である陽菜の家で悪事を働く。

 非行が発覚しても父親の力でもみ消し、本人たちはやりたい放題ってわけだ。



「何で、あんたがこんなところに入ってきているのよ……! 人ん家よ!、人ん家!! 不法侵入で通報するから!!」


「不法……では、ないと思うよ。一応許可はもらったから」


「………!? 許可って誰に!!!?」





「あー……えーと。この家のハウスキーパーさん?かな……。いや、お手伝いさんか。栗井さんって人」


「栗井…………? あのババア……?」


 根回しと情報収集は水面下で。

 学校を休んでまで昨日のうちにやったことパート1。

 この家の関係者との接触を図る。

 朝ゴミ出しをしている栗井さんというおばちゃんに突撃インタビューをかました。

 陽菜の家がなかなかキナ臭い家だとは分かっていたから、こちらとしても警戒はしなければらない。

 俺が接触してきた事実が陽菜本人、そして陽菜の親父に伝わればさらに動きにくくなってしまう。

 そのため、あくまでも最終目標は栗井さんをに引き込む必要があった。


 ……警戒はしなければならなかったが。




 ***


『陽菜ちゃんを止めてください…………』


 ***


 そう栗井さんは泣いていた。

 本題に入る前に、糸が切れたように静かに。


 そして栗井さんは全部語ってくれた。



 最近の陽菜の動向。



 悪そうな連中とつるんでいること。

 クスリや犯罪行為に簡単に手を染めるようになったこと。


 そして――――――。



 小屋の中に女の子を閉じ込めていること。


 閉じ込めたうえで虐待を繰り返していること。


 栗井さんはすぐに気づいたらしい。

 そして家主である塚原敦に報告をした。

 事態を収拾してもらえると思っていた栗井さんは、絶望する。


『黙認しろ』


 それが家主から下された命令だった。

 というか、塚原家のらしかった。


『犯罪なんて、いくらでもでっち上げられるからな。その逆も然り。いくらでも無かったことにできる』


 そう脅されたらしい。

 世間に公表したところでもみ消しは可能。

 逆に名誉棄損で全力で潰しに来る、とそんな感じ。

 陽菜の母親も塚原敦の権力にすがるクズらしいから、いよいよ期待が持てなかったようだった。



『もう、私は……何もできない。…………あなたなら、何とか出来るんですか?』


 ――――――俺は、その質問に答えなかった。









「栗井さんは色々と教えてくれたよ。この家の厳重なセキュリティをどうかいくぐるか…………例えば、裏門の存在とか」



「…………!!! クソがっ!! アイツ、パパに言いつけて社会的に殺す!」



「裏門にはパスコードがあるから、特定の人しか中には入れない。知っているのは塚原の人間と…………」



 視線を陽菜からスライドさせる。



 蒼汰とかいう工業の裏番。



「――――――アンタだけだよな?」



「……お前、いい根性してるじゃねぇか」



 直接見るのは、あの陽菜を尾行したときぶり。

 遠藤蒼汰。

 多分、陽菜と色々なことをやってきたであろう男。


「陽菜、こいつら邪魔だから外に出すぞ? おら、歩け雑魚」


「ぐっ……!! う…………!!!」


 髪を掴み、強引に立たせ。

 蒼汰は金髪達を小屋の外に引っ張っていって、小屋の外に強引に放り出した。


 これはには申し訳ないが、正直ありがたい。


 これから俺が行うことに、金髪たちがいると厄介だった。



「これで心置きなく殺れるなぁ。陽菜ぁ、コイツぶっ殺してもいい?」



「…………できるだけ痛めつけて、お願い」



「よっしゃぁ!!!」



 蒼汰は傍らにあった金属バットを手に俺に近づいてくる。



 さぁ――――――できるだけ思いっきり。




 振りかぶってこい。


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