第14話 言い訳


『おい、なんで渡さなかった』

「えっと……ごめんなさい。せっかく手伝ってもらったのに」


 池里くんと別れて家に帰って私の部屋に着くと、男の子はおこった様子で問いつめてきた。


「えっと……ごめんなさい。せっかく手伝ってもらったのに」

『そうじゃなくて! なんで?』


 女の子も納得がいかないのか、男の子と一緒になって私にたずねる。


「だって……昨日話したばかりの人から突然こんな物を渡されてもこまるかなって」


 自分がもらう立場になって考えると……きっとこまってしまうだろう。


『そうかも知れないけどよ。そもそもコレはあいつの事を考えて……』

「ううん、全然考えてなかった」


 きっと私は遠い存在だと思っていた池里くんと話をして舞い上がっていた。だから、渡す池里くんの立場になって全然考えていなかった。


 ただ、実はコレにはようせい二人分のまほうが使われている。二人のまほうの効力いやしの力と勝負運が上がるというとんでもない代物だけど。


 ――ふつうの人から見れば、こんなのただの素人が作ったガラクタだもんね。


 そんな物を突然渡されても反応にこまるだろうし、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。


『でも、せっかく作ったのに』

「もっと仲良くなったら……渡すよ」


『それって……いつなの?』

「……」


 ――するどいなぁ。


 何気ない女の子に問いかけに、思わず無言になる。


 正直、明確に「何月の何日」とは言えない。今は同じ「手芸」という共通点があるけれど、池里くんがいつ「手芸」に興味をなくすか分からない。


もしそうなったらつながりはなくなってしまう。


 ――そうなったら、きっとコレを渡す事はない……かな。


 何もつながりがなくなってしまえばきっと池里くんは私の事なんて忘れてしまうはずだ。


『そんなに気を張らなくてもただ「サッカー頑張って」って渡せばよかったのに』

「……」


 女の子は簡単に言うけれど、私からしてみれば「それが言えればどれだけ楽だろうか」と思ってしまう。


 ――でも。


 多分、いつも池里くんがサッカーをしている時に黄色い声援を送っている彼女たちはそんな「断られるかも知れない」という気持ちに打ち勝って行動をしているのだろう。


 その強さが……私はとてもうらやましい。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「……」


 ――眠れない。


 結局、二人はその後。私が無言になると、それ以上何も言ってこなかった。


 ――あきられちゃったかな……。


 でも、何も言えずに逃げてしまうおくびょうなのが自分だとも思ってしまう。傷つきたくないから、周囲の空気をこわしたくないから……相手が来てくれるまで待つ。


 ――ずっと待っている。


 自分でもひきょうだと思うけれど、きっとコレも引っ越しを繰り返した結果……。


 ――いや、これも逃げている言い訳だよね。


「……はぁ」


 なんて事を考えてしまったら何度も布団の中で態勢を変えてもねられそうになく、仕方なくまた起き上がった。


「……ん?」


 起き上がるとすぐ目の前をキラキラと何かが飛んでいる。電気を消している事もあって余計に目立つ。


 ――な、何だろう?


『――』


 よく見ると、私に向かって何かしゃべっている様に聞こえる。


「え。な、何?」


 いつも一緒にいる二人は夜になると自分たちの家に帰ってしまって今はいない。


 ――そ、それに「ようせい」は夜に行動する事はあまりないはずじゃ……。


 そう二人から聞いている。


『おれたちも生活のリズムはお前ら人間と同じだ。夜は寝るし、朝に起きる』

『色々な物語だと私たちは相当違う様に書かれているけどね』


 実際のところは「ようせいも人間とあまり変わらない」という事らしい。しかもそう聞いていたからこそ、目の前にいる「光」が何なのか余計に気になる。


 ――でも、このふんいきは……。


よく知っているモノだ。


『遠野……みやこ様でしょうか?』


 フヨフヨと浮いていた「光」は私のひざの上に止まり、そのまま見上げる様な形になる。


「……」


 突然名前を聞かれ、けいかいしつつ無言でうなずくと、その「光」は……いや、何度も見た事のある服を見る限り……。


 ――とは言ってもかなり個性的だけど、この羽は「ようせい」だよね。


 私の知っている「ようせいさん」の女の子はスカートが多くて、男の子はズボン。そして、目の前にいる子もスカートではあるのだけど……。


 ――スカートがかなり特徴的な形をしている。


 でも、それが決して似合わないというワケじゃない。しかも、色んなかざりも付いている。


 ――こ、これを直すのは大変そう。


 なんて思いつつ無言でうなずいたのがうれしかったのか「ようせい」は笑顔を見せる。


 ――あれ、でも……。


 この子をパッと見た感じ、どこも直す様なところはなさそうだ。


『あ、私。光の長の使いとして来ました!』

「……え」


 満面の笑顔のまま言う「光のようせい」に、私はカチッと固まったままただただそう答えるので精いっぱいだった。

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