初任務6

 それから暫く走行した車はとある倉庫へと到着。

 だがそこにいたのは、辺り取り囲む複数台の車両と制服またはコーチジャケットを着た人物、そして完全武装の隊員だった。車内からそんな彼らへ視線をやっていたエバは袖章とジャケット、車両のそれぞれに書かれたFSAという文字を見ては微かに頷く。


「なるほど」

「行くわよ」


 そんなエバを他所にリサはそう言うとシートとセンターコンソールの間へ手を伸ばし一本の刀を取り出した。深緋色のような落ち着いた赤で梨地塗りされシンプルな装飾、例え素人が目にしても見事だと分かる鞘に納められた刀。


「なるほど」


 それを目にしたエバは先程の言葉の意味を理解し一言そう呟いた。

 そして車を降りた二人はまず担当者の元へ足を進めた。リサは刀を右手に、エバは刀袋を肩にかけながら。


「ダロン警部」


 リサの声に振り返ったのは一台のFSA車両の傍で完全武装した男と話すスーツ姿にサングラス、白髪交じりのオールバックの熟練した刑事という雰囲気の男。


「あぁ。来たか。彼はSAU【特殊急襲部隊】のジャックだ」


 ダロンが話しをしていた囲み髭の男を紹介すると二人は手短に握手を交わした。


「ではすぐにでも実行できるよう準備をしてくる」

「頼んだ」

「状況は?」

「最近やばいヤクが製造されたという情報を掴んでな。それを全区のFSAと協力して追ってたんだが」

「それがあの中にあんのか?」

「あぁ。――新入りか?」


 先回りするように質問をしたエバをサングラス越しに見つめながらダロンはリサに尋ねた。


「そうよ。あたしの新しいパートナー」

「マキはどうした?」

「彼女は暫く他区にいるの。それより続けて」

「あぁ、そうだな。一応第二区でそのヤクの製造場所と製造者、出荷前の大量のブツを押収した訳だがサンプルとして販売相手のリロリツェファミリーに渡してた分が残ってた」


 ダロンは倉庫を指を振りながら何度も指した。


「ラスト一本だ。幸いにも製造方法は捕らえた奴以外知らん。だがあれをこのまま逃がせば複製されちまう可能性もある」

「ヤクなんてこの世界に腐る程あるのに今更一種類増えただけで何か変わんのか?」

「一種類でも、一つでも多くヤクを減らしそれを使う奴を減らす。それが組織の資金を減らす事にも繋がる。そしてなによりそれが俺らの仕事だ。って言うのは置いておいてだ。あのヤクは体に打ち込むと常識外れに筋肉が増強され錯乱状態になって辺りの人間を敵だと思い込み暴れまくるらしい」

「んなの誰が使うんだよ」


 その説明に呆れ気味の声を出すエバ。


「知らん。だがそんな物を放っておくわけにはいかん。それにこれから更に研究が進めばもっと危険なモノになりかねんからな。失敗は出来ん。だから万全を期す為にお前らを呼んだ」

「作戦は?」


 状況は分かったとリサは本題へと入った。


「単純だ。この倉庫は正面と反対側に出入口がある。そこから同時にSAUが突入する。俺はジャックと正面、お前らは反対側だ。いいか。最優先はヤクの破壊だ。だが中にはリロリツェファミリーの幹部がいる。そいつを殺さずに捕えられれば最高だ」

「本命はそっち?」

「いやヤクだ。だが無闇矢鱈に手出ししない理由はそいつだ。リロリツェファミリーは最近徐々にだが力をつけ始めてる。このまま力をつければ他の組織とぶつかるのは時間の問題だ」

「組織の抗争はひでーからな」

「あぁ、その通りだ。よし! それじゃあ用意が出来次第、突入して確保する。お前らの出番は無いだろうが気は抜くなよ。なぁに簡単な仕事だ」


 新人のエバに気を使ったのだろうダロンは彼女の肩を軽く叩いた。だが当の本人は緊張の類は全く感じていなかった。

 それから長針が五歩も進まぬうちに、複数名のSAU隊員に続きエバとリサは倉庫裏手出入口の配置についていた。


「配置につきました」


 先頭の隊員がそう伝えると無線機にジャックからも準備完了の返答が届く。それを聞いた隊員がハンドサインを出すと半分が両開きドアを挟み向こう側へ。その後、隊員の一人が手早くドアのラッチ部分と蝶番にテープ状の爆薬を設置するとそれをジャックに報告。


「三、二、一」


 カウントダウンのゼロの代わりに爆音が響くと同時にドアは吹き飛び、倉庫内へスタングレネードが投げ込まれた。地面に落下する音の後、一瞬の間を置いて轟音が鳴り響き閃光が辺りを突き刺す。

 それを合図に部隊は怒涛の如く突入を開始。


「FSAだ!」


 ダロンとジャックの怒声直後、倉庫内は瞬く間に銃声で埋め尽くされた。倉庫中央でジープを盾にしながら引き金を引く彼らとそれに応戦するFSA。


「おい! 急げ! さっさとしろ!」


 そんな銃撃戦に交じり中央からは時折、急かすような怒鳴り声が聞こえた。防戦一方な上に包囲され数も劣る。FSAが徐々に前線を上げ制圧するのも時間の問題だった。

 だが勝ち目のない銃撃戦は彼らの最後の抵抗という訳ではなく。


「くそっ! 何だこれは?」


 中央からの銃撃が止みFSAはジープの間を慎重に覗き込んだ。

 だがそこに広がっていた光景は転がる死体と薬莢、それを染める鮮血。そして降伏する彼らの姿。ではなく地面に雑に空いた穴だった。口を開けた穴へ近づいたエバが覗き込むとジャックのライトに照らされ、向こうに流れる汚水と通路のようなものが見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る