第一話 童話の世界

「……ライド卿、今、手ぶらで何と? 」

怖いほどの美貌の派手な深紅のドレスに身に纏った女。

「あ、はい。ですから、逃げら……」

ひゅっと言葉も告げ終わらぬうちに何かが横を走り抜ける。

肌にちりっとした痛みが走った。

後ろの壁には丸い焦げた跡がついている。

「なんの手掛かりもなく、おめおめとヘラヘラと……」

「いえいえ、そこは魔法で変えていただけで、魔跡がありましたよ」

「……はどうしたの? 」

「ギリギリまで我々を引き付けてる間に逃がしたんでしょうね」

「忌々しい……。ライド卿は引き続き魔跡を探しなさい! 」

「ロジャー氏は……」


──ギャーーー!!!


下から地響きのような叫び声がした。

「あんなデブなんぞもういらぬ」

手掛かりの廃墟を不可抗力とはいえ破壊してしまったことが問題で……。

「手引きしたのは3いたはずよ。探して始末なさい───」


☆。.:*・゜


「……ここは」

見知らぬ広い部屋。


───バン!!


ぼーっとしていると、乱暴に扉が開かれた。

「───!? …… ? 」

「え?」

恐ろしく美しい女性が私を見て驚いていたがすぐににこやかに微笑む。

「……遅いお目覚めね。誰かいないの?!

の支度をなさい! 着替えたら一緒に食事にしますよ。なんですから───」

私にはわかった。

綺麗に笑うその瞳が笑っていない。

「あ、はい。

今はそう言わなければならない気がした。

彼女は微笑むと丁寧に扉を閉めた。

「じょ、女王陛下申し訳ありません! すぐに! 」

直ぐさま扉がノックされた。

「はい」

「失礼します! 姫さま、お支度のお世話をさせて頂きます! 」

扉を閉め、足音が遠ざかると足早にベッドに、私のそばに真剣な顔をして顔を近づけた。

「……メイリンです。ね。お待ちしておりました、さま」

「え? 」

「……ふたりは何も話さなかったようですね。です。お支度をしながら手短にご説明します」

「ミス・エリア? ミス・カサンドラ? 」

ふたりの瞳はあの女王陛下と呼ばれた人とは違う。でも───。

んだと思います。薄々感じてらっしゃるとは思いますが、あの女王は幼い姫を亡きものにしようとしました。まさか、メイドである私たち3人が事前に怪しまれないように姫を連れて逃げる作戦があったとは未だに気がついていないようです。だって、ふたりが早くに理由をつけて辞職し、ひとり残った私があなたをふたりに手渡すことができ、18年経った今もバレずに作戦が続けられています」

「……私の為に3人で計画して? 」

「はい、あなたは希望の光です。姫さまは『白雪姫』のお話はお好きですか? 」

突然、童話の話を振られ、首を傾げる。

「好きですけど……」

「だいぶ改ざんされていますが、あれは真実で、あの白雪姫はあなたの本当のお母様である様のお話なのです」

「私が……白雪姫の娘? 」

「はい、ですがこの世界はほかの童話の人々もおり、あなたのような二世たちがいます。童話では敵だった人が助けてくれるかもしれません。この世界では皆から、の判別が難しければ、にしてしまえばいいのです」

よくわからず、首を傾げる。

「今はわからないでしょう。ひとつ、内緒話をしましょうか。……カサンドラはライド卿の父、童話の狩人に恋をしていました。ブランシュ様を逃がした狩人です。その嘘がバレて殺されてしまった。カサンドラはずっと彼を想い、苦しんでいます」

私はハッとした。

『私は……恋愛を失敗し、たまたま同郷だったエリアと再会したのです。彼女がいなければ今私はここにいなかったでしょう』

ああ、ミス・カサンドラは……。

「内緒、ですよ? カサンドラは不器用で嘘がつけません。繋がりがあると問い詰められた時作戦が破綻し、あなたが不利になりますから言わない苦労をしたでしょうね。あなたを見ておもいました。と」

「え? 」

「……お迎えの準備で魔跡が漏れたらしく、感知されたことを知り、ふたりはおそらく。でも、あなたの女王への対応を見て思ったんです。あなたを見てさよならなんてしたくなくなっただろうと。……まぁ、ライド卿もどちら側かわからない節がありますし。よし、終わりましたよ! 女王陛下の言動に気をつけてください。童話通り、です。あなたが幼くしてブランシュ様はお亡くなりになっているからあなたはをして母子を疑わないように。ご案内します」

私は殺されそうになったことを知らない。

私は本当のお母様を知らないからあの女王が母親と言われたら信じてしまう。

18年間を聞かれても、ふたりのを使い、記憶がないと言う。

私の頭の中で構築されていく。

を武器に生き抜こう。


☆。.:*・゜


「お待たせしました」

「まぁ、マリー! こちらにいらっしゃい」

「はい、おかあさま」

(食べても大丈夫です。あの執事はから)

メイリンは内情に詳しい。よく今までバレずに調査出来たものだ。……野放しにされている可能性もあるが、それさえも考慮している気がする。

「マリー? 心配していたのですよ。今までどこにいたのですか? 」

眉尻を下げて優しい顔をする。

でも、瞳が正反対だ。瞳孔が開いている。

「……わかりません。ずっと……もやの中に居たような、そんな気がします」

困ったように俯く。

「誰かと一緒ではありませんでしたか? されていたのですよ? そうしたら急に部屋にいてビックリしました。あの日から毎日毎日心配で、あなたの部屋を見に行っていたのです。あ、さっきは乱暴に開けてしまいましたね。ごめんなさい。ちょっとイライラしてしまうことがあって……」

私を逃したふたりが無事逃げたから、だろうか。私を捕まえてふたりを殺そうとしたのかもしれない。

「おかあさま、大丈夫ですか? 」

「まぁ、優しい子。あなたはきっと生きていると信じて探させていたのです。けれどどれも似た眉唾だったものですから……。本物には敵いませんね」

「似ても似つかない女の子を連れてきた……? 」

「そう! そうなのです! この、そして───。ふたりといるはずがないわ」

狂気にも似た恍惚の表情で私を見詰める。

メイリンは間違っていないだろう。

けれど、女王の言動に違和感があった。

皆、




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