宝君の話関連の短編集1

淡雪

第1話普賢菩薩の独り言

 今から3000年程前、僕は仏界に迎え入れられてからずっと、普賢菩薩と名乗っている。


 任命したのは、言うまでもなく今下界に住んでいる望ちゃんこと、呂望リョボウさんで…


 そのせい…いや、そのお蔭で慣れない修行が始まった。


 その修行は今現在でも尚続いていて、一体いつになったら如来になれるのかと思うと、溜め息が零れてしまう。


 まぁ、“菩薩から如来になるには、それ相当の時間を費やさなければならない”と、僕が脇侍を務める釈迦如来様が、励ましてくれるようにお説教をしてくれるから、それ程落ち込んではいないけど。


 弥勒菩薩さんも、文句一つ言わないで修行しているし。


 いつもストレスが溜まると、望ちゃんがいる縹家へ行こうと思ってしまう僕より、同じ菩薩として立派だなと感服する。


 そんな僕には、望ちゃんには言えない秘密があって、“いつかは伝えないといけないな”という思いを、胸に抱えたまま過ごしていた。


 だけど…望ちゃんの事を考えると、上手く伝えられない。


 いつ、何処で、どんなタイミングで?


 “今だ!”と思って口を開こうとすると、頭の中がごちゃごちゃになって、気付けば僕はいつの間にか君の笑顔につられて笑っている。


 とても大事な事なのに…


「やっぱり、望ちゃんは凄いや。

全部1人で決めて、僕達に指示を出せるのだから…」


 誰もいない部屋で、僕は尊敬を込めてそっと呟く。


 瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸を2・3度繰り返した後、再び瞳を開く僕。


 迷いを断ち切った僕は、別室で待つお釈迦様に会う為に、自室をあとにした。


令和2(2020)年12月27日23:00~12月28日1:10作成




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