第3話

帰り道の公園。僕の居場所。公園にある机とベンチで僕はいつもすることがある。

いつからだったかは覚えてないけど、気がついたら日課になっていた。


誰にも言わない、自分だけの心の拠り所。

ここですることはある意味自傷行為なのかもしれない。そんな馬鹿げたことを考えながら僕は今日もベンチに腰掛け、鞄から机にペンと折り紙を取り出す。


ささやかに風が吹いている。

今日はいい天気だ。


そんなつまらないことも思い浮かべながら今日1日であったことを振り返り、折り紙にペンを走らせる。


今日の自分を見失わないように。ゆっくりと、時間をかけて。






「何してるの?」


心臓が跳ねた。ここで声を掛けられたことなんてなかったから。



「どちらさまですか?」


改めて顔を見る。そこに経っていたのは同い年ぐらいの、女の子。



「やだなぁ。私たち同じクラスだよ。2年2組の大内七海!」


予想外だった。いくらクラスの端っこにいる僕でもクラスの人の名前ぐらいは覚えてる…はずだ。しかも、ほぼ初対面であるはずの僕に明るく声をかける、そんな人がクラスの陰に潜んでいるはずがない。本当に僕は覚えていないのかと自分の記憶力に自信がなくなってきた。



「ほんとに?」


つい疑うような声になったのは許してほしい。だっていくら過去を漁ってもこの顔と名前が出てこない。

「ほんとだよ~。悲しいな〜。名前も顔も、覚えられてないだなんて!」

「ほんとにごめん。」


そうやって彼女は僕を焦らせる。

思い出せ、思い出せ、と脳をフル回転させるが、やっぱり出てこないものは出てこない。


「まぁ、私学校行ってないんだけどね。君が知らないのは当然だよ。ごめんね。ちょっと意地悪しちゃった。この前の球技大会の写真、先生に見せてもらったんだ。あの写真の端っこに写ってたのって君だよね?」


クラス写真で少しみんなと距離を置いた僕、逆に目立ってしまうという少し苦い思い出だ。

まだ日も経っていないせいか、その写真を見た時の感情がまたぶりかえしてくる。




そんな僕を置いて彼女は嬉しそうに、楽しそうに笑った。


ここから僕たちの物語は始まった。


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