第3話 最弱パーティ

 翌朝。僕は街の大通りにあるシュヴァリエ・ガーデンの拠点にいた。


 ここはお城ですかという疑問を投げかけたくなるくらいに広くて豪華なロビーは冒険者たちでごった返していた。


 拠点の広さもさることながら、冒険者の数も規格外だ。


 流石はブリストン最大にして最強クランだなぁ。



「……でも、まさかシンシアがシュヴァリエにいたなんてなぁ」



 改めて昨日の出来事を思い返す。


 予想外の王手クランの名前が出てきて少し度肝を抜かれちゃったけど、これも何かの運命だと思って入団試験を受けることにした。


 まぁ、合格する可能性はかなり低いと思うけどね。


 クランの職員っぽい人に入団試験の件を伝えると、長蛇の列が出来ている受付に案内された。


 流石はシュヴァリエ。入団希望者も桁違いだ。


 そこで受付票に名前と冒険者認識票に記載されている登録番号を書き込む。



「ありがとうございます。それではこちらのカードを持って、試験開始までお待ちください」



 受付嬢さんにカードを手渡された。


 55と書かれている。



「そちらの番号はパーティの識別番号です。同じ番号を持った残り3名の方とパーティを組んで試験に挑んでいただきます」

「なるほど、わかりました」



 どうやら試験は4人ひと組で行われるらしい。


 試験内容を聞いたところ、「D級ダンジョンの第1階層にいるゴブリンを10体倒してくる」らしい。


 現場には試験官がいて、参加者の戦闘技能が逐一チェックされるのだとか。


 天下のシュヴァリエの入団試験だし、参加者は強者揃いのはず。相手がゴブリンなら危険も少ないだろう。


 ああ、ソロで模擬戦みたいなハードな試験じゃなくてよかったなぁ!



「皆様、おまたせいたしました」



 と、ロビーに凛とした女性の声が広がった。


 2階の吹き抜けフロアに、紺色の魔法衣をまとった女性が立っていた。



「試験に先立ち、シュヴァリエ・ガーデン第一旅団長、シンシア・マクドネルより試験に参加される皆様にご挨拶があります」

「……え?」



 ちょっと待って。


 今、「第一旅団長のシンシア・マクドネル」って言った?


 数百人のメンバーが在籍しているシュヴァリエ・ガーデンは10人から100人で構成される「旅団」と呼ばれるグループで行動している。


 そんな旅団の中で、選りすぐりの最強メンバー5人で構成されているのが第一旅団なのだ。


 昨日のシンシアの話を聞くに要職についているとは思っていたけど、まさか第一旅団の団長だったなんて。


 ロビーが静まり返ると同時に、吹き抜けフロアにシンシアが現れた。


 第一旅団長として立っているためか、昨日見た彼女よりも凛とした雰囲気がある。


 そんなシンシアと、僕の記憶の中の彼女が重なる。


 なんだか現実味がなかった。 

 幼馴染としてすごく嬉しい反面、憧れの人が遠くに行ってしまったみたいで少しだけ寂しくもある。


 そんなシンシアは、僕たちに簡単な激励の言葉を送り、姿を消した。


 それから、魔法衣のお姉さんから先程受付嬢さんから教えてもらった試験の詳細についての説明があった。


 そして、いよいよ試験の開始。受付時に配られたカードに記載された番号をもとに、即席パーティが組まれる。


 他の3人はどんな人たちだろうとドキドキしていると、早速声をかけられた。



「デズ」



 だけど、僕のそばに立っていたのは意外すぎる人物だった。



「……うえっ!? シンシア!?」

「こ、声が大きい」



 ギョッとしたシンシアが人指し指を唇に当てる。


 マズいと思って慌てて口を塞いだ。


 シンシアは周りに気を使ってか、見つからないように大きめのフードを被っていたけど……後の祭りだった。



「……えっ? ウソ? シンシア様?」

「見ろよ、シンシア様だぞ!」

「やべぇ、近くで見ると綺麗すぎる……」

「声をかけてる少年は誰だ? 知り合いか?」

「知らねぇ。知り合いにしては地味すぎる気がするが」



 ざわ。ざわざわざわ。


 まずいまずい。ちょっとした騒ぎになっちゃってる。



「す、すまないデズ。直接会いにいくのは良くないかと思ったのだが、どうにも落ち着かなくてな」

「い、いや、大丈夫。あはは」



 参加者たちには遠巻きに見られてるだけだし、我慢すればいいだけだ。


 ちょっと恥ずかしいけど、声をかけてくれたのは嬉しい。 



「頑張ってくれデズ。陰ながら応援している」

「あ、ありがとう」



 シンシアはそれだけ言うと、ニコリと微笑んで立ち去っていく。


 だがその去り際、彼女は僕の耳元でそっと囁いた。



「……子供の頃に交わした約束を果たそう」



 ドキッとしてしまったのは、吐息を感じるくらいに顔を近づけられたからというわけじゃない。


 子供の頃の約束というのは、「一緒にS級ダンジョンを踏破しよう」と語り合った、あの約束のことだろう。


 まさか覚えていてくれたなんて──嬉しすぎる。



「……よし、頑張ろう」



 なんだかめちゃくちゃ気合が入った。


 さっきまで「天下のシュヴァリエだし、万が一にも受かれば嬉しいな~」程度に考えていたけど、絶対合格してやる。


 シンシアとの約束を果たすために!



「あのっ!」

「んぎゃっ!?」



 至近距離でいきなり大声をあげられて悲鳴が出てしまった。



「ええっと、55番の人だよね?」

「……え?」



 声をかけてきた女性が手にしていたのは、僕と同じ55の番号が記載されたカードだった。どうやら彼女が即席パーティメンバーのひとりらしい。



「55番のカード、持ってるよね?」

「あ、はい。そうです。55番です」

「ああ、よかった~! やっと見つかった!」



 金髪ショートヘアの女の子が、愛くるしい笑顔を覗かせる。


 なんとも可愛らしい少女だ。


 背は僕よりも小さくて肌も白いけれど、冒険者としては特段珍しいものでもない。地下に潜る事が多いので小柄な体格のほうが何かと便利だし、陽の光を浴びないので日焼けすることもないのだ。


 まぁ、これくらい可愛いのは珍しい部類だけど。



「はじめまして。あたしの名前はリンだよ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします。ぼ、僕はデデ、デズモンドです」

「デデデズモンドくんか」

「デはひとつです」



 腰に剣を下げているので、リンさんは前衛アタッカーの剣士だろう。


 身につけている装備が簡単な胸当てだけなのはちょっと気になるけど。


 多分、俊敏力を武器にした戦い方をするんだろうな。


 だけど、肌の露出が多くて、ちょっと目のやりどころに困る。



「あの、他の人たちは?」

「ん。もう合流してるよ。ほら、後ろに」



 リンさんが背後に視線を送る。


 水晶が入った杖を持った少女と、鎧に身を包んだヒゲモジャの男性が立っていた。



「は、はじめまして。ドロシーです」

「ガランドだ。よろしく頼む」

「デズモンドです。よろしくおねがいします」


 それから、簡単に自己紹介を交わした。


 褐色肌のドロシーさんはハーフエルフの魔術師。

 大きな盾を背負っているガランドさんは、前衛でモンスターの攻撃を引き受ける盾師らしい。


 ガランドさんはドワーフ族かな?


 ちょっと失礼して、【鑑定眼】でステータスを覗いてみた。


 

 名前:ガランド・レッドウィング

 種族:ドワーフ

 職業:盾師

 レベル:9

 HPヘルスパワー:30/30

 MPマジックパワー:20/20

 生命力:3

 腕力:10

 知力:1

 精神力:2

 俊敏力:7

 持久力:10

 運:8

 スキル:【パリィ】

 状態:普通



「……え」



 びっくりした。


 盾師はパーティの要とも言える役職で、彼らがいかにモンスターの敵対心ヘイトを管理し、攻撃を耐えられるかで戦闘の難易度が大きく変わる。


 その盾師の最も重要なステータスが「生命力」だ。

 最大HPに直結する生命力が高くないとモンスターの攻撃に耐えられず、瞬く間に戦闘不能に陥ってしまう。


 その重要な生命力が「3」しかない。


 あの、後衛支援職の僕より低いんですけど。


 ちょっとだけ嫌な予感がして他のメンバーもざっとステータスを確認したけど、全員僕と似たような能力値だった。


 多分、最下位ランクのD級ダンジョンの探索でもきついと思う。


 というか、天下のシュヴァリエ・ガーデンの試験を受けにくる冒険者って、強者ばっかりだと思っていたんだけど、そうでもなかったんだな。



「えへへ、どうやら全員駆け出し冒険者っぽいけど、試験に合格できるようがんばろうね!」

「は、はいっ!」

「うむっ!」



 僕の心配をよそに、気合を入れるメンバーたち。


 彼女たちから視線で同意を求められたので、僕も「が、頑張りましょうね!」と笑顔で答えた。


 やる気はあるみたいだから、なんとかなる……わけないよね。



 このメンバーでどうやって試験をクリアしよう。

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