第29話 暗躍
~12月16日放課後~
放課後になり、私は蒼汰の待ついつもの小屋に来ていた。
「そろそろ俺の出番か?」
あっけらかんとそんなことを言う蒼汰を無視し、私は一人考える。
――――――佐々木は今日学校を休んだ。
LINEを晒した次の日以来の休み。
奴のことだから、何か企んでいるに違いない。
もしかしたら計画自体はもう済んでいて、その準備を……。
剝がれかけのネイルを噛み、途切れそうな集中力を必死につなぎとめる。
「……蒼汰」
「あいよ」
タバコをふかしながら蒼汰はニヤニヤしながらこちらを見ている。
きっとあたしがこの後何を言うか、もう分かっている。
分かっている表情だ。
「……もう動いていいよ。佐々木を潰して」
「その言葉を待ってました!!!」
「最初から俺らに任せればよかったのに……」
それじゃ面白くないじゃん。
でも、結果的に今、私は最悪の気分。
もう原型のないほど殴られた佐々木の顔面でも見ない限り、この最悪な気分は晴れない。
「拉致っていい?」
「……いいけど、ある程度警戒はして。面倒なやつだから」
「分かったよ。まぁ、時々お前に聞くからよろしく~」
そんなことを言いながら、蒼汰は小屋の外へと出ていく。
さてと。
「…………七海」
私は目の前で死にかけている女に話しかけた。
明らかに弱っているなぁ。
でも、こんな状況でもまだ弱音は吐かない。
助けを乞うこともない。
マジでなんなんだよ。
人間?
ここまでくるとともう怖い。
「佐々木ってさ、何考えてんの?」
「…………」
「もうさ、最近あいつにメチャクチャにされてるわけ。私」
「もう、正直ぶっ殺したいのよ」
「どうすればアイツを出しぬけるかなぁ。七海、分かる?」
「…………」
「……なんとか言えよっ!!!!」
思いっきり七海の顔面を踏みつける。
クソが。
クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがっ!!!!
どいつもこいつも舐めやがって……!
お前らのせいで、全部台無しなんだよ……!!
どうしてくれるんだよ、このクソ野郎どもっ……!!!
「佐々木ボコれなかったら、お前殺すから」
「…………」
動かないゴミに唾を吐き掛け、蒼汰の後を追った。
絶対に殺す。
私の平穏を奪いやがって……。
もう何度呟いたか分からない、呪詛の言葉。
「佐々木………!!!!」
***
~12月17日 某ファミレスにて~
目の前には太一と阿久津がいた。
雅も呼んでいるが、野暮用で遅くなるようだった。
アイツのことだからまた何かやってくれているんじゃないかと思ったが、もう最大限の働きをしてくれた。
これ以上は逆に申し訳ない。
「佐々木、今日も学校休んだのか?」
「あぁ、うん。わざとね」
真壁たち3人の件があってから、俺自身学校に顔は出していない。
これにはちゃんと理由がある。
――――――陽菜には焦りを感じてほしかった。
真壁たちの一件に俺が絡んでいることは、陽菜はもう確信している。
それはあの時の憎しみに満ちた視線を見たら分かる。
俺発信でこの状況を生み出している。
佐々木という人間が、塚原陽菜の周囲の人間関係を削ぎ始めた。
その事実を奴は分かっているはずだ。
「そんな状況で俺が学校を休んだら、陽菜はどう思うだろうな」
「……まぁ、また何かやろうとしているんじゃないか、とか、……疑うんじゃね!?」
そう。
阿久津にしては聡明。
焦った人間は確実に行動を起こす。
次に陽菜が起こす行動。
それは。
陽菜自身の残された手札の中に可能性がある。
「俺の学級には、もう陽菜のコマはいない。阿久津と雅の力で排除できた。じゃあ陽菜に残っている繋がりは?」
「えーーーー………。あっ、確かその陽菜って女、工業の奴とつるんでいるって言ってたっけ?」
「うん。俺と太一が尾行して掴んだ」
「じゃあ、残っている関係性は工業の連中だ!!!」
――――――その通り。
ただでさえガラの悪い連中を使って今度は何をするか。
答えは簡単。
「シンプルにボコりに来るってことか?」
「俺と太一はそう予想しているよ」
うんうんと頷いている太一を横目に、俺は改めて阿久津に向き直った。
「…………多分、これで決着がつく。阿久津、協力してくれ」
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