どさんこ娘に癒やされたいっ!

永久保セツナ

TRACK1 どさんこ娘の家にご招待

//SE:ドアを開ける音


「あ、お兄さん、いらっしゃ~い」//ゆるめの声


「ちょっと散らかってるけど、入って入って。掃除はしたんだけど、どうしてもフィギュアの箱とかはしまう場所なくてさぁ。見苦しくてごめんね? ちょっとあずましくないと思うけど、これでもけっぱったほうだから」


「ごめ~ん、今うちに牛乳しか置いてなかったわ。これでも大丈夫?」


//SE:牛乳を注ぐ音


「んくんく……ぷはぁ」//牛乳を飲む演技


「やっぱり牛乳は北海道産に限るね。特に十勝産が一番好きなんだ」


「……あ、やっぱりお客様に牛乳をそのまま出すっておかしいかな? そりゃわりがったわ。インスタントコーヒーはあったと思うから、ちょっと作ってくるね」


//台所でカフェオレを作る音(遠め)


「お待たせ~。こちら、カフェオレでございます。……ん、結局牛乳は入れるんだなって? あ、もしかしてお兄さん、ブラックも飲める感じ? 余計な気を回しちゃったかな」


「……え? ときどき何を言ってるのか分からない? んなことねえっしょや。普通に話してるだけだけど?」


「そもそも、北海道弁ってあんまり方言強くないと思う……そんなことない? そうかなぁ……」


「まあいいや。お兄さんが家に来てくれて嬉しいわ。あんがとねぇ」


「お兄さん、オンラインゲームで話してる時とあんまイメージ変わらないねぇ。ゲームのチャットでも丁寧で礼儀正しいしさ。向こうでは長い付き合いだけど、こうして会うの初めてだから正直ちょっと緊張してたわ……」


「いやいや、なんもだよ~。私が家で一緒にゲームする相手欲しいな~って話したら、本当に会えるとは思わんがったわ。私たち、意外と近所に住んでたんだね。今度お兄さんの家に遊びに行っていい?」


「え~、なしてさ~? いいべや、お兄さんの部屋にはどんなフィギュアとか置いてるのか気になるんだもん、別にいいっしょや~」


「チェ~ッ、ケチんぼだぁ。まあいっか。じゃあ、飲み物飲み終わったら、そろそろ準備しよっか」


「いつもはパソコンとか携帯でゲームしてるから、据え置き型のゲーム機取り出すのもたいぎだよね~」


「準備が終わるまで、ちょっと待っててけれな」


//SE:ゲーム機をセットする音(遠め)


***


「ゲームの準備できたよ。まずは何からやる?」


「お~、格ゲー? いいよ。最初一対一で戦って、そのあとチーム戦にしよ!」


//SE:格ゲーで遊ぶ音(ガチャガチャとボタンを押す音など)


「えぇ~っ、お兄さん強いよ! わやくちゃにされたわ」


「もっかい! もっかいやろ!」


「え? チーム戦はやらないのかって? このままお兄さんに勝ち逃げされたくないんだもん。あ、でも絶対手加減はやめてげれよな!」


//SE:さらにボタンをガチャガチャする音


「…………やいや~! お兄さんに全然勝てないよ~……。わがったよ、もうチーム戦にする……。逆に考えれば、お兄さんが味方チームにいたら心強いもんね」


「わ~! ごめん、変なボタン押ささった! も~、相手チームがめっちゃ煽ってきて、がっつ腹立つな~!」


「お兄さんのおかげで勝てたけど……私、足引っ張っちゃったね。ごめん……」//シュンとする


「……え? 『なんもなんも』って? ふふっ、私の真似? でも、謝ったあとに『なんもだよ~』って言ってもらえると気が楽になるね……北海道弁の優しさだべな」//優しい声色


「ね、次はすごろくゲームやるべ! 今度こそ負けないからね~!」


「うわーん、サイコロの目が一しか出ない~! 全然進めない~!」


「お兄さん、運が良すぎない!? このゲームに細工してない!?」


「……いや、このゲーム私のだし、細工できるわけないな……」//ため息混じりで首を傾げる


「え? お兄さんってオンラインゲームでもレア装備がよくドロップするの? お、おっかねぇ男……!」//戦慄した声色


「――はぁ~。負けてばっかりだけど、楽しがった! あ~もうこわくてクタクタだわ~」//疲れた声色


「ん? ああ、この場合の『こわい』はホラー的な意味じゃなくて、北海道では疲れたときに使う言葉だよ~」


「とにかく、ゲームは一旦休憩しよっか。そろそろお昼でしょ? 私が作るよ」


「お兄さんもこわくなってきたらそのベッドでねまっててもいいからね」


「え? さすがに女子のベッドは使えない?」


「ふーーーん、お兄さん、私を女子扱いしてくれるんだ?」//笑いながら楽しそうに


「ううん、嬉しいよ、あんがとね。ほら、私この性格だから、あんま男が寄り付かなくて」


「……なんか変な話題になっちゃった。お昼作ってくるね!」


***


「お兄さん、お待たせ~。お昼だし、イカ飯作ってきたよ~」


「どう? 美味しい? ……えへへ、そっかぁ~。お兄さんのお口にあったようならいがったわ~」


「え? これを手作りしたのかって? まっさがよ~。レンジでチンするだけで出来るやつだよ」


「ゆっくり食べながらでいいから聞いてほしいんだけど……。このあとどうしよっかなって思ってて。まだお昼だからもっといっぱい遊べるけど、ゲームだけじゃ味気ないし、なにか他のこともしたいなって思ってるんだ」


「お兄さんはなにかしたいことある? ……私におまかせするって? うーん、それが一番困るんだけど、ちょっと考えてみる……」//うなりながら考え込む声色


「え? ああ、この写真? うちの実家の牧場だよ。この牛はモモって名前で、この子はミリィで……」


「牧場はデカいのかって? そりゃ牛を放牧したりするからねぇ。それなりに広いよ」


「うん、私が牛乳好きなのは、実家の影響もあるかな。牛の子供がなまらめんけぇのよ。その子と一緒に牛乳をグビグビ飲んでると、なんていうんだろう、牛への感謝を感じるよね」


「牛乳はねぇ! 栄養豊富で美味しくて、しかも骨まで強くなるんだよ! 私なんて骨密度300パーセントはあるもん」//元気な声色


「え? それはさすがに嘘だろって? ふっふっふ、それはどうかな~?」//いたずらっぽく笑う


「だって私、骨密度なんか測ったことないも~ん! だから嘘かホントかはわからない! シュレディンガーの骨密度だよ!」


「じゃあ、今度一緒に測りに行こう……って? そんなに私のこと……知りたい?」//意味深


「うははっ、女の子の骨密度知りたいなんて変わってるね~! お兄さん面白い人だね! え? 私ほどじゃない? それはそう」


「わがった、わがった。それじゃ、いつか一緒に骨密度測りに行こうね。骨密度デートね。オッケーオッケー」


「おっ、デートって行ったら意識しちゃった? ふふふ、お兄さんやっぱ面白いね~。からかいがいがあるよ」//飄々としている


「ほら、早く食べないと、イカ飯、冷めちゃうよ? アーンしてあげよっか?」


「あっはは、怒るな怒るな~! 私もイカ飯、さっさと食べちゃおっと」


***


「ん? どうしたのお兄さん。気になってることがあるって?」


「私のこと、そんなに知りたいんだぁ~? ふーん?」


「いいよ、何でも質問して」


「いつも昼間からオンラインゲームにログインしてるけど、学校はどうしてるかって?」


「ああ、私、大学生だからね~。お酒も飲める年齢ですのよ」


「そういうお兄さんも昼間にログインしてるじゃん。どんな仕事してるの?」


「ふんふん……へぇ~、お兄さん小説家なんだ? なんて名前で活動してるの? お兄さんの本、読んでみたいな」


「えぇ~、絶対に教えないって? なしてさ?」


「自分の書いたものをリアルの知り合いに読まれるのは恥ずかしい……? なるほど……それはわかる」


「まあ、話を戻すけど。私は大学生でお酒も飲めるから、今度お兄さんとふたりで飲みたいなあ」


「お兄さん、悪酔いするほう? お酒飲んだ途端、オオカミさんになったりしない?」//いたずらっぽく


「ふふ、冗談だよ。お兄さんはそんな事する人じゃないって、この一日でなんとなくわかったから」


「私の家に来てから、私を襲えるタイミングなんて、いくらでもあったでしょ」


「……おかしいな、私のこと、本当に女として見てないのかな?」//独り言


「ううん、何でもないよ~。もう夕方だし、そろそろお開きにしようか」


「今日は一緒に遊んでくれてありがとね。すぐ近くだけど、帰り道気をつけてね。したらね~」

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