Lv.8「さ、脱いでください」





(ガラッと教室のドアが開く)

「さ、脱いでください」


(ピシャン、とドアが閉まる)

「ちょ、ちょ、」


(主人公がガラッとドアを開ける)

「逃げないでって!

 ほら、お願い。入って!」


(ピシャン、とドアが閉まる)

「なんで今日は抵抗すんのよー!

 あ、脱げって言ったからか」


「だって今日は、前鋸筋ぜんきょきんさわりたいんだもん」


「……だから、服の上からじゃ筋肉の形がわかんないんだってば!」


「上半身だけだから。

 (パチン、と手を合わせて)

 ね、お願い。このとーり!」


「わーい、ありがとありがと! キミはやさしーなぁ。

 あ、脱ぐの手伝いますよ~」


「え、恥ずかしくないのかって?

 だってこれは勉強のためだもん」


(服を脱がせながら)

「この前はヒミツって言ったけど……

 アタシ将来、理学療法士りがくりょうほうしになりたいんだ」


「そ、リハビリする人。

 うちのパパがいま、骨折で入院してて。リハビリの人にすごくお世話になってて」


「身体のことすごく詳しくてさ。

 パパぜんぜん動けなかったのに、魔法みたいに良くなっていくから」


「勉強キライだけど、筋肉の勉強はたのしいんだ。

 半分……てかほとんど、キミのおかげだけどね」


「あはは、今この話するのはずるいって?

 ふふ、それな。それが狙いだったり」


「立って、腕を横にひらいて」


「んー、もうちょっと腕あげて」


「あ、あ、見えてきた! 前鋸筋ぜんきょきん筋腹きんぷく!」


「ね、さわっていい?

 わきの下だから、ちょっとくすぐったいかも」


「前鋸筋は、肩甲骨けんこうこつの裏っかわについてて……

 そこから肋骨ろっこつに沿ってのびてて、わきの下からわき腹にかけて肋骨にくっついてる」


「すごい。キミの前鋸筋、発達してるね。

 筋腹ひとつひとつ、わかるよ。小さな丘みたいになってて、かわいい」


「あはは、前鋸筋も痛きもちいいの?

 キミ、ツボがいっぱいあるね!」


「いいなぁ、好きだなぁ。いい前鋸筋だなぁ……」


「(下から見上げながら)

 ん? キミなんか、顔赤いよ? 大丈夫?」


「ガマンできないって、なにが?

 きゃっ!」


(がばっ、と抱きしめる音)

「び、びっくりした……」


「きゅ、急に抱きしめてきて……どうしたの?」


「……筋肉以外も見てって、どういう、こと?」


「それってつまり……

 キミはアタシのこと、スキってこと?」


「ふふっ、タイミング!

 上半身ハダカで、それ、言う?!」


「(囁くように)

 ふふ、ガマンできなかったのか。そっか」


「……アタシも、えっと……スキ、かな?」


「ちゃんと……筋肉以外も、スキ、だよ?

 筋肉も、スキだけど」


(ふたたび、服が擦れて力強く抱きしめる音)

「きゃ! ちょ、痛いって。ギュッとしないでよお」


「……キミの心臓、ドキドキしてるね」


「……アタシも。すっごいドキドキしてる」


「……ね、さすがにコレ恥ずかしいから……服、着よっか」


(袖に手を通す音)

「はー……ドキドキした」


「あの、さ。

 その……うちら、付き合うってコトで、いいのかな?」


「ふふっ、じゃあ、どんな筋肉もさわり放題ってことだ」


「えっ……そ、そっか。

 カレシカノジョなんだから、お互いさわり放題じゃないと、不公平なのか……」


「ぜ、前鋸筋ぜんきょきんは、今度でいい?

 ちょっとまだ……恥ずかしいなーって……」


「いつか、ね。ふふっ」





 Lv.8 前鋸筋 Clear!!!

       Next ➠ Lv.9 咀嚼筋



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