決まってカフェラテ

佐久間清美

本編

プロローグ

ご注文は

「いらっしゃいませ」


「アイスコーヒーで」


「かしこまりました」


 24歳。


 職業、カフェの店員。


 親戚の経営する、という注釈がつく。


 大学4年生になってもやりたいことが見つからず、就活も上手くいかなかった私を見かねた親戚が声をかけてくれた。


 元々高校生の頃からアルバイトしていたし。


 流れるように就職。


 そして現在に至る。


 なんの変哲もない日常。


 他の人にとっては退屈に感じるかもしれないけど、私にとっては大切な日常だ。


 安定って素晴らしい。


 平凡って愛おしい。


「げっ……」


 透明なドアの向こうに見えたアッシュグレーの髪。


 私に向かって手を振るウルフカットの女性。


 夏の日差しを浴びて、髪の毛が輝いて見えるのは多分錯覚。


麗奈れいなちゃん、声」


「あっ、すみません」


 後ろで作業をしていた店長さんが笑顔で注意されてしまった。


 この人、滅多に怒らないからこそ、怒ったときが滅茶苦茶怖いんだよなあ。


 じゃなくて。


 カランカラン。


 ドアにつけられた鐘が鳴ると同時に、女性が入店してくる。


「いらっしゃいませ」


 基本的に、お客様は神様。


 たまに例外はあり。


 理不尽に怒鳴り散らす人とか、他のお客様の迷惑になるような人とか。


「麗奈ちゃん、久しぶり」


 外の日差しに負けないぐらい明るい笑顔を浮かべた人物は、そういう人じゃない。


 でも。


「昨日も来ましたよね」


 私にとっては、かなり迷惑な人。


「うん」


 うん、じゃないよ。


「ご注文は」


 私の平凡にヒビを入れてくる人。


「カフェラテで」


 毎日同じ時間帯にやって来て、飽きずにカフェラテを注文してくるこの人は、


「あと、これ」


「今日もですか……」


 代金と一緒に連絡先を書いたメモを渡してくる。


「うん、だって麗奈ちゃんが連絡くれないんだもん」


 何故だか私を口説いてくる、厄介な人なのだ。

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