第6話 意外な出会い


『うわっ!』


 早速お店に入ると、たくさんのきれいなビーズで作られたアクセサリーだけでなく毛糸などで作られた人形が私たちを出迎え、女の子は驚いて私の後ろにかくれてしまった。


 それだけでなくほかにも服もかざられていて、洋服を着た人形もいる。


 ――確かこの人形って……マネキン……って言うんだっけ? お母さんが言っていた。


 ここ「手芸店いやし」はおばあちゃんが子供のころからある古いお店で、つい最近仕事をしたらしくて広くなった。


 ――広くなったから、ちょっと迷いそうになるし、いまだにどこに何があるのか分からなくなる事もある。


 そういう時は上に看板がかかっているのでそれを見て確認をする。


『広くてきれいだね!』

『だな。もっと古いと思っていたが……。ずいぶんと新しいな』


 店の中まで入るとこわくないのか、女の子は楽しそうに私たちに話しかける。


「うん。最近工事をして色んな種類の糸とか道具が増えたみたい」


 そう言うと、男の子は「なるほどな」と答えた。


『いつもここの糸を使っているのか?』

「え? う、うん。たまに違う糸を使ったこともあるけど……」


 なかなか上手く出来ずに苦戦した覚えがある。


 ――だから出来ればストックしておきたいんだよね。


「一番ここの糸が使いやすくて」

『そうなんだ』


「うん」


 でも、実はその事にちょっと疑問があった。


 それは「糸が違うだけでこんなににも使い心地に違いが出るものなのかな?」という事だ。


 ――このお店にしかない色だから! という理由ならまだ分かるけど……。


 確かにこのお店の糸はカラフルだ。今も私の目の前には一言に「赤」と言ってもちょっとずつ違う「赤」がたくさんある。


『……まぁ、それはここの糸がおれたちと相性が良かったんだろ』

「え、相性? 洋服を直すのってどの糸でも良いんじゃ……」

『一応どの糸でも問題はない。けどやっぱり合う合わないはある』

「そうなんだ」


 ――好きとかきらいとかそういう感じ……なのかな?


 あまり聞いても教えてくれそうじゃなかったので、そう考える事にした。


『……でだ』

「?」

『おれらのまほうは物に使う事は出来る。その中でも何かを作る「材料」に対してより力が出る』

「材料? それってもしかして……」


 私は目の前にある糸を適当に手に取って見せる。


『うん! 私たちようせいのまほうが使われた糸が作られた物は不思議な力が宿るの!』

「不思議な力……」


『ああ。まぁ、これは種族……つまり使えるまほうによって変わるな』

「そ、そうなんだ」


 な、なんか。本当にこんな事が自分に起きているのが信じられない。


『そうそう! 簡単に言えば……うん。ものすごいお守りって感じだね!』


 かわいらしい笑顔で言う女の子の言葉に、今一つ信じられないという気持ちを持ちつつ「そうだね」と言って何とか笑った。


「でも、具体的にどんな力が宿るの?」


 そうたずねると、男の子は「そうだな。例えばおれは……」と自分を差す。


『おれは火の種族なんだが……こういった場合は燃える力。ふつうに物を燃やす事が出来るんだが、人間に渡す物に使う場合。つまりお守りの場合は持っているやる気を出させる……らしい。あとはここぞという時の底力を引き出すらしいから……勝負運上昇もあるらしいな』

「へ、へぇ……」


 ――本当によく効くお守りって感じなんだ。


『……興味ないだろ』


 私は手に持った糸を見ながら答えると、男の子は少しすねた様子に言う。どうやら今のリアクションが気に入らなかったのだろう。


「そ、そんな事ないって!」


 ただ、どうにも信じられなくて……とはさすがに言えない。


『ちなみに私はいやしだよ! 夜にぐっすり眠れる様にしたりつかれが取れやすくなったりするんだよ!』

「あ、そうなんだ!」


 すっかりすねてしまった男の子に対し、女子は元気よく言い、その子に合わせてなんとか気を取り直す様に話していると……。


「ふ……」


――ん? 今、だれかに笑われたよ……う……な?


「?」


 今、このお店にいるのは私たちくらいしかいないはず……と思いつつ笑い声が聞こえた方を見るとそこにいたのは……。


 ――あ。


 同じ年くらいの男の子……。いや、私は一方的に「彼」を知っている。


「……」


 そう、そこにいたのはいつも昼休みにサッカーをして女子の黄色い声援を受けている『池里いけざとタクミ』だった――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「……」

「……」


 ――き、気まずい。


 向こうはまさか笑い声が聞こえていたとは思っていなかったのか「ヤバッ」という様子で、私も私でどうすればいいのか分からずお互い固まってしまった。


 ――で、でも気まずさで言ったら向こうの方がもっと気まずい……かも。


 いくら何でも面白い事をしていないにも関わらず「人を笑う」という事は、おかしな誤解を与えてしまう事もある。


 ――というか、なんで池里くんがここに?


 ここ最近の家庭科の授業は調理実習がほとんどでミシン……それこそ針と糸を使う事なんてない。


 ――後ありえるのは「おつかい」だけど……。


 服装を見る限りランドセルを背負っているから学校帰りなのは間違いない。


 ――というよりも……。


「……」


 私を見つめる彼の表情は……ついさっきまで笑い声が聞こえていたとは思えないほど怒っているのかはずかしがっているのか……正直分からないほど無表情だった。

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