第24階 新しい力

「ただいま」

「おかえりなさい。マスター」

 

 ダンジョンの屋上。

 坑道を解放してから3日後の早朝にゼノはグランに乗って、ダンジョンへと戻ってきていた。

 その背に乗っているのは3人。

 

「マスター、その方がドワーフ……ですか」

「ウッス! よろしくっス!」


 外見は人間の少年にも見える。

 背はゼノより低いがドワーフらしい髭も生えておらず、人間の子供だと言われてもきっと納得してしまうだろう。

 

 目も髪も赤く、鉄でできた傷だらけの額当てが鈍い輝きを放っている。

 鍛冶道具を背負った彼の荷物は大きい。

 

「なるほど。暑苦しいですね」

「クラリス、せめてもっと優しく言ってあげてね」

「マスター。暑苦しいですね」

「うん、ちょっと待って。それはパリントのこと? それとも僕?」

 

 依頼の報酬として、しばらくのドワーフ派遣。

 その話をしているなかで、唯一名乗りを上げたのが彼「パリント」だった。

 

「かなり若いけど実力はかなりあるんだって」

「いやー、そう言ってもらえると嬉しいっスね~」

 

 カルトナに言わせれば、若手の中で鉄を打つ実力は十分高いらしい。

 腕が良いなら、文句はないよ。とゼノは二つ返事で彼の"申し出"を引き受けたのだった。


「じゃー俺はもう部屋に戻りてーんだけど」

「うん、お疲れ様。エアリス」

 

 疲れたと欠伸をするエアリスをマスタールームへ転移させる。

 今回頑張ってくれたしね、ゆっくり休ませてあげよう。

 

「クラリス。ダンジョンに何か変わったことはあった?」

「いいえ。特にダンジョンに変わりはなく、最終到達階層が更新されることもありませんでした」

「そうなんだね。それなら早速始めようかな」

「始めるって何をッスか?」

「君の作業場造りだよ」

 

 ゼノが魔本取り出して、ダンジョンの中に新しい部屋を創り出す。

 そこは正当なダンジョンルートからはたどり着くことの出来ない、いうなれば裏部屋。

 マスタールームに扉を取り付け、その部屋と行き来ができるように造り変える。


「じゃあ見てみよう」


 ゼノが指を鳴らすとその場にいた全員がその作業場に転移する。

 その部屋は変哲のない、広くはあるがただの石造りの部屋だ。

 

「スッゲーすね! でも、ここはなんもないっスよ?」

「部屋というよりは石の箱みたいですね」

「今から部屋を作るんだよ、必要なモノがあったら教えてね」

「必要なモノっスか。そうっスね~」


 そう言ってパリントは欲しいものを言い始めた。

 炉はもちろん、金床から食事を取るためのテーブル。部屋を石壁で区分けして寝床も作る。

 簡単な調理場も作ったし、何なら天窓も。可能な限りパリントの要望には応えた。


「はー、もうスッゲーって言葉しか出てこねぇっスね」

「喜んでくれて何より、じゃーグランもこの部屋に住もうか」

「え゛ドラゴンと一緒の部屋っスか!?」 

「大丈夫だよ、グランはおとなしいし。なにより……」


 ゼノの指示を受け取ったグランは体を大きく震わせた。

 すると岩を纏った体からいくつかの赤みがかった石が幾つも零れ落ちた。

 

「じゃーはい、これ」

「はいこれ、って……これ鉄鉱石じゃないっスか!」

 

 鉱石を身に纏っているだけあって、グランは元々鉱石を創り出すことができる能力を持っている。

 これは従魔化で得た能力ではないけど、十分すごい能力だ。

 

 そこにパリントの鍛冶能力を加えれば、いくらでも装備を作り出すことができる。

 お金を払わずにダンジョンで良い武器を拾えるなら、それはダンジョンの強みになる……はず。


「まぁ襲ってこないなら別にいいッス!」

「じゃあ、鍛冶はお願いね。燃料の石炭もグランが出してくれるから」

「ウッス! 頑張るっス!」

 

 早速、持ってきていた鍛冶道具を広げ、整備を始めるパリント。

 そんな彼の邪魔しないようにと、マスタールームへゼノ達は戻った。

 ソファーではエアリスが横になって寛いでいる。

 

「そうだクラリス、これを見てどう思う?」


 ゼノは、エアリスの石化した羽根を慎重に机の上に置いた。

 クラリスはそれを手に取り、じっと眺めたが、首を振り、再び机の上に戻した。

 

「マスター。これは羽根の化石ですか?」

「いや、これはエアリスの羽根だよ」


 そしてゼノは坑道であったことを全てクラリスに話した。

 坑道でドラゴンと戦ったこと、そして謎の二人組に出会ったこと。

 そして蛇のような体を持った男が羽根を石に変えた事。


「……なるほど、そのようなことが」

「そう、だからクラリスは何か知らないかなって」

「申し訳ありません、マスター。私はその事象に明確な答えを持っていません」

「そっか……」


 結局手がかりはない。

 彼らの目的を、正体から多少探れると思ったんだけど。


「ですが、マスター。調べることができる可能性のある場所はわかります」

「場所……?」

「『スノーリズン魔法学校』そこには、古今東西あらゆる魔法の文献が集められている」

「魔法の文献……!?」

「とされているみたいです」


 あぁ……あくまで可能性ってことね。

 でも、彼らの姿が魔法で成ったものなら、訪ねる価値はあるか。

 

「魔法の練習も兼ねて入学してみるのはいかがですか?」

「入学ったって、ここをそんなに長く離れるわけにはいかないしなぁ」

「魔法学校は1週間ほど体験入学を毎年行うようです」

「体験入学! そういうのもあるの?」

「今年の体験入学は近いうちにに行われるようですが試験もあるようです。申し込みされますか?」


 申し込みはクラリスに任せれば何とかなるとして、前々から考えてた魔法の勉強の機会がこうも早く回ってくるなんて……。

 ……良いね、今回の件で実力不足も自覚出来たとこだったし。


「わかった、魔法も学びたいから申し込みをお願いできるかな」

「かしこまりました」

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