もちろん請け負い走りだす

 このあいだ、同僚のAさんとすれ違いざま、一言二言交わした際に「生理用ナプキンを持っていないかBさんに聞いてきてくれませんか」と頼まれた。

 もちろん請け負い走りだす。

 目ぼしい箇所をいくつか回っていくと、今まさに退勤せんとするBさんをギリギリで捕まえることができ、事情を説明してAさんの元へ向かってもらったのだった。



 後日、Bさんと話すタイミングで「こないだAさん大丈夫でしたか?」と訊けば「うん、大丈夫だった。ギリギリだったけど」とのことで安心した。

「よかった」と返しながら、とはいえ、生理を体験したことのない私はそのギリギリが意味するところを実感覚としては知らないよな、とも思う。

 体の変調を自覚してからどれくらいの猶予があるのかだとか、あるいは猶予などなくどうにか凌いでいるだけだとか、必要に応じて教えてもらい学習するほかない。


 Bさんを探して走っていたとき私は、もしBさんが既に退社していたらどうするべきか、を検討していた。

 社内のまた別の女性を頼るべきだろうか。でもその場合、事情を説明する中でAさんの名前を出して良いのかが判然としない。AさんがBさんを指名した以上、Bさんへの説明過程で「あの、いまAさんが〜〜」と名前がでるのはAさん自身も織り込み済みだと思うのだけど、私の判断でAさんが指名していない人に頼る場合にもそれは適用されるのか。いや、名前は出さない方が無難だな。

「緊急で生理用ナプキンが必要なのですがいま持っていたりしますか?」だけでも、充分に助けてもらえるだろう。

 というかそもそも、もしBさんが居なかったらこのまま最寄りのコンビニまで走って私が買ってきてもいいや、と自分がとるべき行動について次々考えるうちにBさんの元にたどり着いたのだった。


 急にグルグルと頭を回したからか、その勢いのままにひとりの帰り道でも、さっきの私の動きは適切だったのかと脳内での検証が止まらなかった。Aさんの元に向かうBさんに「ほかに私がやるべきことはありますか? それとも一旦お任せしても大丈夫ですか?」くらい聞けばよかったかなと、ずるずる考えを引き摺りながら帰った。




 それから数日後、たまたまAさんと帰るタイミングが重なった。雨の日である。

「今日は一緒に帰ります?」と言われて一度は「はい」と答えたものの、普段は駅まで地下道のみで事足りるAさんが、私と帰るときは私の帰路に合わせる形で余分に地上を歩いていることを思い出して「ああでも、今日は濡れてしまいますよ?」とやんわり別々に帰ることを提案した。

 すると即座に「傘持ってるんで大丈夫です。というか、(傘を持ってる私と帰らなかったらそっちこそ)濡れますよ?」と言い返されて面白かった。

 いざ外に出るとかなり弱い小雨で、Aさんは「こんなの降ってるうちに入らないですよ。行きましょう」と歩き出し「急にカッコ良」とつっこむと笑っていた。

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