第28話

いつもより断然早いスピードで着いた公園で彼女が指を指した木の下を手当たり次第に掘っていく。


大きな木だから木の下と言われても具体的な場所なんて分からない。とりあえず根っこがないところ探しては掘ってを繰り返す。



十分ぐらい掘り続け、コツと不意に何か固いものが当たった気がした。


確かにそこだけなんだか土が柔らかくて掘りやすい気がする。


「これは...生きたい貯金?」


きっと彼女のものであろう、小さく折り畳まれた折り紙がたくさん入っている瓶が出てきた。



そして瓶が全部貯まっているのを見て僕は酷く安堵した。


全部貯まったんだ。彼女は死んでもいい、と思えるぐらい幸せで溢れることが出来たんだ。


瓶を開け、紙を1枚1枚開きながら確認する


『今日は同じクラスの男の子に会った、同じ

クラスの人と初めて会えて嬉しかったな。』




『今日は初めて自分の考えを人に言った。自

分の考えを理解してもらえるってすっごく嬉

しいんだな。』





『私の絵を描いてくれるって!あの男の子の

絵がすごく好きだから嬉しかった。』





『あの男の子が私の言葉がきっかけで文化祭

のリーダーになったんだって!自分がきっか

けで変わろうって思って貰えるのすごく嬉し

い。』









なんだ、ほとんど僕とのことばっかりじゃん。





そう思うといつの間にか涙がどんどん溢れてきた。


彼女が死んでから初めての涙だった。


今までは涙が出ることなく、自分の受け止め具合に驚いたものだ。


でもそれはきっと受け止めたのではなく、実感が湧いていなかったから。


涙を流すことでようやく実感が湧き、受け止める準備ができた。



「ありがとう。ありがとう。」


瓶を抱えながら涙を流し続ける。


ふと他のものと違う色の紙が混ざっていることに気がついた。


それを取り出し、広げると、二人で撮った写真を現像したものだった。



なんとなく写真の裏を見る。




『幸せをありがとう。』





こちらこそだよ。


そんな僕の涙ながらのメッセージは彼女に届いただろうか。



暖かい風が吹いてきて、僕の涙をそっと拭ってくれた気がした。

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