第二十八話 巨大な王者!その名はコロッセウム!

 「誰ぇーっ!?」



 ​───大きく声を上げる私の前で立ち尽くし、「きょとん」とした顔で首を傾げる巨大な騎士。



 何処か神聖にして剛健な印象を感じさせる意匠の白亜の鎧は、確かに宗教関係者的風貌​────所謂、聖騎士の様な雰囲気を感じさせ、と言われても…まぁ違和感はない。




 ​────だが、それは初対面の場合だけだ!



 私は司祭かのじょと面識があり、そしてその姿は(その本質はどうあれ)私よりも小さな体をした、どこか獣的な少女であると知っている。



 だが目の前のはどうだ。明らかに違う、明らかな偽物だ。



 だが、偽物であるというのなら、致命的な問題が発見できる。



 それは、「何故私達、アンリとアヴェスタが知り合いだと知っているのか」という点だ。

 私は彼女を友達と呼ぶが、それでも私と彼女が一緒にいたのはあの地下墓の一室でだけ。



 それも、その中での数分のみだ。彼処にはドラウグ以外誰もいなかったし(それも、皆私と彼女によって浄化ころされている。)



 であれば尾行されていたか、或いはアヴェスタが誰かに私のことを話したかになるが​────。



 あの後にアヴェスタが上へ、私が下へと行った以上、尾行されているとは考えづらいし


 また、彼女が私の情報を誰かに売る理由はあまり考えつかない。

 またまたさらに言えば、此奴が彼女の名を騙る以上、彼女とコイツは敵対していると考えるのが妥当、情報の入手先は、まず彼女では無い…​───。




 ​───ならば。




 『…​──?…!!…待て、アン​────!!』




 コンマ数秒、そんな思考を張り巡らせてすぐ、私は背中の大剣フロベルジュを素早く抜刀し、一定の距離​───その男の攻撃範囲腕の長さより、少し長い程度の位置に近づいて、その喉元に剣先を向ける。




 「​───誰だ。何故ボクと彼女が知り合いだと知っている。」




 フロベルジュの歪な剣先がその丸太のごとき喉に当たろうとしているにも関わらず、その男は防いだり躱したり、あるいは反撃しようともせず、ただこちらを眺めている。



 流れる数秒の沈黙。




 先にそれを破ったのは、大男の方だった。




 「成程。全ての所作が簡潔かつ素早い、其れに臆病だ。余程素晴らしき師に恵まれた…だけでなく、己が血のにじむような、偉大なる足跡を刻む​───努力をしてきたのであろう。偉大なるこの俺は、それを褒め讃えよう。」




 「​──────。」




 そう言っては、男は自身の喉元に突きつけられていたその鋭い刃を親指と人差し指の二指で摘み、ゆっくりと力を込めた。



 「​────っ!!」



 「おっと、抵抗するなよ。見た限り、これは魔法具だろう。…あぁ、貴重な物だ。無理に壊す必要は無い。」




 ​────そうは言われても…!黙って言われるがままにするか!と思いながら、私は腕に力を篭める。

 そこで私が感じたものと言えば​────




 ​「────固っっ…!?」




 何だこれ!?刃先がまるで大岩ふたつに挟まれたように、万力に固定されたように微動だにしない!!



 そして数秒、意地のような形で数秒抵抗を試みるも、感じるのは「無駄」という二文字だけ。

 そのままなされるがままに剣を退かされれば、私はそれをゆっくりと下におろし、そして大きく息を吐いては、再び男に向き直した。



 「む、偉大なる戦士よ。その挑戦、もう良いのか?」



 「​───…ボクより君の方が強いって事はよく分かったよ。なら、これ以上続けても無駄だ。」



 それも、一段も二段も。



 「それに、ボクは、何か間違えていたんでしょう?」



 それを聞けば、男は満足気に「はっはっは!」と高笑いを上げ



 「なるほど!偉大なる戦士にして聡明な賢者よ!!賢明な判断だ!!」



 「…とはいえ、話は戻すが、君は素晴らしき才と、それに見合うだけの努力を重ねてきたことが見て取れる。だが、まだ“青い”。致命的なまでにね。」




 「君、自分が「そうだ」って確信した思考を盲信する癖があるだろう。この偉大なる俺を“敵だ”と判断した後の行動もそうだし​───」



 話をしながら男は自身の体を指し示すように表す、それが示すのはおそらくその姿ではなく​────出会った当初より数十倍にまで肥大化した、私より圧倒的な【格上】であると示す、莫大な魔力量なのだろう。



 「1度見た相手の魔力量で相手の力量に対する推測を確定させてしまうその思考もそうだとも。…あぁ、だが、その反応を見る限り、隠せることは知っていた様ではあるから、いつもはそうでは無いのかな?」



 「​──ボクが若いって言うのはわかったから、それで、結局のところ何が言いたいのさ?…それに、君が誰かっていうのも、まだ聞いてないよ。」




 それを聞いては、男は「パチン」と、何処かに指を鳴らし



 「​───成程、確かに。まずは名乗りをあげるべきであったな!!」




 そう言っては、大きく腕を広げる。見に纏われた赤く分厚い、これまた豪奢なマントも合わさって、ただでさえ大きな実像以上に、その体は巨大おおきく見える。



 「​──さぁさ!!遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!!この黄金白亜の巨城巨鎧こそが、太陽教会の永年の絶対王者チャンピオン!!」



 「​────そう!!我こそ太陽教会の偉大なる【王者】にして、司祭アヴェスタ管轄、中央大教会第十三部隊所属​…!!その名を…​────!!」



 「​───チャンピオ​───ン、コロッセウムッ!!!」



 「むふーっ!」と大きく鼻から息を吐き出す【王者】コロッセウムに対し​─────。



 私は、大きく瞠目しながら、その身体を、四肢の先、指の一本すらも微動だにさせられずにいた。

 それはどうやら、私の中のモラグも同じであるようだ。




 ​───巨大な体に相応しい、耳から足に突きぬけて、その全身をふるわせてくるような声​───いいや、もはやこれはか。



 ビリビリとした感覚をいまだ引き摺っている中、しかし、私は苦笑を抑えられずにいた…。



 

 「​…えーっと…名乗り、ありがとう…?…───でも、ひとつ、質問。」




 「む?何かね?」




 頭を抑えながら、控え気味に質問する私に対し、首を傾げるコロッセウム。


 その思考回路には、いくつかの質問の想定がある​────この少女が聞くのは太陽教会の【王者】とは何を意味しているのか、だろうか、それとも私の強さの理由?、それとも第十三部隊​、あるいはいきなり依頼について聞くか────?



 多くの情報を一息に渡した自覚はある。一つ一つ、丁寧に返そ「君って吟遊詩人だったりしない…?」




 「…ン?…いや…、すまない。偉大なる若人、戦士の若芽よ。もう一度頼む。」




 「君って吟遊詩人とか…やって…ないよね…?」

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