第34話 痛み

 


 ~12月18日18:47~




 


 どうして俺が縛られている?

 どうして俺が首を垂れている?


「ここまでが計画。……ほんとはここまでで終わらせるつもりだった」


 目の前の

 佐々木とか言ったか?

 陽菜がおもちゃにしていたはずの冴えないクソ陰キャ。

 なんでコイツが俺を見下ろしてんだよ。

 逆だろ、普通。

 ……逆だろうが!!!


 爆発寸前の感情を唇で必死に嚙み殺す。


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 隣では瞳孔の開いた女が一人で発狂していた。

 何なんだよ、マジで。

 お前も何か役に立てよ……!

 この状況を何とかしろよ!!


「こっからは。俺が鬱憤をはらすだけの時間」


 瞬間。


「……っ!!!!!! あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 股間に今までに感じたことのない衝撃が走る。

 途切れそうな意識の中で辛うじて理解した。


 バットで………!!!



「こんなもんじゃ終わんないよ」



「っ!!!! っ!!!?  っ!!!!!!!」



 何度も何度も振り下ろされる金属バット。

 声が出ない。

 呼吸が、できない。


「顔もいっとこうか」


「がべっ!!!」



 頭に衝撃。

 意識が飛びそうになる。

 熱い。

 殴られたところが灼熱の痛みを伴って、俺の意識を刈り取りに来る。


「すぐ気絶されちゃつまんないからね。手加減しなきゃな」


「……っ!! ………く……そ……。てめぇ殺………す」


「あの………、状況分かってる?」


 …………!


「正当防衛の証拠は。社会的に死ぬのはお前。俺も完全にお咎めなしとまではいけないだろうけど…………。お前らをボコれたら……それで良いかなって」


「ぐふぅっ………!!」


 歯が……!!

 口の中が血で溢れていた。

 切れているどころの話じゃない。


「お前らがやったこと、全部返したいんだけど。どうしようかな…………」


「…………!!」


「半分は社会的な死。もう半分は物理的な死……。いや、半分の物理的な死なんて実現不可能……か。じゃあ、……?」


 コイツ………何……言って………。


「お前が生きる残りの人生をもらおう! そうだ、それがいい!!」



って、知ってる?」




「人間の背骨に守られている中枢神経なんだけどさ」




「ここを傷つけられると、最悪の場合歩けなくなっちゃったりするんだよね」



 な………なに……。



「だから」



「ちょっと背中。貸して」




「や………やめ…………」



「七海も何回もやめて、と言っただろうね、多分。…………でも、お前たちはやめた?」



「人からやられて嫌なことは、他人にしちゃダメなんだよ」



「そう、で俺は習った」



 瞬間。

 背中を襲う衝撃。


「っ………あああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


 何度も何度も振り下ろされるバット。

 これまでに感じたことのない痛みは背中の内部まで、響く。

 ちくしょう。


 なんで、俺が。



 こんな目に。




「っ…………!!!!! ………っ!!!」




 どこで。


 どこで、おれはまちがえた?




 さっきまで、普通通りの日常だった。




 佐々木コイツは。




 急に…………。



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