第10話 阿久津という男がいまして。

 


「ごめんなさい………ごめん……なさ」




「いてぇ………いてぇよぉ」


 辺り一帯は死屍累々。

 奴らのブレザーは泥にまみれ、体液で汚れている。

 顔面はパンパンに腫れ、面影すらない。


 容赦ねぇ………。


 相変わらずというか何と言うか。


 そろそろか………。


 そそくさと草陰から立ち上がり、ゆっくりと奴らのいる場所に近づいていく。

 何て言おうかな。

 偶然通りかかったことにしようか。

 いや、こんな校舎裏を偶然通りかかることなんてないよな。

 直線距離、およそ15メートル。

 そろそろ向こうも気づいて良い頃だ。


「…………!」


 地面に倒れかかっている一人と目が合う。

 あれは、葵か?

 人相が違うから、確信がもてん。


「あっ、コイツですっ!! あなたに電話したのはコイツ!!!!」


 ……びっくりした。

 なるほど、そうきたか。

 俺を見るなり、そんなことを言う葵。


 なるほどなぁ。

「佐々木を巻き込む作戦」にしたのか。


「………」


 本当に救いようがない。

 ツカツカと歩みを進める。


「コイツっ!!!! コイツなんだよ!!! 殺してくれよ!!」


 もう無茶苦茶やな。

 直線距離、7メートル。

 そこで、阿久津がコチラに気づいた。



「あぁ? 誰だよ」



 ガンを飛ばされる。

 こやつの目つきの悪さは昔からだ。

 周りに視線を送ると、倒れている連中も葵と同じ顔をしている。

 きっと俺も同じようにボコボコにされることを期待しているんだろう。

 しかし.........。






 それは無理な話だ。




「おぉ!? 佐々木じゃねぇか!!! 卒業以来か?」



「おぉ。偶然だなぁ、阿久津ぅ」



 こいつと俺はマブ。

 何なら幼稚園から同じ釜の飯を食っている。

 過去の関係性を出すのはズルいって?

 そんなのナンセンス?

 うるせぇ。

 過去の貴重な人的資源を有効活用したにすぎない。



 阿久津良(あくつりょう)。


 地元ではかなり有名な不良で名前が通っている。

 シンプルにめっちゃ喧嘩が強い。

 空手をやっていた。あとアホ。単細胞。

『バカに武道』ということわざを作りたいくらい。

 意味:手の付けられない様。

 つまりはそのくらいの悪童だった。

 実名が良で、肩書きが不良ってオモロイね!!って言ったら殴られた。

 中2の頃のことである。



「久しぶりだなぁ、お前この高校だったのか!」


「何回も言っただろ? 忘れるなアホ。.......ところでお前何してんの?」



 我ながら白々しい演技。

 大根役者だが、阿久津にはコレでいい。


「俺にクソみてぇな電話してきたんだよ。万死に値する」


「ほう。難しい言葉も使えるようになったんだな.....」


「ちょい待て。すぐ片付けるから」


 そういうが早く、手前に転がっているボロ雑巾(*モブA)を掴むと、殴る動作。



「まぁまぁ。魔が差したんだろ? 相手がお前だって分かってなかったんだよ、多分」


「あと俺のクラスの奴だからやめれ」と付け加えた。


「そうか.....仕方ねぇな」


 早っ。

 さすが単細胞。アホやな。



 しかし。

 このタイミングでトドメっ!!




「.........あ」


「? んだよ、佐々木」


「何かさ、LINE晒されたのよ、俺。そんでコイツらにバカにされて、嫌がらせ受けてたんだ」





「.......」





 ドカッ

 バキッ

 バコッ



「マッ.....!じで.....、すいま、せんでじたぁ!」


「イデェっ、あぎぁっ.....!」



 再度繰り広げられる拷問。

 俺はそれを横目にゆっくりと校門へと歩いていった。






 はい勝ち。

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