第19話 とある病室で

病室のドアが開く。

そこには疲れ切った様子の母がいた。

勝手に病室を抜け出した娘が夕方になってようやく帰って来て、酷く安堵した表情をこぼす。


しかし、それは一瞬だった。


すぐさま焦った顔に変わり、娘の元へ駆け出す。


娘が泣いていたからだ。


「どうしたの?何があったの?」


「…お母さんには関係ないから。」


娘は病気になってからすっかり変わってしまった。前は明るかったのに、暗く、冷徹な目を母に向ける。



「関係ないことないでしょ。最近よくいなくなると思えば今日は泣いて帰ってくるし…」


年頃の娘には少し過保護な対応かもしれない。そもそも病気じゃなかったらこの時間帯に家にいない、なんてことは日常茶飯事であって、何も心配することはないのであろうに。


「いいから。大丈夫。お母さんが心配することじゃないから。」


「ちょっと!」


このすれ違いはいつから始まったのだろうか


病気が見つかったときか、

病気の進行を知らされたときか、

よく病室を抜け出すようになってからか。


ただ一つ分かるのは、娘は病気以外で何か悩みを抱えている。そのことだけだった。

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