待ち人来る驚く事あり

氷河 雪

待ち人来ずさわりあり

「行かないでよ! 楓那ぁ......ずっと一緒だよって、二人で約束したじゃん......」

「私だって、きーちゃんと離れ離れになるのは嫌だよ。でも、これはどうしようもない事なの」

「でも......だってぇ......」

「約束守れなくて、ごめんね。でもまた絶対会いに行くから。その時は、今度こそはずっと一緒だよって約束しよう?」



♢♢♢



 くるっぽーと鳩時計の音を出す聞きなれたスマホのアラームが耳に入り、寝惚け眼をゆっくりと開きながら起き上がる。二度寝しないよう寝床から離れた机に置いてあるうるさい音の発信源の画面をいじりアラームを止める。

 嫌な夢を見た。大好きだった幼馴染との、別れの夢。幼馴染の彩埼あやさき楓那ふうなは少し気が弱く、いつも私に後ろにべったりくっついていた、可愛い女の子だった。私相手にだけたまに、悪戯されたりもしたけど。ずっと一緒だとか、大人になったら結婚するだとか、子供ながらの口約束なんかもしたっけ。私がいなくて楓那、大丈夫だろうか......

 いや、本当に大丈夫じゃないのは、きっと私だ。あの時、私は楓那にありったけの怒りと悲しみをぶつけてしまった。親の仕事の都合の引っ越しなんだから、どうしようもない事だというのは、私だってわかっていたのに。楓那だって悲しかっただろうに、あの時は私を必死になだめてくれた。


――でもまた絶対、会いに行くから。


 もう三年待ったんだよ。あと何年待てば会いに来てくれるの、楓那。




 どれだけ悪い夢を見たとしても、学生としての本分は果たさないといけない。ましてや私、佐野川さのがわ 希依きいは高校受験を控えた近所の女子校の中学三年生だ。四月の学期始め早々に休むわけにはいかないのだ。


「ねぇねぇそういえばさ、今日隣のクラスに転校生が来たんだって」

「え? どんな子どんな子?」

「活発な感じでかわいい子らしいよ」

「あたしちょっと覗いてこよ」

「私も行く~」


 昼休み一人でのんびりしていると、そんな会話が聞こえてくる。隣のクラスに転校生が来たらしい。近くで会話してたクラスメイト二人の話を聞き少し気になった私は、会話をしていた二人の後を追うように自分の席を立ち教室を出る。隣の教室を覗くと、わかりやすく人が集まっている席があった。その中心に座っている子は、キリハラさんキリハラさんと質問攻めにあっており、そのキリハラさんは明るく質問に答えながらクラスメイトとコミュニケーションを取っており、すっかりクラスに馴染んでいるようだった。正直、かなり可愛い子だなと思ってしまったが、昔に比べて大人しく、少し暗い性格になってしまった私とは、これからの一年じゃ絶対関わる事のない人だろうな、とも思う。そもそもクラス違うしね。




 数日後、二クラス合同の体育の時間。


「ねぇ、二人組組も?」


 関わる事のないと思っていた転校生に、何故か話しかけられていた。


「えっと......はじめまして。転校生の......キリハラさんですよね。あなたと二人組組みたい人沢山いると思うけど、いいんですか? というか、なんで私なんですか?」

「あーえっとうん。意外とみんな前からの友達と組んでるし、そこは大丈夫! で、佐野川さんを誘った理由は、気になったから」

「気になったから」

「そう! 気になったから」


 というかこの転校生、なんで私の名前知ってるんだ......って体操服の胸部に苗字は漢字で刺繍してるからか。キリハラさんは、桐原さんというらしい。まぁ私も、だいたい二人組を組む人は普段会話する人の中から適当に、って感じだったし、別にいいか。




 今日は久しぶりのバレーの授業なので、基本は二人組でレシーブとパスの練習をしただけだったのだが、桐原さんはかなり上手だった。一応昔活発だった名残で運動は割とできる方なので、桐原さんが運動苦手そうだったらできるだけ返しやすいパスをしようと気を遣おうと思っていたのだが、そんなものが不要なくらいには上手だった。


「えっと......さのっちお疲れー!」

「お疲れ様です。パス上手でしたよ。運動神経良いんですか?」

「これでも昔は全然運動できなかったんだけどね。今は結構得意だよ!」


 昔は運動苦手だったんだ。というか、さのっちて。もうあだ名で呼ばれてるし。距離感近いなぁ桐原さん。


「あ、どうしよ」

「どしたさのっち?」

「いえ、汗拭きシート忘れてしまって」

「私の使いなよ......ほいっ」

「あ、どうもありがとうございます」


 そういえば、結局なんで私なんかが気になったんだろ。なんて思いながら、貰った汗拭きシートで私は黙々と体を拭いた。

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