残響ノクターン

天井現実

第1話 「銃と剣」

「こいつ、体硬くて銃弾通らない…」


 20時36分。トンネル内で1人の少女と見た目は巨大ムカデだが体に人の顔のようなものが無数に盛りあがっている謎の生物が戦っていた。

 夏が始まり気温が高くなってきたというのに少女は深緑色のニット帽を被り、それと同じ色のモッズコートを白い服の上から着ている。

 下はダメージが多めのダメージジーンズを履いており、靴は値段が高そうなハイスニーカーを履いている。

 髪は綺麗なピンク色でロングウルフ。目はとても綺麗な赤色で巨大ムカデ?を睨みつけている。


「体もダメ、頭もダメ、関節もダメ。私じゃこいつに勝てないか…ったく、テンは一体どこでなにやってんの!!」


 ◇◇◇


 始まりは江戸時代。

 赤い目をした赤ん坊が特殊な力を持って生まれた。

 人々はその特殊な力を天からの贈り物とし、「天贈てんそう」と称し、天贈持ちの人を「天贈人てんそうびと」と称した。

 その後、1人、2人と次々に天贈人は生まれ、時代が重なるにつれ増え続けた。

 そんなある日、天から1つの生命体が地上に降り立ち、人々を次から次へと虐殺していった。その情報を聞きつけた天贈人達はその生命体に立ち向かい、多くの犠牲を払ったが戦いに勝利した。


「生命体は天贈を取り戻しにきたのではないか」

「天贈を上手く使えなかった我々に怒りを覚えているのだろうか」


 などと人々は考え、その生命体を天の使い、「天使てんし」と称した。


 そして現在、19時27分。トイッターにてひとつの文がトイートされた。


「彼女の家に行くまでのトンネルにすっげぇき色悪い声がすんだわ!!このトイートを見てる天贈人さんいたら調査してくれよ!

場所は由来ゆらトンネルね!

#天贈人さん仕事です」


 コンビニでカップ麺をカゴに入れながらそのトイートを見ていた白く長い髪をポニーテールにし、紫のウィンドブレーカーを来ている少女、

「椎崎(《しいざき》)テン」は義妹の「椎崎エルシア」にメールでトイートのURLを送り、電話をかけた。


「……あ、でた。もしもし?エルシア?私の送ったURL見て!」

「私寝てたんだけど?」

「それは謝るから!で、見た?URL」

「見たけどこれがどうしたの?」

「どうしたの?じゃないよ!依頼だよ!?依頼!!」

「これ私たちに向けてじゃないじゃん。私は夢の続きを見るためにもう1回寝ないといけない仕事が」

「今コンビニで限定シュークリーム売ってるけど私とその依頼受けてくれたら買ってあげる」

「由来トンネルね。了解」


 電話が切れた。


「エルシアのいい所はもので釣れやすいってところだね。んじゃさっさと買うもん買ってトンネル行きますか!」


 ◇◇◇


「とりあえずこの戦い生き残ればシュークリームが待ってるし、なんならこいつの行動パターン覚えてきた」


 テンの到着を待ちつつエルシアは巨大ムカデ?に銃弾がきかないことがわかり、攻撃を避けることに専念していた。


「トンネルって聞いてたから私の愛銃「キアッパ・ライノ」を持ってきたけど動きが読みやすいんだったら「L96 AWS」で遠くから頭狙ったらよかったな。でもそれでも効かなかったらゲームオーバーだな」


 現在エルシアが持っている銃「キアッパ・ライノ」は回転式拳銃で銃身長が2〜6インチまである銃だ。エルシアはそのキアッパ・ライノの6インチを使っている。

 また、「L96 AWS」はボルトアクションスナイパーライフルであり、重量は6.500g。エルシアはこの銃を片手で持つことができ、さらにこの銃を背負い、100メートルを走り、17秒という記録を出したことがある。この銃は800メートルが有効射程とされているがエルシアはこの中で3キロ先の狙撃に成功している。


「てか今思えばわざわざ遠いトンネルにくるなら近くのコンビニ行ってシュークリーム買えばよかった!!」


 などと叫びながら攻撃を避け続ける、が、エルシアの後ろを何かが通った。


「!?…今の気配は一体…」


 その何かに気を取られ、巨大ムカデ?の尻尾攻撃が避けれない距離まで達していた。


「やばっ!」


 その瞬間、巨大ムカデ?の尻尾が縦に切れ、エルシアの両サイドを通って天井に深く刺さっていた。


「はぁ…助けて貰っといてだけど、遅い!」

「ごめん!間違えて別のトンネル行ってた!」


 巨大ムカデ?の尻尾を切ったのは先程コンビニで買い物をしていたエルシアの義姉、テンだった。


「とりあえず助けてくれてありがとう。こいつ体硬いから私役立たずなので、後ろから見守っときまーす」

「援護もできないくらい硬い?」

「見りゃわかるでしょ。あんたが来るまでに私が何発撃ったと思ってるの?ほら、体に傷1つついてない。とりあえず自慢の剣技でみじん切りにしてあげて」

「了解!」


 テンの持っている武器「ブラックニンジャソード」は刃渡り20〜70cmの刀剣であり、持ち手部分はロープで巻いたものになっている。

 彼女はこれを振り回し戦い数々の物を切ってきた。大木だったり、車だったりと。彼女の嘘かもしれないが雷を切ったことがあるという。


 巨大ムカデ?は尻尾の先端を切られ、口がないため叫びはしないが暴れている。

「君にとってはこの狭いトンネルで暴れるのは良くないよ!今楽にしてあげる」

 ブラックニンジャソードを握り、巨大ムカデ?の頭目掛けてジャンプした、が、巨大ムカデ?はそれを察知し自身の触覚でテンの体を貫きそそのままトンネルの壁にテンを叩きつけ、「次はお前だ」と言わんばかりにエルシアを睨みつけた。


「おーこわ。でも睨む相手間違ってるよ」


 エルシアがそう言うと巨大ムカデ?の頭が地面に落ちた。巨大ムカデ?は何が起こったのか分からないようだったが最後に見た光景で全てを理解した。腹を貫き、叩きつけたはずの少女が叩きつけた壁とは逆の方に立っており、貫いたはずの腹が白い炎で覆われていた。


「地味に痛かったよ。君の触覚攻撃」


 この言葉を聞いて巨大ムカデ?はこの少女に首を切られたと理解した。首だけになってもテンに触覚を向け、飛び跳ねた。がテンは自分に向かって飛んできた巨大ムカデ?の頭を空中で一刀両断し、とどめを刺した。


「……よし!依頼達成だね!」


 エルシアに向けて笑顔で話したがエルシアはなにかに怯えているような顔をしていた。

「いや、まだだよ。そしてこの依頼は達成できない」

「え、だってこの巨大ムカデみたいな天使倒したじゃ」

 その時、後ろに白く、大きく、そして不気味すぎる顔がテンの後ろに一瞬現れた。

 背筋を凍らせたテンはエルシアの方に飛び退いた。エルシアの横に着地した時にはその不気味な顔は消えていた。


「見えた?」

「見た。今度は確実に」

「今度は確実にってさっきも現れたの?」

「そいつのせいで尻尾攻撃を食らうところだった」

「……やばいやつ?」

「やばいやつ。さっさと帰ろう。そして上に報告する」


 幸いエルシアとテンがトンネルを抜けるまでにあの白く不気味な顔は襲っては来なかったが2人は冷や汗で服の首元の色が変わっていた。


「……さっきの、お兄ちゃんでも無理かな…?」

「さぁ…でもいい戦いはするんじゃない?とりあえずトイートしなきゃだ」


 先程の不気味な顔のことを話しつつエルシアはトイートにて


「しばらく由来トンネルに近づかないでください。いかなる理由があろうともです。

#天贈人から皆様へ」


 と、トイートした。


「このトイートをこの辺の人が見てくれるかどうか分からないけどね。トイートしとかないとだ。…なにか交通止めできるものがあればいいんだけど」


 エルシアは自分の原付の椅子の中から通行止めできる何かを探し始めた。


「エルシア…あのさ、今日、一緒に寝てくれる?」

 というテンの質問に対し

「義妹に一緒に寝てっていう義姉ってどうなの?」


 とエルシアは笑いながら答えた。

 結局通行止め出来るものはなかったので早く家に帰ろうとしたその時、バイクに乗った男が声をかけてきた。


「うっす〜!君たちもしかして俺のトイートみて仕事してくれた天贈人?」

「あなたのトイートかどうかは知りませんが天贈人で今トンネルの中の天使を倒しましたが…」

「倒したの?いいね!終わったならヨシ!ありがとうね。俺の彼女待ってるからもう行くわ!」

「あ、待ってください。このトンネル内に私たちじゃ太刀打ち出来ない奴がいるので彼女さんの所に行くのでしたら別の道から通ってください」

「……は?なにそれ。ダルすぎんだろ」

「申し訳ないです」

「はぁ、使えねえな。てか太刀打ち出来ないならなんで君たち無傷なわけ?」

「え、えっとそれは」

「君たちが無傷なら俺も大丈夫じゃね?じゃ、そゆことで〜!」

「ねぇ!ちょっと!」


 テンが止めようとしたが男は聞く耳を持たずそのままトンネル内に入ってしまった。

 その男を止めようとトンネル内に戻ろうとしたテンをエルシアが肩を掴み止めた。


「絶対にダメ!」

「でもそれじゃああの人が!」

「あの男の人生はここまでだった!私たちがとめたところでなにも変わらない」

「で、でも」

 テンが何か言おうとしたその時

「あああああああああああああああ!!」

 トンネル内から叫び声が聞こえてきた。

「テンがもしあのまま追ってたら、あの叫び声にテンの叫び声も混ざってたかもしれない。まぁあの男はバイクだったから先に叫ぶのは男の方だけどね」

 テンの肩から手を外し、エルシアはヘルメットを被り原付に跨った。

のテンでもあいつはやばい。ほら、帰るよ」

「……うん」

 トンネルの方を見つめるテンを見てエルシアはため息を吐く。

「帰りにアイス奢ったげるから早く行くよ」

「……ふっ。私はエルシアみたいに物で釣られるタイプじゃないけど、今日は釣られてあげよう」

「てか歩きできたの?」

「うん。だから後ろにのせて?」

「捕まるわ」


 原付で先に山道を降りるエルシアを走って追いかけるテン。

 その2人の様子をトンネルから見る白く不気味な顔の口周りには血のような赤色の液体がこびりついていた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る