第七話 サークルクス墓地
────ザクザク、ザクザク。
細い雪のかかった山道を、私アンリ・パラミールは、時折現れる、はぐれの
目的地は、現在、私の目の前で月明かりに照らされている旧文明…
"
名を、"サークルクス墓地"
ラムイー村に隣接する雪山、"竜の寝山"。
その頂上に位置する
古い時代、ここら一帯を征服した戦王が、最期に没し、そして祀られた大型の地下墓であると言う。
昔から
酒場での聞き込みによれば、それどころか幼子に対して「悪い子供は寝山の古代死者に連れ去られるぞ」なんて脅しに使われるほど、ラムイー村にとっては馴染みの深い存在であると言う。
そして、そういう事が知れ渡っているからこそ、村人の多くは普段からあの山に近づかず
近づかないからこそ、何も知らぬ山賊の根城とされた。
そして、馴染みのある場であるからこそ、警戒する最大限の脅威を"ただの古代死者"であると
────そんな事を考えながら突き進んでいれば、気づけば周囲は白亜の様に真っ白な、一面の雪景色となっていた。
アンリ「…そろそろ、頂上は近いね。」
アンリ「───それで?ここまで来たからには目的地はボクと一緒だろ。君は何のようなの?」
───或いは、目的が"ボクそのもの"か。
アンリ「────
さくり。と
────山道の左右を覆うように、連綿と続く鬱蒼としたそれは、確かに身を隠すには持ってこいの物に見えるだろう。
然し、事実はそうではない。
村人であれば大抵は近づかず、また墓地の周囲特有のしんとした静寂の広がるこの道は、小さな音すらも面白い程際立たせる。
────音を消す隠匿の魔術に長けた人物や、単純に"そう言った"技能に秀でた人物でなければ
草枝に掠れる衣類の音や、寒気に震える呼吸の音を隠し切れず、その存在を鮮明に浮かび上がらせてしまう。
現に、彼の存在もそうだ。
先程から、パキリパキリと執拗いほどに枯れた枝の折れる音を響かせていては、見えない影すらも見えるという物だろう。
──────
──とはいえ、其れは普通の人間からの視点だ。
私からしてみればつけられている事は、もっと前に見知っていた事柄であったのだが
少しの古代死者が出る程度のこの山道が最後の
だから、野次馬のバカであれば此処で帰し
敵なのだとしたら…────
そんな事を考えながら、透き通る様な硝子の瞳を、じっとその茂みへ向け続ける。
そうする事十数秒────草木は激しく揺れ動き、そして、ゆっくりと予想通りの影をまろび出させる。
オルペ「──…あぁ、旅人よ…!強き君…、一体いつから気がついていたんだい…?」
耳にじんと響く執拗い演劇口調でありながら、然し潜めようと努力しているような声色で、
アンリ「敢えて言うなら、行く前に一眠りして、数時間も待たせちゃった事は申し訳ないと思ってるよ。」
───そうだ、私は彼が道具屋に入っている間も、ずっと外で待ち構えていた。と言っている。
───つまるところそれは、道具屋に入る以前、最低でも酒場を出た辺りからであるということになり…
それが意味するところは、彼はラブレターを託した段階から、ずっと、私を
その証拠に、彼は、私が彼を無視し酒場から出た時、扉にぶつかって────つまりは"追いかけてきていた"。
───とはいえ、あそこだけならば、(彼本人の巫山戯た────ごほん、愉快な性格も相まって)"歌を聞かせたかったのか?"なんて事だけで済ませられるが、アレからも付け回していたというのならば答えはひとつ。
彼は私がスヴェッタ身に起こっている何らかを解決出来ると踏み、結局は必要無かったが、スヴェッタの身に起こっている何かを解決させるように誘導させるつもりであったのだろう。
────あぁ、そうだ。
オルペは私があの時に見せつけた以前から、私の実力を知っていた。
***
オルペ「…そうわかっていて、どうして止めなかったんだい?」
演劇的な態とらしい口ぶりが崩れ、驚嘆と冷や汗混じりの
アンリ「まぁ、別に探られて嫌なものは───ないって訳ではないけど、つけられてるって分かってる以上は隠せるし」
アンリ「それに──…失礼だけど、君くらいの"魔術師"なら奇襲された所で問題なく対処出来るんだよね。」
オルペ「…
────そうだ。
魔力を知覚、操作し、術式を以て世界に干渉する強力無比な"魔法"を扱う、
***
────"魔法"。
其れは、物理法則の様な"世界の法則"の中でも、特に大気や生物が生み出す"魔力"を依代とした法則。
魔力を依代にする──と言うのは同じだが、それらは大きく分けて四つに分類される。
一つが"
別名:
それらを扱う者達は主に、【太陽教会】と言う組織の一員なのだが…。
まぁ、其れは今は置いておいてもいいだろう。
また、魔法は担う力によって魔力に形を与えた際の色が異なり、神聖術を扱う神官達は【
次に"
世間一般的には"禁術"とされる、嫌われ者達の魔法。
魔法の中でも、特に人間の肉体や精神を"侵す"者であり、大抵の魔法とは違い、死後でも力を発揮する。
更に言うならば、ある一定の基準を超えた呪術の熟練者からしてみれば、「呪術とは"死後にこそ"輝く。死後にこそ、本当の意味で"人を呪える"」のだそうだ。
然し、両者息絶え、勝者の居ない戦いとは、権力者にとっても、多くの人間にとっても望む物ではなく
世間的に"呪術"は、担い手である呪術師と同じく、"忌むべき物"として扱われる。
魔力の色は【
3つ目は"
其れは"神聖術"、"呪術"、そしてもう1つの"魔術"とは違い、人間以外の────魔族や怪魔、魔物にのみ許された第四の魔法である。
人間の扱える3種の魔法とは異なり、自然界の魔力を含むエネルギーを取り込んでは、自らの内で闇術の【漆黒】の魔力へと変換し、そしてそれを行使する。
また、
そして、今回の王種討伐の原因となった呪いもまた古代の闇術であり、吸血鬼の様に青ざめていたスヴェッタの顔色は、この魔力の色が原因であるだろう。
───そして最後。
魔法において最も巨大な技術体型にして、最も基礎的な魔法。
それが、"魔術(まじゅつ)"だ。
魔力を適切な量、適切な式で摘出、操作し、自らの望む事象を引き起こす。
その【
───達人レベルであるならば、天変地異すら引き起こす事が可能であるそうだ。
神聖術の様に
扱うものたちの多くは、世界各所に点在する【魔術学校】を卒業し、そして政府の要職であったり、軍隊の
***
────そして其の魔術を扱うのが、目の前の吟遊詩人…いや、"魔術師"オルペというわけだ。
アンリ「勿論。というか君、魔術のマの字もない村とはいえ、隠す気が一切無かったろ。」
オルペ「──まぁ、そうだね。魔力を感知できる人間はこの辺りには居ないから、居たとしても、"この村には魔術師がいるぞ"って威嚇をしておいた方が、村に危険が及ぶ事は少なくなるだろう?」
オルペ「そして何よりも、旅人くんにだけは言われたくないな…。」
オルペ「私が君の実力を知れたのは、溢れ出すその"魔力"だよ。」
アンリ「────…あ〜…成程ね?」
アンリ「…それにしても、どうして魔術師様が吟遊詩人になんて?」
オルペ「順序が逆さ。
"あっはっは"と、調子を取り戻した様に、わざとらしい、大振りな動きでオルペは笑い
そしてひとしきり笑った後に、「ふっ」と白い息を吐き、そして、表情を一転、ただでさえ"伊達男"な面を、凛々しい顔立ちへと変化させ…
誤魔化すような笑みを浮かべているアンリを逃がさぬ様に一言。
オルペ「───君、"呪術師"なんだね。」
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